人狼ゲームに巻き込まれたがどこかおかしい②
村へ入ると見張りがすぐに扉を閉めた。 村中を塀で囲われているといったことはないが少し警戒し過ぎなようにも思える。
―――かなり厳重だな・・・。
後ろ目でそれを見ながら村の中を観察する。 木造で古い家が多く畑や田んぼも広がっている。 ただそれとは別にしてどこか異様な雰囲気が漂っていた。
―――何か不気味だ・・・。
―――活気がなくてどんよりしている。
―――でも今この村で事件が起きているなら仕方のないことかな?
―――だけど村人からジロジロと見られているのは何故だ?
―――まるで僕たちを監視しているみたいじゃないか。
それが気になり穂風に追い付いて小声で言った。
「異様に見られているんだけど」
「ここは小さな村だからな。 部外者が現れたら気になるのも自然だろ」
「そうかもしれないけど・・・」
「それよりも俺が気になるのはアレだ」
穂風は視線で合図した。 穂風の視線を追いかけ目を凝らすと村を囲っている柵が見えた。 細い銀色の鋼線が数本伸びていてまるで電気柵である。
村中を囲うように張り巡らされており簡単には出られそうにない。 以前動画で見たことがあるが電気柵であるなら触れればかなり危険で下手したら死んでしまうかもしれない。
「うわ、何だあれ?」
「ここは森だから熊や獣避けかもしれない」
「なるほど・・・」
「それか何か事情があって中の人が外へ出られない・・・。 いや、逃がさないようになっているのかも」
「逃がさない、って・・・」
その声に穂風を見た。 穂風は深刻な表情をしている。
―――・・・確かに入り口といい囲いといい普通の村ではなさそうだな。
「とりあえず村長から話を聞いてから考えようか」
少し歩くとニコニコと気味の悪い程の笑顔をした村人がやってきた。
「村長様のところへは私めが案内しましょう。 こんな顔をしていますが怪しい者ではなく生まれつきのものなのでご安心ください」
「よろしくお願いします」
そう言うと穂風は小声で囁いてくる。
「出たね。 絶対怪しい人の常套句。 『私は怪しい者ではないので』が」
「それは失礼じゃ」
「でも安心していい。 あの人は真犯人ではないから」
「?」
「よくてへっぽこ警部に疑われて、気付いたら殺されている役だ!!」
「いや、それはドラマの見過ぎだし失礼過ぎない・・・?」
そんなこんなしているうちに村の中で一番大きなお屋敷に到着した。 とはいえかなり年季が入っていて大きくはあるが立派とは言い難い建物。 大きな井戸もありそれもまた何となく恐怖心を煽る。
「着きました、ここです。 村長様、失礼いたします」
案内を終えると彼はそそくさとどこかへ帰っていった。
「依頼を受けてきました、穂風です。 こちらは俺の助手の琉加」
琉加は頭を下げる。
「おぉ、待っていたよ。 来てくれてありがとう」
村長は手招いて案内する。
「荷物はここに置いて。 後で世話係に隣の宿屋まで運んでもらおう」
「ありがとうございます。 着いて早速ですが依頼というのは? 何もお手紙には記載されていないということは深刻な内容なのですよね」
「・・・あぁ。 実はこの村では毎晩人が亡くなっているんだ」
「毎晩!?」
「そう、皆が寝静まっている時に殺され朝に遺体となって発見される。 この負の連鎖を止めるために犯人を見つけ出してほしいんだ。 見晴らしが悪くなる20時までに」
「20時までに・・・。 殺される人に何か共通点はあるんですか?」
「ない。 犯人は殺す者なんて誰でもいいのだろう」
―――・・・だとしたら僕たちも今夜のターゲットになるかもしれないということ?
―――もし犯人を見つけられず間違った推理をしてしまえば僕たちも終わりの可能性があるのか。
穂風も同じことを考えたのか琉加を見た。 目が合い二人は同時に頷いてみせる。 ここで逃げる選択肢はない。 自分が逃げてもこの村の負の連鎖は終わらないのだ。
「その事件、俺たちに任せてください」
「頼もしいよ、本当にありがとう。 今までも何人か探偵に依頼をしたんだが内容を話すと断る者が多くてな・・・」
―――そりゃあ、自分の命も懸かってくるなら簡単には受け入れられないよな・・・。
―――最初から断られないために依頼内容が手紙に書かれていなかったのか。
「こんな内容だから男性に依頼しているんだ。 ちなみに二人は男性で間違いないか?」
確認が流石にしつこく何か気味の悪さを感じた。
「もちろんです!」
にもかかわらず穂風は笑顔で即答した。
「ならいいんだ」
「安心してください」
「あぁ。 そしてこれは大事なことだ。 犯人は人間に化けている可能性がある」
「化けている? 犯人は人間じゃないということですか?」
「そう。 おそらく獣の姿をした物の怪の類だろうな、殺された村人を見る限り人がやったとは到底思えない」
「・・・」
穂風は難しそうな表情をした。
―――獣の姿をした物の怪の類って何!?
―――まさかそんなオカルトちっくな話を信じろと・・・?
―――でも穂風が何も言わずに聞いているということは、そういうのもあるということなんだろう。
―――この村を囲っている電気柵も関係があったんだな。
「夜になると本性を現し昼間は人間に化けている。 だからきっと犯人を見つけるのは難しいだろう」
そう言いながら村長は棚から一枚の紙を取り出した。
「怪しいと思う人と協力者をここに記しておいた。 この中から犯人を見つけ出してほしい」
―――怪しいと思う人?
―――・・・それはどういう理由で怪しいと思ったんだろう。
穂風は紙を受け取った。 そこには怪しい人物として5人の顔が載っている。 琉加はそれを見て言った。
「犯人は人間に化ける獣といい、容疑者が数名。 まるで人狼ゲームみたいだな」
「人狼ゲーム? それって琉加が好きな推理ゲームだっけ?」
「そう。 穂風も前に参加したことがあるよね?」
「あぁ、まぁね」
「探偵なのに物凄く弱くて・・・」
「それは仕方ないでしょ! 嘘をつくのが専門じゃないし、そもそも私は事実に基づいた推理を・・・」
「口調、口調ッ!」
「あ・・・。 あはは」
穂風はそう言いながら村長へ目を向けたが村長は頭に『?』を浮かべたままだった。 人狼ゲームとは味方になりすました嘘つきを会話で見つけ出すゲーム。
プレイヤーは全員とある村の住人として振る舞うがその中の何名かは人狼で村人に化けて村を滅ぼそうとしているのだ。
「なるほど。 できれば犠牲者を増やしたくない。 この一日で上手く見つけ出せば被害者はもう出さずに済むんだよな」
「まずは聞き込みからだ」
琉加たちの会話を聞いていた村長が言った。
「最初は行造(ユキゾウ)さんのところへ行くといい」
―――最初の行き先は指定?
「分かりました。 では俺たちはこれで」
踵を返すと村長が思い出すように言った。
「あぁ、そうだ。 大切な注意点があった」
「何ですか?」
「行造さんから何か質問をされるかもしれない。 その時は必ず『はい』と答えなければならないということだ」
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