【徹底討論】本気の公開百合語り ~百合って恋愛? それとも友情?~

 その動画は、【YuriTube】にアップロードされた後に、【Yuritter】で二つのアカウントから投稿リンクが貼られた。百合同人作家の『AKANE』と、百合研究者の『ユリノキ』だ。ユリッターの書き込みは、以下の文面とともに投稿された。


 先日は、私たちの軽率な行動により、多くの方にご迷惑をおかけしました。

 今回投稿した動画は、当時口論になってしまった『百合の恋愛観』について、私たちが今何を思っているのかを改めて語ったものです。

 百合が好きな方、興味のある方はぜひご覧ください。


 動画タイトル『【徹底討論】本気の公開百合語り ~百合って恋愛? それとも友情?~』


 大学の小教室のような場所。向かって左側の椅子には、落ち着いた雰囲気の女性。右側には、ラフな格好のポニーテールの女性が座っている。どちらも、丸いアイコンで顔が隠されており、アイコンにはそれぞれ『ユリノキ』『AKANE』と記されている。


 テロップ『なぜ百合に恋愛が必要なのか』


 AKANE「まず最初に、わたしの立場から話させてもらうと……百合に恋愛の要素があることって、すごく大事だと思ってます」

 ユリノキ「はい」

 AKANE「わたしが小さい頃に観たある作品で、女の子から女の子への強い好意的な感情が描かれていました。それが男女だったら、明らかに“恋愛”と見なされるような描写です。でも、結局その子は別の男の子との恋愛をしました。どうして、男女と女の子同士で扱いが違うんだろう、と思ったのをよく覚えています」

 ユリノキ「確かに、百合と言われる作品でも女の子同士の“恋愛”と明確に言わない作品も少なからずありますね」

 AKANE「そうなんです。それからも、特に小さい頃は異性愛以外の作品に触れる機会はありませんでした。恋愛は男女でするもの。結婚は男女でするもの。今の世の中、まだそういう価値観の中で生きる人は多いと思います。わたしは、百合作品の中で女の子同士の恋愛が描かれているのを見たことで知ったんです。“恋愛は男女だけのものじゃないんだ”って」

 ユリノキ「なるほど……。“同性同士の恋愛がある”という描写が、自分の世界を拡げてくれたんですね」

 AKANE「そうなんです。だから“百合は恋愛じゃないほうがいい”って一言で言われると、それは違うんじゃないかと言いたくなります」

 ユリノキ「……私は“恋愛を否定したい”と思っているわけじゃないんです。ただ、恋愛“だけ”にすることで、逆に見えなくなる関係もあるんじゃないか、って思っていて」

 AKANE「(頷きながら)その気持ちも、今は分かります。前はちょっと……敵視しちゃってたかもしれませんけど(苦笑)」

 ユリノキ「でもAKANEさんの言うように、“恋愛としての百合”っていうのも必要な表現なんだなと、あらためて感じています。すごく重要な要素です」


 テロップ『恋愛だけじゃない百合の魅力』


 ユリノキ「私が最初に出会った百合作品は『ユリみて』だったんです。あの“姉妹制度”の中に、深くて繊細な感情のやりとりがあって」


 画面下のテロップ表示『姉妹制度:上級生と下級生が擬似的な姉妹の関係となり、強い結びつきを持つ制度』


 AKANE「あれって、恋愛じゃないのに、なんていうか、とても濃い関係性がありますよね」

 ユリノキ「そう。女子学生たちが、言葉にできない感情をぶつけ合ったり、支え合ったりするのを見て、“ああ、これも愛情の形なんだ”って思ったんです。姉妹制度ならではの尊敬、嫉妬、安心、不安、正負あらゆる感情が複雑に描かれていて、感情の起伏が苦手な子どもだった私は何度も読んで、様々な感情に打ちひしがれました」

 AKANE「たしかに、恋愛の枠に縛られないからこそ、深く繋がることができる関係ってあるかも」

 ユリノキ「(頷いて)そうなんです。“百合=恋愛”と定義されすぎると、逆にこういう絆や信頼が見過ごされてしまうのがもったいなく思います」

 AKANE「それに『ユリみて』って、姉妹関係以外にも同級生のつながりや他の先輩後輩関係なども、強い信頼で結ばれたりと素敵な関係が多いんですよね。『姉の姉』とか、『友人の姉妹』とか、それぞれ独特の距離感の関係性がまた面白いです」

 ユリノキ「そう! そうなんです。私が特に贔屓にしているのが幼馴染で姉妹でもある……」


 ここで『話が脱線しすぎたので』という説明とともにカットが入った。


 テロップ『恋愛だけでも、恋愛がなくても注意するべきこと』


 AKANE「恋愛以外の百合のエモさも分かるんですけど、わたしがいちばん気になってるのは、“恋愛じゃない”って曖昧にされることです。恋愛っぽい関係を描いておいて、最終的に『これは友情です』って言われると……それって、クィア・ベイティングに近いものを感じるんですよね」


 画面下のテロップ表示『クィア・ベイティング:同性愛をエサにして注目を集めるマーケティング手法』


 ユリノキ「そうですね。曖昧にして責任を取らずにウケを狙おうとすると、現実における同性愛を踏みにじるようなことになりかねません」

 AKANE「もちろん友情も大切です。でも、“恋愛じゃないからこそ良い”って価値観になっちゃうと、わたしは嫌だなって思います。そういう表現が繰り返されることで、“女の子同士の恋愛は認められない”っていう無意識の偏見が強化されてしまう気がして……」

 ユリノキ「逆に、私が懸念してるのは、“恋愛だけが良い”と受け取られかねない語り方です。恋愛が最上で、友情などの感情は“それ以下”って序列になってしまうことが嫌ですね」

 AKANE「ああ、分かるかも。男女のバディものでも、最終回で急に結婚したりすると“恋愛関係は解釈違い”って言われたり」

 ユリノキ「まさにそれです。恋愛を認めることと、恋愛以外も大事にすることは両立できると思ってます。こと男女仲に関しては、恋愛は友情より上って思われることが多いじゃないですか。恋人ができたら友達より優先するとか、異性の友人とは縁を切るとか。私はそんな恋愛至上主義に抗いたくて百合の恋愛以外の関係性に注目しているんです」

 AKANE「多様な形の百合を大切にしたいということですよね。ひいては百合以外を大切にすることにも繋がる。恋愛だけに偏っても、恋愛を避けすぎても良くないということですかね」

 ユリノキ「まとめてくれてありがとうございます」

 AKANE「わたしは引き続き、恋愛百合が好きなのは変わりませんから」

 ユリノキ「ええ、自分の好きな百合を推していきましょう」


 テロップ『おわりに』


 AKANE「本日はご視聴ありがとうございました。よければ感想や意見、コメント欄に書いてもらえると嬉しいです」 

 ユリノキ「みなさんも是非、いろいろな百合語りを聞かせてください」


 テロップ『おしまい #本気の公開百合語り #AKANE #ユリノキ #百合論争』

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