Day16 にわか雨

 夜が明けかけた頃、急に激しい雨が降り始めた。

「こりゃいかん」

 浮き輪売りは屋台のどこかから大きなパラソルを取り出し、素早く開くと砂浜の上に立てた。

「ちょっと雨宿りしていきましょう。こんな時間ににわか雨だなんて、珍しいなぁ」

 来た方を振り返ると、アシカたちが次々に海に戻っていくのが見えた。

 雨はますます激しくなる。雨音はもはやざぁざぁという風情のあるものではなく、パラソルの周囲には水の壁ができる。

「すごい雨ですねぇ」

「本当にねぇ。変な天気だ」

 暇になってしまった浮き輪売りは「今のうちに仕事をしちゃいましょう」と言って、拾った二枚貝を次々に浮き輪に変えてゆく。その手際といったら、何をしているのかさっぱりわからないほどの素晴らしさだ。私に手伝えることはないので、感心しながら彼の仕事を眺めていると、突然両方の足首に締め付けるような感覚を覚えた。

 見ると、砂浜から突き出した手が、私の足首を掴んでいる。

「えっ!?」

 驚いて叫んだところで、ぐっと強く引っ張られた。私はものすごい勢いで、砂浜の中に引きずり込まれてしまった。

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