第4話:社会は「暗記」にあらず、「大河ドラマ」である
八月。
その言葉の響きだけで、肌がじりじりと焼けるような幻覚を覚える。
夏という季節は、中盤に差し掛かると、もはや遠慮のかけらもなく、その持てる全ての暴力性を解放し始めていた。空は毒々しいほどに青く、そこに浮かぶ入道雲は、あまりにも白く、そして巨大に膨れ上がり、地上に生きる我々を見下ろしている。
午前六時三十分。
まだ空気には夜の冷たさがわずかに残っているはずの時間帯だが、すでに太陽は容赦ない。
カーテンの隙間から差し込む光の帯が、部屋の中を漂う埃をきらきらと照らし出し、机の上に積み上げられた参考書の山を、無機質な明暗で切り取っている。
近所の公園から、ザラザラとしたノイズ混じりの音が響いてきた。古ぼけたラジカセが奏でる、どこか間延びしたピアノのメロディ。
「新しい朝が来た、希望の朝だ」。
その軽快すぎる長調の旋律が、鼓膜を不愉快に震わせる。
やかましい。
こちとら昨夜、数学のラスボスとも呼ぶべき「図形の証明問題」との死闘を繰り広げ、脳みそがショート寸前まで追い込まれた果てに、ようやく三時間前に泥のような眠りについたばかりだというのに。
窓の外では、恐らく半分以上が寝惚けているであろう小学生たちが、気だるげに腕を振り回し、統率の取れていないラジオ体操を繰り広げていることだろう。彼らにとって、この夏休みは永遠に続くかのような黄金の楽園かもしれない。だが、受験生である俺にとっては、タイムリミット付きの、出口の見えない強制労働キャンプでしかないのだ。
重たい瞼をこじ開け、俺はベッドから這い出した。
それでも、と俺は思う。俺の生活は、一ヶ月前の自堕落な日々とは比べ物にならないほど、規律正しく、人間らしいものに変わりつつあった。
午前中は、もはや第二の我が家と化した市立図書館へ向かう。そこにある静寂と冷気だけが、俺の味方だ。
午後は、帰宅してクーラーの効いた自室に篭る。英語の呪文のようなシャドーイングを繰り返し、無機質な数学の公式たちと対話(という名の友達作り)に励む。
夕方、日が西に傾き、アスファルトの殺人的な熱が少し和らいだ頃には、縁側で麦茶をすするのが日課になっていた。
氷がグラスに触れてカランと鳴る音。
軒先に吊るしたガラスの風鈴が、生ぬるい風を捕まえて、ちりん、と涼やかな音色を奏でる。
庭の隅では、緑色の太い渦巻き線香が、くゆるように白い煙を吐き出している。その煙は、少し焦げたような、それでいてどこか懐かしく、胸の奥を締め付けるような日本の夏の匂いをあたりに漂わせていた。
勉強は、少しずつだが、形になってきていた。
あれほど苦痛で、拷問のように感じていた「机に向かう」という行為が、今は、巨大かつ複雑なジグソーパズルを一つずつ組んでいるような、奇妙な没入感を与えてくれるようになっていた。知識が少しずつ繋がり、霧が晴れるような感覚。
だが、ふとした瞬間に、あの模試の通知表に印字された「E判定」という冷徹なアルファベットが、亡霊のように脳裏をよぎる。
胃のあたりが、きゅっと冷たくなる。
このやり方で、本当に正しいのだろうか。
この努力の先に、本当に王葉高校への道は続いているのだろうか。
見えないゴールに向かって走る不安が、足元をすくおうとする。
焦りと、ほんの少しの充実感が、マーブル模様のようにまだらに混じり合った、複雑な夏休み。時間は残酷なほどの猛スピードで過ぎ去っていった。
そして今、新たな、そして最強の敵が、俺の前に立ちはだかっていた。
その敵は、難解な数式のような論理攻撃も、英語のような言語の壁も仕掛けてはこない。ただひたすらに、こちらの記憶領域の脆弱性を、執拗に、冷酷に、そして物理量で攻撃してくる。
その名は、「社会科」。
とりわけ、「歴史」である。
「社会なんて、所詮は暗記科目だろ。覚えたもん勝ちだ」。
夏休み前の蒸し暑い教室で、鈴木が教科書を団扇代わりにしながらそう嘯いていたのを、俺は真に受けていた。
そうだ。英語や数学のような「理屈」や「センス」はいらないはずだ。
ただ、覚えればいい。
気合と根性で、脳みその皺の隙間に知識をねじ込めば、それで勝てるはずだ。
俺は、最も原始的で、最も愚直な作戦を選んだ。
コンビニエンスストアで買ってきた、大量の単語カードの束。そして、分厚い一問一答式の問題集。これが俺の武器であり、防具だった。
狭い自室の中、俺は檻の中の熊のようにうろうろと歩き回りながら、ブツブツと呪文のように年号と出来事を唱え続けた。
「1192年、鎌倉幕府成立! いい国作ろう、鎌倉幕府!」
「1543年、鉄砲伝来! 以後予算なし、鉄砲伝来!」
「1853年、ペリー来航! いやでござんす、ペリー来航!」
自分の声が、部屋の壁に虚しく反響する。
自作の語呂合わせは、我ながら意味不明だが、その馬鹿馬鹿しさゆえにインパクトだけは絶大だと思っていた。
単語カードの表に黒のマジックで太く書かれた「関ヶ原の戦い」。裏返すと「1600年」。それをパラパラとめくり、機械的に脳に刻み込み、覚えた気になっていく。
だが、俺の脳みそは、どうやら最高級のザルでできているらしかった。
覚えたそばから、知識は砂のように指の隙間からこぼれ落ち、きれいさっぱり抜け落ちていく。
昨日、あれほど苦労して覚えたはずの「応仁の乱」が、今日はもう「応仁の乱って、誰かと誰かが京都で派手にケンカしたんだっけ?」というレベルにまで記憶が劣化している。
さらに深刻なのは、断片的な知識が脳内で勝手に化学反応を起こし、奇怪なフュージョン(融合)を遂げてしまうことだった。
俺の脳内歴史会議は、日夜、時空を超えた大混乱を極めていた。
(ええと、ペリリュー…じゃない、ペリーが、種子島に漂着して、地元の人に鉄砲を伝えたんだっけ?)
(いや、違うな、ペリーは黒船で浦賀に来たんだ。鉄砲じゃない。)
(じゃあ鉄砲を持ってきたのは誰だ? ザビエルか? いや、ザビエルは十字架を持ってキリスト教を広めに来たんだ。鉄砲は撃たない。)
(じゃあなんだ、信長か? 信長が鉄砲を大量に使ったのは確かだ…長篠の戦いで…)
思考がぐるぐると空回りし、やがて恐ろしい結論を導き出す。
(関ヶ原の戦いで、徳川家康が、平清盛を打ち破って、天下統一を果たし、鎌倉幕府を開いた。……よし、完璧だ!)
完璧なわけがない。
時代も、登場人物も、結果も、すべてが滅茶苦茶だ。
もはや、歴史というよりは、悪質なファンタジー小説の領域である。
テストでこんな解答を書いたら、0点は免れないどころか、採点する先生の同情を引いて、マイナス点になる可能性すらある。
一週間、この不毛かつ孤独な記憶力バトルを続けた結果、俺の脳は完全にオーバーヒートを起こした。
もはや、教科書に載っている歴史上の偉人たちの顔が、全員、近所の八百屋の「徳川さん」の顔に変換されて見える始末だ。ちょんまげを結った徳川さんが、ネギを持って黒船に乗っている幻覚が見える。
ちなみに、その八百屋の徳川さんの本名は「鈴木さん」である。もう何が何だか分からない。
「だあああああ! もう無理だ!」
俺は頭をかきむしり、手ごわい単語カードの束をフローリングの床にぶちまけた。
バラバラと音を立てて散らばるカードたちが、俺の敗北を嘲笑っているように見える。
何かが、根本的に間違っている。
努力の方向がおかしいのは分かる。でも、どっちを向けばいいのか、何が間違っているのかが、分からない。暗闇の中で手探りをしているような焦燥感だけが募る。
そうだ。
こんな時は、あの人に会うしかない。
俺の駆け込み寺、俺の北極星、俺の最後の希望。
俺は、椅子の背もたれにかけてあったTシャツをひっつかんで、逃げるように家を飛び出した。
真昼の十二時過ぎ。
太陽が空のてっぺんに君臨し、殺人的な光線と熱波を、地上へ無差別にばらまいている時間帯だ。
ミンミンミン、とけたたましく鳴り響く蝉の声は、もはや風物詩などではなく、脳を直接揺さぶる空襲警報のように聞こえる。
アスファルトに足を踏み出すと、靴底を通して熱が伝わり、むわっとした湿気を帯びた熱気が全身にまとわりつく。数分歩いただけで、背中から、額から、汗が滝のように噴き出してきた。視界が白く揺らぐ。
「た、田村さあああん…」
半ば熱中症になりかけながら、俺は図書館の自動ドアの前に立った。
ウィーン、と静かな音を立ててガラスの扉が開く。
その瞬間、天国のような冷気が全身を包み込み、一気に汗を引かせる。
外気とのあまりの温度差に、くらくらとめまいがした。
図書館特有の、古書とワックスの混じった静謐な匂いが、鼻腔をくすぐる。
カウンターを見ると、案の定、田村さんがいた。
彼は、カウンターの奥の事務椅子に深くもたれかかり、腕を組んで目を閉じていた。
微動だにしない。
昼寝…ではない。きっと、高度な瞑想によって、宇宙の真理、あるいは図書館の蔵書の配置と交信しているに違いない。そう思わせるだけの威厳が、この男にはあった。
「た、田村さん…!」
俺が、すがるような、掠れた声で呼びかけると、田村さんはゆっくりと片目だけを開けた。その動作は、まるで眠れる獅子が目覚めるかのように緩慢だった。
「…なんだ兄ちゃんか。また死んだ魚みたいな目をしおって。今度は何の地獄に落ちたんだ?」
低く、少ししゃがれた声。
俺は、もはや言葉も出ず、リュックサックからこの一週間の苦闘の成果を取り出した。書き殴った単語カードの残骸と、奇妙な語呂合わせで埋め尽くされた、呪いの書のようなノート。それらを、カウンターの上にどさりと置いた。
田村さんは、その残骸を一瞥すると、一つ、深く、重たい長いため息をついた。
それは、地球の未来を憂うかのような、あるいは愚かな人類の営みを嘆くかのような、深淵なるため息だった。
「…兄ちゃんは、毎年NHKでやってる大河ドラマ、どうやって見てる?」
唐突な質問だった。
大河ドラマ?
たまにリビングで親父が見ているのを、通りがかりに横から眺めるくらいだが。
「え? 普通に…ストーリーを見てますけど…」
汗を拭いながら答える俺に、田村さんは「だろ?」と言って、ニヤリと笑った。
「キャストの名前と役名が書かれたリストだけを壁に貼って、それを一週間必死で暗記して、放送日当日に『よし、覚えたぞ!』って言いながら、音声を消してドラマを見るか? しないだろ。そんなことしたって、面白いもクソもない。役者が何を喋ってるかも分からず、ただ顔を見て名前を当てるだけのクイズ番組になっちまう」
俺は、ぽかんとして田村さんの顔を見つめた。
言葉の意味を咀嚼するのに数秒かかる。
「歴史の勉強も、それと全く同じだ。兄ちゃんが今やってるのは、まさにそれだ。登場人物の名前(人名)や放送された年(年号)だけを必死で覚えて、一番大事な『物語(ストーリー)』を、完全に無視してる。だから、すぐに忘れるし、面白くもなんともないんだよ」
物語。
その言葉は、まるで雷のように、俺の混乱した頭を撃ち抜いた。
「歴史は、暗記じゃない。理解だ。何千年も続く、壮大な人間ドラマなんだよ。そこには動機があり、葛藤があり、結末がある」
田村さんはそう言うと、いつものように「こっちへ来い」と顎でしゃくった。
カウンター横の小さなホワイトボードの前に立ち、田村さんは黒のマジックペンを手に取った。キャップを開けるキュッという音が、静かな館内に響く。
「今日は、兄ちゃんを歴史探偵にしてやる」
彼は、ホワイトボードの真ん中に、力強い筆致で大きくこう書いた。
『大化の改新(645年)』
インクの匂いが漂う。
「さあ、名探偵。最初の謎だ。なぜ、こんな事件が起きた?」
田村さんの視線が、俺を射抜く。
「え…っと、確か、蘇我氏っていう悪い奴が、威張り散らしてて、天皇をないがしろにしてたから…?」
俺がかろうじて記憶の底から絞り出した答えに、田村さんは満足そうに頷いた。
「そうだ、動機だ」
彼は、『大化の改新』の文字の左側から矢印を引っ張り、『←【原因】蘇我氏の専横、天皇の権威低下』と書き殴った。
「正解だ。じゃあ次の謎。誰がやった? 実行犯は?」
「ええと…中大兄皇子と…あと、中臣鎌足?」
「その通り!」
田村さんのペンが走る。今度は下向きに矢印を伸ばし、『【実行犯】中大兄皇子、中臣鎌足』と書き加える。
「では、最後の謎。ここが一番重要だ。その事件の結果、世の中はどう変わった?」
俺は考える。事件が起きた。悪い奴が倒された。その次は?
「ええと…天皇が中心の国になって…なんか、土地とか人間も全部、国のものになった…公地公民、みたいな?」
「上出来だ、名探偵!」
田村さんの声が弾む。彼は、さらに右向きに矢印を太く伸ばし、『→【結果】公地公民制、班田収授法(天皇中心の中央集権国家へ)』と書いた。
ただ、それだけのことだった。
だが、ホワイトボードに描かれた、たった三本の矢印と、四角く囲まれた文字たちが、俺の中でバラバラに散らばっていた「大化の改新」という知識の破片を、強力な磁石のように引き寄せ、意味のある一つの「出来事」として、くっきりと浮かび上がらせたのだ。
「歴史の勉強ってのはな、この矢印を、自分の頭の中に引いていく作業なんだ」
田村さんは、熱を帯びた口調で講義を続けた。
「いいか? この事件の実行犯だった中臣鎌足はな、後に天皇から『藤原』という姓をもらう。こいつが、あの有名な藤原氏の始まりだ。で、この藤原氏は、娘を天皇の嫁にして、生まれた子供を次の天皇にすることで、どんどん力をつけていく。天皇のおじいちゃんとして政治を操るんだ。これが『摂関政治』だ」
田村さんは、ボードに次々と矢印を書き足していく。キュッ、キュッ、とリズミカルな音が続く。
『大化の改新』→『藤原氏の台頭』→『摂関政治』
「で、藤原氏が威張りすぎたもんだから、天皇を引退した上皇が、『ふざけんな、俺が政治をやる!』と言い出した。これが『院政』だ。天皇家と藤原家のパワーゲームだな。で、このゴタゴタの警備員として、用心棒として雇われたのが…」
「…武士?」
「その通り! そして、用心棒だったはずの武士が、だんだん力をつけてきて、『ていうか、実際に戦ってるの俺たちじゃん? もう俺たちが政治やるわ』って言い出した。そのトップに立ったのが、平清盛や、源頼朝だ。そして、頼朝が開いたのが…」
「…鎌倉幕府!」
俺は、思わず叫んでいた。図書館であることを忘れそうになるほど、興奮していた。
うわ、すげえ。
全部、繋がってるじゃねえか。
大化の改新から鎌倉幕府まで、何百年も離れた、全く別の、無関係な出来事だと思っていた。テストのために別々に覚えるべき項目だと思っていた。
だが、違ったのだ。
それは、一つの巨大な大河の流れのように、理由があって、そうなっている。
前の時代の矛盾が原因となり、次の時代という結果が生まれる。
壮大な、因果関係の連続ドラマだったのだ。
俺は、感動で指先が震えるのを感じた。背筋にぞくぞくと鳥肌が立つ。
「できる奴ってのはな」と田村さんはペンを置き、俺の目を見た。
「教科書を読むときに、常にこの『なぜ?』と『その結果どうなった?』を考えながら、頭の中で無数の矢印を引いてるんだ。だから、忘れにくいし、流れが分かる。ついでに、地図帳を開いて、『じゃあ、この戦いはどこで起きたんだ?』『なぜこの場所だったんだ?』って確認すれば、もう完璧だ。お前は、歴史というドラマの、脚本家にも、監督にも、探偵にもなれる」
探偵。
その響きは、少年の心を鷲掴みにするには十分すぎた。
その日、俺は自分が「勉強」しているという感覚を、完全に失っていた。
俺は、歴史という、時空を超えた壮大なミステリーの謎を解き明かす、一人の探偵になっていたのだ。
家に飛んで帰ると、俺は物置の奥から、小学生の頃に工作で使った残りの、巨大な模造紙を何枚も引っ張り出してきた。埃っぽい匂いがしたが、気にならなかった。
そして、それを自分の部屋の壁一面に、セロハンテープでベタベタと貼り付けたのだ。
「何やってんの、あんた…壁が…」
部屋を覗き込んだ母親が、絶句して悲鳴を上げたが、今の俺にはただのBGMにしか聞こえない。
俺は、新品の油性マジックペンを手に取った。キャップを外すと、シンナーに似た刺激臭が鼻を突くが、それさえも今の俺には戦いの合図のように感じられた。
目指すは、日本史全時代を網羅する、超巨大歴史相関図の完成だ。
俺は、探偵のように、教科書と資料集を床いっぱいに広げ、時代の謎に挑んでいった。
なぜ、織田信長は天下統一を目前にして本能寺で殺されなければならなかったのか。
なぜ、豊臣秀吉は朝鮮へ出兵したのか。
なぜ、江戸幕府は260年もの長きにわたって続いたのか。
なぜ、日本は開国し、戦争へと向かっていったのか。
一つの出来事から、無数の矢印が伸びていく。
人物と人物が線で結ばれ、出来事と出来事が因果の鎖で繋がれる。
それはもはや、「暗記」という名の苦行ではなかった。
「知りたい」という純粋な知的好奇心というエンジンだけで進む、最高の知的エンターテイメントだった。
夏の夜が、静かに更けていく。
窓の外では、昼間のやかましい蝉の声はなりを潜め、代わりにリーン、リーン、と涼やかな虫の声が響いている。遠くで、電車の走る音がガタンゴトンと微かに聞こえる。
部屋の中では、蚊取り線香の白い煙が、ゆっくりと渦を巻きながら天井へと昇っていく。
その静寂の中で、壁一面の巨大な紙に向かい、マジックペンを片手に、ブツブツと何かを呟きながら、時折「そうか!」「なるほど!」と声を上げる中学三年生の少年が一人。
その姿は、傍から見れば、やはり少し狂気じみていて、奇妙だったかもしれない。
だが、彼の脳内では、もはや徳川家康は近所の八百屋のおじさんではなかった。
信長や秀吉の野望と挫折を受け継ぎ、数々の苦難と忍耐の末に、二百年以上続く平和な世の礎を築いた、偉大なる古狸、いや、希代の策略家として、生き生きと動き始めていたのだ。
壁を埋め尽くす文字と矢印の群れ。
それは、俺が手に入れた、歴史という名の広大な世界への地図だった。
新たな武器を手に入れた俺の夏は、まだ終わらない。
机の上のカレンダーに記された夏休みの残りの日数が、今はもう、恐怖のカウントダウンではなく、冒険の残り時間のように見えていた。
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