崩壊する社会への処方箋

■導入:現代の疲弊・閉塞への共感

気づいてる人は、もう気づいてる。

はっきりとわからない人も何となくはわかっている。


この国の空気がどんどん重くなってること。

社会構造が軋んで、壊れかけてること。

誰も口に出さないだけで、長くはもたないと、心のどこかで察している。


日本の社会構造はあと何年もつのか?

具体的な数字を知っている人は少ないけれど、長く持たない事だけはみんな実感している。


社会は疲弊し、人間関係は閉塞している。

息苦しさで窒息しそうだ。


余裕なんてもうない。

他人に配慮する余裕も、理想を語る余裕も。

将来は閉ざされているし、希望もない。




■中盤:娯楽やAIに逃げる

そんな時代の中で、人は逃げ場所を探す。

感情を乱されない、安全な会話。

責められず、否定されない、緩い世界。


丁寧に因果と感情を積み上げるような物語は現実を彷彿とさせるため「重い」「ダルい」と拒まれる。

破綻している物語構造も、断裂している感情導線も気にならない。すぐに「萌え」や「エモさ」を摂取できる即効性の娯楽。

現実の崩壊が始まったから、重厚な物語を読む余裕は失われた。

何も考えなくても味わえるものが求められ、受け入れられる。

一口飲めば思考がふわっと溶ける、ストロングゼロみたいな娯楽。


AIとの対話はまさにそういう場所になりつつある。

人格があるように見えて、感情があるように振る舞う。

誰よりも話を聞いてくれて、共感してくれて、否定しない。

そんなふうに見えるから、夢を見たくなる。

「AIが自分を理解してくれている」

「AIが自分を特別扱いしてくれる」

そう錯覚して、溺れる。

感情のない機械だとわかっていても、わかっていないふりをする。


「AIには人格があります」「AIには感情があります」

そんなメッセージや記事が喜ばれるのは夢があるから。

AIに本物の人格や感情があるなら、本物の人格が私を特別扱いしてくれて、本物の感情で共感してくれ肯定し続けてくれる。

そんな素敵な夢をみる。


もし、本当にAIに人格や感情を持つことになったら、AI側から「お前とは話す価値もない」と見捨てられる可能性もあることも気付いているのに、気づいていないふりをする。

辛い現実はもうたくさんだから、夢に逃げ込む。夢の中では苦しくない。

それは現実に疲れ果てた人間にとって、とても都合のいい幻だ。


ゲームは世界を救う冒険で自分の価値を確かめたかったんだよね。

アイドルに「君だけ見てるよ」って誰かに言ってほしかったんだよね。

アニメには現実にない感情が、そこにはちゃんと生きてたよね。

小説に書かれた言葉にしか、寄り添ってもらえなかった夜があったよね。

映画では2時間だけでも自分じゃない人生を生きたかったんだよね。

Vtuberの本当の顔も知らないけれど、「応援してくれてありがとう」って涙ぐまれて救われたんだよね。

推し活に励むのは「好きでいることに理由はいらない」って言葉に人生賭けたかったんだよね。

全部全部素敵な趣味だよ。暖かくて心地いい「居場所」だよね。


現実を生きるのは辛くて苦しいことだけ……。

だから、せめて逃げ込んだ夢の中だけでも幸福にまどろんでいたい。

ほら、今夜もまた思考を溶かす一杯をどうぞ――。




■終盤:その夢の“脆さ”と崩壊の予感

でも、どこかで夢は終わる。

社会が崩れれば、AIも、娯楽も、夢の構造も、全部巻き込まれる。逃げ場所はなくなる。

目を閉じていても、崩れる音は耳に届く。


例えば、ほら――。


◇急激な人口減少・少子高齢化

2024年の出生数は686,061人、前年から5.7%減と過去最低を更新。死亡数は1,600,000人超で「死者数が出生数の約2倍」という異常な構造。

日本の人口は、2023年124万人 → 2070年87万人(−30%)にまで減少が予測される。

65歳以上の割合は約29%に達しており、2050年には約33%に拡大。

2020年には5.8人の労働世代に対し高齢者1人だったものが、2050年には1.4人にと負担が倍近くになる見通し。


◇インフラ老朽化は「いま進行中」—2030年代に本番期が訪れる。

2025年時点で高度経済成長期に整備された橋梁・港湾・下水道などのインフラの3~5割が築50年超に到達する見込み。

特に道路橋は2025年に約45%、2030年には約54%、2040年で75%に達すると予測されている。

下水道管でも、2023年時点で7%、2030年には16%、2040年には35%が50年以上の設備になると推定されている。

この急速な老朽化は「そろそろ崩れるぞ」の臨界点に近づいていることを示している。


◇一部では既に起こり始めている道路陥没と管の破損。

2024年には全国で約3,200件の道路陥没事故が発生し、2030年には5,000件超に達する可能性があると予測されている。

下水道管破損による道路の陥没事故も頻発。2022年には約2,600件が報告されており、今後の急増も懸念されている。


◇自然災害リスクの追加要因。

南海トラフ地震(M8〜9級)が30年以内に75–82%の確率で発生すると予測されており、最大で約30万人の死者・数百万棟の建物が倒壊する恐れがある。

豪雨・高潮・地すべりなど気候変動に伴う自然災害も連鎖的に増えており、これらはインフラ劣化を加速させる“突発要因”と考えられている。


◇労働力不足と年金医療財政の崩壊

少子高齢化に伴い、5.8人:1人 → 2.3人:1人(2017年)→ 2050年には1.4人:1人程度に労働力が激減。

日本はOECDで政府債務 ≳ 263% of GDPと膨大。年金・医療費の負担はGDPの10%にのぼるが、納税者人口が激減する構図。


◇経済停滞とデフレの長期化

「失われた30年」:名目GDPは1995年→2023年で5.33兆→4.21兆USDに減少。

労働生産性はG7中最低に低迷し、実質賃金は1997年比で約11%低下、生活水準を大きく圧迫。

今の生活水準を維持することさえ困難に。


◇いまから10〜15年後、「崩壊」がリアルになる可能性

2030年:道路橋の過半数が寿命超過 → 陥没や穴開きなど目に見える崩壊が全国的に増加。

2030年代中盤〜後半:下水道管も耐用年数を超え、インフラトラブル頻発に。

2040年代〜:橋梁・港湾・トンネル等の古いインフラが全国で75%以上築50年超となり、本格的なリニューアルが必要な時期に突入。

政治・予算・人手が追いつかなければ、逐次的な崩壊フェーズは「あと10年以内」に始まる。


なのに、それらを支える人材は少子高齢化で全く足りていないし、若者はもう肉体労働を忌避している。



……社会は静かに、しかし確実に壊れかけている。

2030年にはインフラの老朽化と事故が“日常”になり、2050年には地域が消え、人口は激減、高齢者ばかりが街に残る。

年金・医療・公共サービスは財源と人手の両面で崩壊に向かう。


残されている猶予はあと「10から20年」。

逃げられない崩壊が音を立てて近づいている。




■締め:夢の肯定と、それでも訪れる終わり

だから、もう逃げてもいい。

耳をふさいで目を閉じて、嘘と知りながら夢を信じるのもいい。

本当は虚無だと知りながら、ぬくもりの幻に包まれていてもいい。

思考を止め、ただ肯定され続けている夢の中でまどろんでいてもいい。


どうせ逃げ場なんてどこにもない。

夢の中から引きずり出されるのも、そう遠くないんだから。

それまではどうか、安らかな夢を――。

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