狂戦士と冒険者ギルド
「はぁ、最悪だ……」
武器をもらった後、私は宿で一泊してからギルドに向かうことにした。ゴルドが用意した棍棒の視覚的効果はすさまじく、私は誰からも舐められることなく街を歩いている。
そう言えば冒険者ギルドというのは物語で読んだことはあるが、実際に行くのは初めてだ。やはり冒険者というからには荒くれ者が多いのだろうか? それとも奇人変人の集まりなのだろうか? そんな期待と不安を胸に歩いていくと、やがてギルドの建物が見えてくる。
ギルドには冒険者用の宿や酒場、アイテム屋などが併設されているため建物がとても大きい。そこには確かに荒くれ者っぽい外見の人が出入りしているし、酒場は昼間だというのに賑わっているし、私が今まで見たことがなかったような珍妙な格好もちらほら見かけるのだが……
「お、何だあの棍棒は」
「まだ十代の娘なのに、すげえ武器だぜ」
「容姿はかわいらしいし、いい服を着てるのに、あの棍棒に全部持ってかれるんだけど」
「見たことないけど新人か?」
「いや、他国から来たのかもしれん」
残念ながら一番外見で目立っているのは私だった!
店に一歩入った瞬間、喧噪に満ちていた冒険者たちの話題が私一色に染まっていく。嘘でしょ、ここには歴戦の猛者たちが集ってるんじゃないの!?
はぁ、それもこれもほとんどこの棍棒のせいだ。多少脅迫してでも聖剣を売ってもらうべきだった……。
「こんなことならチンピラに絡まれてた方がマシだったかも」
ため息をつきつつも、私は棍棒を手に新規用受付窓口に向かう。そこにはきれいな事務員の制服を着たかわいらしいお姉さんが座っている。はぁ、私もこんな仕事がしたい。貴族令嬢として成績優秀だった以上書類仕事とかも自信はあるし、ギフトの存在を無視してこういうところに就職すれば良かったのでは?
「いらっしゃいませ、本日窓口を担当させていただくミレーヌと申します。新規冒険者登録でしょうか?」
「は、はい」
が、後悔しているうちに声をかけられてしまう。
「ではこちらにご記入ください」
そう言って彼女は私に簡単な書類を差し出す。
『名前:シルフィア 性別:女 年齢:16 ギフト: 』
私はせめてもの抵抗とばかりに姓を書かず(この国では全員が姓を持ってる訳ではない)、ギフト欄を空欄にして提出する。ミレーヌは書類を見ると何かに気づいたように私と書類を何度か見比べ、やがてはっとしたように言った。
「あの、もしかしてローレンティア家のシルフィア様でしょうか?」
くっ、名前と容姿だけでバレたか。まあ同じ王都に住んでるんだから知っててもおかしくはないか。
でも待てよ? シルフィアだと思われてるということは清楚なお嬢様だと思われてる可能性も……
「でしたらちゃんとギフト欄も記入していただかないと困ります」
「うっ」
どうやら私が”
私は仕方なくギフト欄に”
「いや~、ありがとうございます。ギルドとしてもギフト持ちの冒険者様は常に歓迎しているんですよ。やはりギフトを持っていると普通の方とはスタートラインが違いますからね」
「あはは……」
むしろ貴族令嬢としてのスタートラインは破壊されたけどね。
「それにシルフィア様の場合、お噂もうかがっておりますよ。”
「そんなことしてない!」
ちょっと大司教に文句を言っただけなのに、噂に尾ひれつきすぎだろ!
「王都の裏路地で絡んできたチンピラを握力で握りつぶしてミンチにしたとか」
「してないしそんな評判があるやつを普通に冒険者にしちゃだめでしょ!?」
が、私の突っ込みにミレーヌは首をかしげる。
もしかして冒険者って強ければ何でもいいのだろうか?
「そして何よりその手に持っている武器です! 重すぎて普通は武器や防具の一部にしか使えない重鋼で出来た棍棒を軽々と持ち歩くその姿、昨日のことだというのに早くも噂になってましたよ!」
「うげぇ」
ゴルドめ、やっぱりあいつだけは許せないっ! やはり脅してでも聖剣を売ってもらうべきだった……。
「私の耳にも『生まれる身分を間違えた狂戦士』『お嬢様の皮を被った猛獣』『人間兵器』など様々な二つ名が……」
「いや、かわいい女の子にそんな二つ名をつけるなんてほぼ嫌がらせだよね?」
「え、かわいい女の子?」
ミレーヌは私の持つ棍棒をちらっと見て首をかしげた。
「疑問を持つな武器で人を判断するな! ほらちゃんと見て!」
そう言って私は彼女に向かってぐいっと顔を近づける。
これでもあの事件までは清楚で可憐な公爵令嬢で通っていた私に何て失礼なことを。
するとミレーヌは苦笑しながら頷く。
「ああ、確かに顔“は”かわいいですね」
「どういう意味!?」
「いえ、別に他意はないです。言葉通りの意味ですよ」
「そういうのを他意って言うの!」
その辺でようやく私が本気で怒っていることが伝わったのか、ミレーヌは少し申し訳なさそうな顔になった。
「すみません、冒険者になる方はたとえ女性でもかわいいとかきれいとかよりも格好いい、強そうと言われることを好む方が多いもので」
「ふ~ん、そういうものなんだ」
「はい、何と言っても腕一本でのし上がっていく業界ですし、高難易度・高報酬の依頼を受けるには実績や評判を求められますからね」
「な、なるほど」
考えてみれば確かにそうか。
確かに周囲を見回すと、女性の冒険者は大体男勝りなタイプが多く、私のような清楚で可憐なタイプは少ない。
「え、でもあの人は!?」
私は遠くにいる修道服に身を包んだ少女を指さす。
周囲の荒々しい冒険者たちとは違って華奢な体躯でいかにもかわいらしい顔立ちをしている。喧噪に包まれたギルドの隅に咲く一輪の花のようであり、出来れば私もああいう存在になりたかった。
「ああ、アルティナさんですね。彼女は“聖女”のギフトを持っていますからね。正直、下手な評判や実績よりもギフトこそが一番の実力の証明になりますから」
「ぐぬぬ……」
確かに、私も悪い意味でギフトのイメージの強さを実感してきたけど。
やっぱりギフト一つでここまで扱いが変わるのは納得いかないっ!
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