人狼ゲームに巻き込まれたがどこかおかしい③
琉加と穂風は説明を聞いた後村長家を出た。 客だというのに見送りはなく、先程の陽気な男も戻ってくることはなかった。 ただ気になるのはやはり先程言われた村長の言葉だ。
「何か不思議なことを言う人だったな」
「つまり嘘でも『はい』って答えないといけないということ?」
「そういうことだろ。 何故なのかは分からないが」
釈然としないまま村長に教えてもらった行造の家へと向かった。 穂風は考え込んでいる様子で話しかけても上の空。 こういう時はそっとしておいた方がいいと思っているうちに行造の家に着いていた。
「うわ、凄い家・・・」
行造の家は一見して異様だった。 穂風も少し表情が強張っている。
「古びた家なのに窓やドアには鉄製の板が何枚も打ち付けられているな」
「頑丈そうに見えて少し不気味」
「でもこの村には夜に獣が出るんだ。 ここまで対策していてもおかしくはない」
「確かに。 なら行造さんは人間なんだろう。 怪しい者リストに名前はなかったし」
聞き込みをするため呼び鈴を鳴らそうとした。 すると穂風に引き留められる。
「悪いんだけど行造さんの質問には琉加が答えてほしい」
「・・・いいけど」
何となく腑に落ちないがそれで穂風は満足した様子で呼び鈴も琉加が押した。 しばらくすると複数ある鍵が一つずつ開いていき一人の老人が現れる。 琉加と穂風をゆっくりと観察し口を開いた。
「・・・アンタたちは余所者か?」
「はい」
「村長に頼まれて犯人を捜しているのか?」
どうやら話は伝わっているようだった。
「はい」
「この村へ来て一度たりとも嘘をついていないか?」
「・・・はい」
何故自分に答えさせたのか何となく分かった。 おそらく『はい』で答えると穂風では嘘をついてしまう可能性が高いと考えたのだ。 しかしだからどうだというのだろうか。
正直嘘をついたとしても大して問題があるとは思えない。 この村では嘘をつくと何かペナルティでもあるのだろうか。 ただそうすると穂風は既に嘘をついているのだ。
何故か穂風は琉加と行造の顔を凝視していた。
「そうか。 それならいい」
行造が視線をそらすと穂風は安堵したように深く息を吐いた。
―――先が思いやられる・・・。
「ちょっと待っていなさい」
ひとまず自己紹介を終えると行造は家の中へと入っていった。 行造が片手に一枚の白い紙を手にしているのが見える。
―――あれは何だろう?
そしてしばらくすると先程持っていた紙と全く同じ三枚の紙切れを持ってきた。
「これは?」
それらを渡され観察する。 綺麗な白色の紙で染み一つないどころか、紙の繊維質すら見て取ることができない。 まるで白色の下敷きのようだが手触りは紙に近い。
草書体で何か文字が書かれているが何と書かれているのかは分からなかった。
「それは占い紙だ。 相手の嘘を一度だけ見破ることのできる道具だ」
「「・・・!?」」
「ここぞという時にその紙を握り締めながら相手に質問しなさい」
「分かりました。 でも貴方は一体・・・」
「私はただの占い師だよ。 夜の外が怖くて引きこもっている何もできない老人だ。 私の代わりにその紙が役立ってくれるだろう」
「占い師・・・」
「ただ一つ注意点がある。 村長から村人の性質について詳しく聞かされては・・・」
「はい、聞いていません。 行造さんのもとへ行け、ということしか。 性質なんてあるんですか?」
「なら村人の性質を説明しよう。 まず私が占い師で嘘を見破ることができる。 次に村のマスターキーを持っていて獣の動きを封じることのできる人がいる」
―――その人がリストにあるもう一人の協力者ということか。
―――獣を仮に特定して動きを封じるとする。
―――翌日被害者が出なかったらソイツが犯人だと分かるんだな。
「そして次に今渡した占い紙を無効化する人。 これは獣側に利する人だと思っていい」
「つまり嘘をつく人ということですね」
―――人狼ゲームでいうと狂人っぽい役割の人だな。
―――・・・そもそもどうして行造さんは詳しく村人の性質を知っているんだろう?
「獣側につく協力者がいるんですか!?」
「どうして獣の味方をするのか分からないがそういうことになる。 ただその人は普通の人だから動きを封じたとしても夜の襲撃は防げない」
「何か混乱しますね・・・。 ただの頭のおかしい人としか」
琉加が考えている間に穂風と行造は話を進めていた。
―――というか行造さんは最初から占い紙を持っていたということは僕たちが嘘をついていないか試していたのか。
―――『はい』しか答えられない僕たちに・・・。
「残りは4人のうち3人がただの村人で一人が獣、つまり狼だ」
一通り説明し終えると行造は家の中へ戻ろうとする。 それを穂風は引き止めた。
「あ、待ってください! 他に何か情報はありませんか?」
「見ての通り私はこの家からほとんど出ない。 襲撃だけは避けたいからな」
「次は誰のもとへ行く、とかは・・・」
「自由でいい。 残念ながら怪しい者は分からない。 村長は私を信用しているからここへ寄こしたんだろう」
「そうですか・・・。 貴重な情報をありがとうございました」
「私にできることはその占い紙を手渡すことだけだ。 あとは健闘を祈る」
「はい」
「あぁ、そうだ。 先程のことで一つ訂正がある。 占い紙を無効化する者は必ず嘘をつくとは限らない、ということだけ。 それじゃあな」
そう言うと行造は家の中へと戻っていった。
「いいものをくれたね。 たった三枚だけど」
「ただのお経みたいな文字が書かれた紙切れ。 本当に嘘を見抜くことなんてできるのか信用ならないな」
「村長が必ず『はい』と答えなくてはいけないと言ったのは僕たちに占い紙を使っていたから」
「ほう?」
「観察していたけど行造さんは僕たちのことを見ながら頻りに手元へ目線を向けていたよ」
「へぇ、よく見ていたな。 ならこれは本物か」
―――これで僕たちが占い師になったようなものかな。
―――占いを行ったわけじゃないのに占い師。
―――本当に人狼ゲームみたいになってきたぞ。
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