人狼ゲームに巻き込まれたがどこかおかしい④




穂風はひっくり返したり光に透かしたりと観察を続けているが特に何か分かったことはないらしい。


「この紙の効果が本物だと仮定すると使うタイミングが難しいな」

「使用するかどうか二人で相談することもその場で堂々とできないだろうし」

「そうだな・・・。 とりあえず次はどこへ行こうか?」

「この紙に書かれている全員のところへ行ってから推理するのはかなり急いでも日が暮れる可能性が高い。 この紙って例えば黙秘する相手には意味がないっていうことか?」

「黙秘されたらお手上げだけど、でも村人ならそんな非協力的なことするかな」

「さっき言っていた嘘つきはするかもしれない。 ただその人が裏切者だと分かれば少し楽だ」

「確かに。 非協力的な人は獣側っていうことでいいのか」

「まぁ、普通ならな」

「・・・?」

「例えば獣に脅されている人間がいたらどうなると思う?」

「あぁ! でも、それって・・・」


もしこれが人狼ゲームだとしたら無茶苦茶なルール違反となる。 しかし実際に村で起きているのはゲームではないのだ。


「もしそうなったらお手上げ。 だけどもしそんなことが可能だったとしても全員が獣の手に落ちているとは考えにくい。 だからまぁ、基本的には考えなくてもいいと思う」

「そうか。 最悪占い紙があるし」

「そういうこと。 まぁ、とにかくまずは協力者のところへ行くことにしよう」


村長にもらった紙に書かれていたもう一人、会うべきだと示されている人から行くことに決めた。 その人は街のど真ん中にいて村人を観察している。


「あの・・・」

「ん? おぉ! もしかして俺たちの村の事件を解決してくれる探偵か?」

「はい」


重そうな鎧を着ているが全く隠せていない凄い筋肉を持つ男は玄地(ゲンチ)というらしい。


―――見るからに強そうだ。

―――見た目は騎士っぽいけど違うんだよな。


早速穂風はメモを開き事情聴取を始めた。 やはりというかこの玄地という男性はこちらに協力的なようだ。


「色々とお尋ねしたいことがあるんですが」

「結論から言うと俺は犯人の予想なんて欠片程もついていない!!」

「・・・はい? まだ何も言っていませんが」


勢いも凄く鎧を着ているというのにボディービルダーのようなポーズまでとっている。


「俺は暇さえあればここで村人を観察し犯人が誰なのかを捜している。 だが怪しい者など一人もいないからだ!!」

「どうしてそんなに自信満々なんですか・・・」

「ただし! 俺はこのキーを持っている!!」


そう言って見せびらかすように前へ突き出した。 微妙に会話も成り立っていない気もするが、この人はこういう人なのだろうと納得する。


「キー・・・? もしかしてマスターキーですか!?」

「その通り! これは村の家全てのドアの外側に付いている南京錠の鍵だ」

「複数ないんですか?」

「残念だが非常に高価で貴重なものだからない。 それにこれは鍵をかける時に本体ごと差し込まないといけないんだ」

「だから一人の家にしか鍵をかけられないと・・・。 でもドア以外、窓からも出入りできますよね?」

「この村に狼が現れるようになってから全ての窓に対策として格子を付けるようになった。 だから出入りできるのはドアだけだ!」

「なるほど・・・。 無事犯人の家に鍵をかけられたら事件はもう起きないと」

「そういうことだ。 ただ俺はこれだけ監視しても誰が犯人なのか全く分からない。 だから怪しいと思った人物がいたら俺に教えてくれ」

「玄地さんは誰かの家にマスターキーを使ったことはありますか?」

「もちろんだ。 毎晩違う村人の家にかけているが事件は続いている。 当然だが俺がマスターキーを使った人物はその紙から省かれているぞ」


そう言って村長からもらった容疑者一覧の用紙を指差した。


「分かりました、ありがとうございます」

「あぁ。 では頑張ってくれ」


大きく手を振りながら見送ってくれる玄地と別れた。 玄地は今も村人を監視しているが、あのような格好をしているというのにどこか頼りなく思える。


「人狼ゲームにはああいう役はいないんだよな?」

「騎士にあたる役職だとは思うけど少し違う。 どちらかというと追放みたいな役割・・・?」

「マスターキーを持っているということはそれ程信頼されていて偉い人なんだろう」

「マスターキーを使って事件が起きなければ成功、犯人を突き止められる・・・」


容疑者一覧と睨めっこする。


―――まだ村人はたくさんいるだろうに犯人がこの中に限定されているのが謎だ。

―――この人たち以外はマスターキーを使ったって事なのか?

―――もしそうなら確かにこの中に犯人がいるとは思うが、狂人が紛れ込んでいるかは分からないんじゃ。


「外に鍵付きでかける鍵だからただの村人の家に付けたとしても犯人から身を守る力はないということか・・・。 外側に鍵の付いた家は中から外へ出られないけど外からなら入ることはできるもんな」


穂風は真剣に考えている。 一方琉加は別のことを考えていた。


―――そもそも犯人は必ず一日一人を殺害するのか?

―――その前提が正しくないとマスターキーも意味を成さないような。

―――通常の人狼ゲームで殺さないという選択も認められているルールもあるけど・・・。

―――というか何故犯人は村人を殺そうとするんだろう?



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