人狼ゲームに巻き込まれたがどこかおかしい

ゆーり。

人狼ゲームに巻き込まれたがどこかおかしい①




“琉加ー! ちゃんと準備はできてるー?”


信号を待っていると一通のメッセージが届く。 穂風(ホカゼ)からの周回遅れした催促で琉加(ルカ)は溜め息交じりにポチポチと文章を打つ。


“帰りはいつになるのか分からないんだよね?”

“そうね。 荷物は多めの方がいいと思うわ”

“既に家を出ているから直に着くよ”

“え、もう!? 準備万端過ぎない!?”

“男の準備は楽だから”

“そうかなぁ?”


―――待ち合わせ時間に間に合わないなら悠長にスマホを弄っている場合じゃないでしょ・・・。


信号がまだ赤のため以前穂風から届いたメッセージを再確認した。 今日の行程表や指示が事細かに書かれている。 なのにどうやらこのやり取りを見るに遅刻。

穂風は探偵が趣味の大学生で個人で探偵依頼サイトを開いており依頼が来たらそれを受けて解決する。 それの助手として琉加は声をかけられた。

プロではないため報酬は特に決めていないが謝礼として結構な金額をもらったりすることもあるらしい。 ただ相手次第のため実費のみをもらうことも多い。

今回はきちんと依頼料をもらっているらしく琉加もバイト感覚でお金を受け取っている。 高額ではないが一日の報酬としてみれば二万円は破格。

ただ行程表を受け取った段階でそうでもないかもしれないと思い始めている。


―――まさか探偵依頼の手伝いに僕を誘うとはね。

―――僕は探偵というより人狼ゲームみたいな推理が好きなだけのただの一般人なのに。


先日穂風のもとへ一通の手紙が届いたらしい。 場所は辺境の小さな村で起こった事件で自分たちで解決するのが難しそうだということで探偵として頼まれたのだ。


―――まぁ、遠出だし僕の役目はただの用心棒だとでも思っておこう。


先に待ち合わせ場所へ着き穂風の到着を待った。


「おーい」

「・・・」

「おーい! 琉加ー!」


名を呼ばれて辺りを見渡すも声の主である穂風の姿がない。


「どういうことだ・・・?」

「どういうことだ、じゃないわよ!」

「わッ!!」


目の前に現れたのは何故か男装をしていた穂風だった。


「え、穂風?」

「そうよ。 完全に私だと分からなかったみたいね」

「背丈はギリギリだけど本当に男の人かと思った・・・。 男装完璧じゃん」

「背が低いですって!? これでも厚底を頑張って履いて背を増し増しにしているというのに!!」

「素が低過ぎるって。 増し増しで160あるかないかでしょ、それ」


裾を捲って見せてくれた靴は確かにかなりの厚底、というよりシークレットブーツのような靴を履いている。 おそらく特注品であろう。 パッと見では身長を底上げしているのは分からない。


「流石に山の方へ行くのにこれ以上の厚底は無理だと判断したの」

「どうして男装を?」

「この手紙を見て。 これが私宛に届いた手紙なんだけどどうも私のことを男だと勘違いしているようなのよ」

「はぁ・・・」


見せてもらった手紙には確かに穂風を男性だと勘違いしているように書かれている。


「私の名前が男女どちらでも取れる名前なのが原因ね。 でも男性に限定している感じ何かありそうだと思って男になってみようと思ったの」

「なるほど」

「で、まずは琉加で試してみようと思ってね。 見事私の男装に引っかかったわ」

「それで準備に時間がかかったのか」

「男装なんて慣れていないから。 それに化粧だってしているし」

「男の準備ではなく男装は大変っていうわけね」

「そうそう」

「“もし誰かを連れ立つなら男性にしてほしい”って・・・。 それで僕を選んだのか」

「えぇ。 貴方にはちょっと申し訳ない気もするけど何か含みがあると思ったから適任だと思って。 とりあえずこの依頼中は私を男だと思って接してほしいの」


色々と思うことはあるが今回はバイト助手として無用な突っ込みは入れないようにしようと思った。


「その口調もちゃんと直る?」

「おう! 俺に全て任せておけ!!」

「・・・下手っぴ」

「まぁ、身近にお手本があるから大丈夫だと思う。 とりあえずもう行こうか。 小さな村で遠いからバスと徒歩を駆使して目指していくぞ」


目的地まではなかなかの道のりだった。 電車を乗り継ぎバスも使って最終的には長い距離を歩く。 曖昧な情報を不安に思いながらも山道を歩きようやく村が見えてきた。

田舎も田舎、車が入っていけなくはないが舗装もされていない。 人の姿もあまりなく木々が生い茂っていてそれなりに暗い。

今は太陽の光が届いているからいいが、夜は数メートル先ですら見えない程視界は悪いだろう。


「・・・大丈夫?」


足場は悪く厚底を履いているせいか穂風の足取りがおかしい。


「今はキャリーケースがあるから何とか大丈夫だけどこれがなくなったら大変だな・・・」

「転んだりしないでよ」

「わッ!!」

「言わんこっちゃない・・・」


そんなこんなで村へ到着した。 流石に村の近くには外灯があり真っ暗闇にはならないだろう配慮はしてある。 入り口には大きな門があり厳重な見張りが二人いる。


「依頼を受けてきました」


穂風は依頼内容が書かれた手紙を見張りに見せた。


「身分証明書はありますか?」


―――身分証明書?

―――・・・これは詰んだな。

―――流石に男装だとバレるからここで追い出されるかもしれない。


そのようなことを思いつつ琉加は身分証明書を見せた。 続けて穂風が見せる。


―――・・・何その身分証明書!?


横目で見ると男だと偽造した身分証明書を渡していた。


―――偽造したのかよ。

―――・・・流石趣味が探偵だな、用意周到だ。


思わず感心してしまった。


「大丈夫です、どうぞお入りください。 村長様のもとまで私が案内します」


そう言って重たい扉が開かれた。 見張りの一人が先へ行き穂風が後を追う。 その後ろに琉加は付いた。


―――これから何が始まるんだろう。

―――気がかりなのは依頼内容に日時が指定された以外何も詳しい内容が書かれていないことだ。



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