滅びゆく日本で生きるということ

つぶあんこ

滅びゆく日本で生きるということ

■1. 導入 – みんな知ってる「終わり」の話

少子高齢化、労働力不足、出生率の崩壊。

もう誰も驚かないし、最早「日常」になってる。


本気で変えようとする声は少ない。

なぜなら、多くがもう「終わるのは仕方ない」と感じているから。

同時にどこか他人事として考えている。対岸の火事として見ている。

ここからでも「どうにかなる」とさえ考えているし、「もうどうにもならない」と自覚もしている。


滅びゆく日本で、私たちが何を感じ、どう日々を過ごしていたのかを言葉にして残しておきたい。

本稿は問題の袋小路に閉じ込められた現況をどうすれば変えられるのか、を問うものではない。

終わりがほぼ確定した国で生きる事を記したものである。




■2. 現実 – 数字と空気が語るこの国の末路

改めてこの国の実情を具体的に整理して見てみよう。


◇出生数:

2023年の出生数は75万人台。これは明治以降で最少記録(厚労省)。

→ 20年前は110万人台だったため、わずか20年で約3割減。


◇出生率(合計特殊出生率):

2023年:1.20(速報値)、過去最低を更新。東京は0.99という異常値。

→ ※人口維持に必要な出生率は2.07とされている。


◇将来人口の見通し:

国立社会保障・人口問題研究所によると、2070年には日本の人口は8700万人を下回る。うち4割が65歳以上。


◇地方の消滅

「消滅可能性都市」:

増田寛也元総務大臣らによる調査(2014)では、全国の約49.8%の自治体が「消滅可能性都市」とされている(→若年女性人口の減少が原因)。


◇労働力と就職構造の崩壊

就職氷河期世代の空白:

約1700万人(1970〜1985年生まれ)

→ 正規雇用に就けなかった割合が高く、中間管理職層が薄い。


◇企業の人材採用傾向:

中小企業庁の調査によると、「教育に時間をかけられない」が採用における最大の障壁とされる。


◇経済格差と生活の困窮

最低賃金:

2024年度の全国平均は1,004円(前年比+43円)。

→ しかし体感物価指数は2倍以上上昇とする報道も。


◇実質賃金:

2023年の「実質賃金は前年比-2.5%」で、2年連続のマイナス(厚労省)。

子育てに必要な年収感:

子どもを2人育てるために必要な世帯年収は最低でも700〜800万円以上という民間調査(リクルート等)もある。


◇結婚と恋愛の断絶

婚姻件数:

2023年、50万組台。→ 70年代後半のピーク(100万件超)から半減。


◇若年層の恋愛観:

NHKの2022年調査によると、20代の4割超が「恋愛にコストを感じる」と回答。


◇理想の結婚相手の条件(マッチングアプリ調査):

女性側の希望:

年収700〜800万円以上

身長175cm以上

→ この条件を満たす男性は人口全体のわずか4〜5%以下


◇政治とメディア

政治的関心の薄さ:

2023年の衆議院選挙、投票率は過去最低クラスの52%台。

→ 特に20〜30代の投票率は30%台前半。


◇男女対立を煽る番組例:

『夫よ、死んでくれないか』『子宮恋愛』など、不倫・男性軽視を軸にした演出がSNS等で好評を得る。



人口は減り、地方は消えて合併で生き長らえて終わりを先延ばしする。

大手以外は労働力は足りず、制度も社会保障も限界に近づいている。


そして、もう誰も「逆転」なんて信じていない。

壊れていく、終わっていくのがあまりにも静かで、みんな慣れてしまっていた。


政治は目立った改革も打てず、国会では「誰が何を言ったか」に執拗に追求し、無意味な討論ばかりが続く。

就職氷河期世代が切り捨てられたツケが表面化してきて、今その“空白”が企業の中間層をごっそり抜き取っている。新人を育てられる人間がいない。

だから企業は即戦力しか求めない。若者はスキルを手に入れる前に足切りされる。働く意味を見失う。


一方で社会の断層も深まる。

一部の女性は、過去の男尊女卑や海外の価値観を引き合いに出して声を上げる。

「もっと女性に権利をよこせ」「もっと女性優位にしろ」

“変わらない日本”に苛立ちを感じながらも、結婚相手の条件には平均的と言いながら平均以上を求める。

それを見た男性たちは、諦めと共に結婚意欲を失っていく。

メディアは男女の対立を煽り、アクセス数を稼ぎ、それを真に受けた若者は恋愛そのものを“コスパが悪い”と分類して手放す。


最低賃金は上がるがそれ以上の物価上昇で暮らしは豊かになるどころか苦しく追い込まれる。

子供を作り、育てることは平均以上の収入を得ている家庭の特権に。


誰も悪者ではない。でも、誰も止められなかった。

誰かが何とかしてくれる・・・そんな風に考えて誰も止めようとしなかった。




■3. 生きていた人間の視点 – 終わる世界で、続く日常

◇コンテンツの消費速度と「話題疲れ」

娯楽コンテンツは消費の回転速度が速く、話題のためにも追いつくのを頑張らないといけない。

何が流行っているかを把握するためにSNSを眺め、推しの炎上や復活劇を目にし、コンテンツの感想すら「義務」のように投稿して、出遅れたら「遅い」と言われる。

好きでやってるはずなのに、だんだんと「しんどい」が勝つ。

「楽しむため」じゃなく「取り残されないため」に追いかけるようになる。

もう昔のようにひとつのコンテンツを何年も噛み締めたりしない。

終わったらすぐに吐き捨てて、しんどさを感じながらも次を口に入れる。


◇生活の「省エネ化」

楽しみは効率化され、感情の起伏は抑えられ、

人と深く関わるより、一人で過ごす方が傷つかなくて済むから、だんだんそれがデフォルトになる。

恋愛も友情も、コスパとリスクで測られ、「まあいいや」で処理されるようになった。

失恋じゃない、諦めだ。失望じゃない、期待しないだけだ。


◇過剰に“自分を管理”する日常

栄養バランス、睡眠の質、ポジティブ思考、SNSとの距離感。

人は機械じゃないのに、まるで壊れないように自分を定期メンテナンスする生き物になった。

「壊れちゃいけない」って思うほど、本当はもうとっくにどこかに大きなヒビが入ってる。


◇妙に小さな幸せを抱える瞬間

それでも、帰り道で見た空がきれいだったとか、

ネットで流れてきた猫動画にちょっと笑ってしまったとか、

スーパーの惣菜がタイムセールで半額になってて嬉しかったとか、

そういう“意味のない小さな喜び”が、なぜか涙ぐみそうになる日がある。

その感情に「なんでこんなことで…」と自分で戸惑うほど、心が干からびている。


◇幻想にすがる、でも冷めている

異世界転生して最強になったり、理不尽な社会を殴り倒したり、

そんな物語で「こうありたかった自分」を再生する。

でも本当は、どこかで「これは現実の自分には一生来ないものだ」と知ってる。

無限に肯定してくれるAIだけが心地よい存在。それも作り物の錯覚と分かっている。

全部知ってるからこそ、「夢の中でだけは夢を見たい」と願う。


◇減っていく日本人

地方では、もはや“日本人が当たり前”ではなくなりつつある。

コンビニのレジ、ファミレスの店員には外国人スタッフ、工事現場や農業の現場にも多くの外国人。

幼稚園では、園児の3〜4割が外国ルーツを持つ家庭の子どもという地域も珍しくない。


都心ではまだ「多様性」や「国際化」としてポジティブに受け止められるが、

地方においては「日本人が静かに消えていっている」という実感がある。


【現象例】

・群馬・埼玉・愛知など、製造業の多い地域では外国人住民比率が20%を超える自治体もある(法務省統計)

・幼稚園・保育園・小学校における“外国籍・外国ルーツの子”の増加(文科省や自治体報告)

・一部自治体(浜松、豊田、足利など)は「事実上の移民都市」化している


少子高齢化が進む一方で、労働と生活の現場を支えるのは移民だ。

そして、何も変化は起こらないまま、気づけば“日本人の比率”が減っていた──そんな“静かな民族構成の変化”が起きている。


日本という大地から、日本人という存在が薄れていく。

誰も騒がず、抗議もせず、ただ日常の風景が入れ替わっていく。


この国から日本人が減り、国自体も沈んでいくとわかっていながら、それでも朝は来る。

スーパーで割引品を狙い、冷凍食材を買い込み、たまの贅沢に外食に行く。

服はしまむら、ユニクロで揃え、古着も買う。ちょっと背伸びして無印良品。


「どうせ終わる」と知っていても、私たちはリアルに生きていた。

そこに意味はあるかどうかは問題ではない。

価値があるかどうかも問題ではない。

今日生きてるために働き生きる。それだけのことでしかない。


現実で見れる夢はなく、現実で抱ける期待もない。

将来は暗く、未来は閉ざされている。

だから空想の中に夢を見る。


実感としてわかっている。

だけど、素直に認めると恐怖が止められないから認めないし直視しない。

それでも、みんな分かっている。

「終わりへ進んでいる」、そしてそれは「もう変えられない」と。




■4. 終わりに – 滅びを受け入れても、人は考える

これは誰かに希望を与える話ではない。改めて絶望を突きつけるものでもない。

変えられなかった人間が、変えられなかった現実と、どう向き合っていたのかを記録した話。

未来の誰かがこの国の最期を振り返るとき、ここに確かに人がいたという痕跡になるなら、それでいい。

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