第2話
引っ越しの荷物を受け取り、
すぐに生活の準備は整って。
買い物袋を持って食料調達にでた。
商店街が近くて、安い店もある。
発泡スチロールと氷をもらい、
ひとまずはその中へ。
そして、明日からの大学への準備も出来た。
その頃東京では、あたしの消息不明で
大騒ぎになっていた。
親も行き先は知らないから。。
学校にも、口止めしてある。
その頃に届くはずの類への手紙。
旅にでます。
ありがとう。
ただそれだけ。
類にはそれでだけで、わかるだろう。
そう思った。
今頃、NYの賢人が、警視総監に
会ってくるなんて騒いでいるかも
しれない。
もし、そんなことになって、
警察が捜索し始めたことを知ったら、
あたしは、日本から消えるだろう。
覚悟はできてた。
1つ気になっていたのは、
西岡さんに教わってたお茶が、
途中だったこと。
お茶、好きだったな。
雰囲気も、お作法も。
西岡さんが示してくれる教えも。
何もかも、大好きだった。
でも、京都にいたら、お茶を習って
いくことは無理だろう。
西岡流は、元から京都本部がある。
東京ともつながりが強い。
あっという間に、知れ渡って
しまうに違いない。
あたしは、離れたいから旅に出る。
つながるかもしれない線を今はまだ、
繋いでおくことは、出来ないくらい、
思いつめていた。
きっと、残されたと思ったかな。
俺たちはそんな程度の仲だったんだと
思っただろう。
それでいい。
あたしは、その為に旅に出たのだから。
どうか皆が、幸せになりますように。
あたしは、遠くの地から見ているから。
冷蔵庫が冷えて、先程買ってきた分を
冷蔵庫に入れていく。
ご飯を炊いて、食べる分以外は、
ラップして冷ましておく。
夕飯も作って、いつものように、
保存容器に入れて、冷蔵庫へ。
これで、数日分、楽になる。
さてと。そろそろ寝ようかな。
今日は動いたから、疲れたし。
明日は、学校に早く行きたいし。
朝、目覚めた時。
今日からは、あたし一人なんだ。
としみじみと思った。
でも、泣いている暇など無い。
折角、編入した大学。
最大限勉強して、私の目標を
叶えたいと思ってる。
いつものようにご飯を食べて、
今日からは、キレイ系な服を着て、
そして、用意をする。
そんな服たちは、みんなからの
プレゼント。
私からみんなの元を離れたのに、
着るのはどうなのかと思うけれど。
でも、それはあたしの鎧。
自分自身を守るための格好。
うっすらと化粧をして、
髪の毛は、ゆるく2つに結んで、
ダテメガネをかける。
今日の帰りからは、バイトも始まるから、
ジーンズとシャツも持ってと。
さあ。鍵を掛けて、出発。
今日からのあたし。行くよ。
1限目から、英語漬けの毎日が続く。
人数が多いからか、あたしが入っても、
騒がれることもない。
適当な席に座って、授業が始まるのを待つ。
英語で話していたこともあったから、
あたしにとっては、英語は身近なもので、
楽しくてたまらなかった。
昼休み、休み時間に購買に行って、
教科書を吟味して手に入れた。
今日の授業を終えて、やっと少し力が抜ける。
ついていけそうな感覚があって、ホッとしていた。
はっと気づき、あたしは荷物をまとめて、
バイト先に急ぐ。
家までの真ん中ほどにある、ファミレスが、
あたしの今日の夜からの職場。
16時から21時までの時間をここで過ごす。
裏口から入り、ロッカーに荷物を入れて、
着替えると、さ。戦闘開始。
これからの時間。
かきいれ時だから、気を許すことは出来ない。
入れ替わるバイトさんに挨拶をした。
あたしは、マネージャーの指示に従って、
フロアの担当になった。
本当は、バックヤードに行きたかったんだけど、
経験からフロアの方へとなったのだ。
ここのファミレスは、時給がちょっと良いし、
文句は言ってられない。
なんとかパートさんとも連携を取って、
一日が終わっていく。
深夜バイトも考えたけれど、
今回折角だから、学業を優先して、
生活していくことに決めたんだ。
バイトが終わって、買いたいものがあったから、
近くのドラックストアに寄って、考える。
どの色がいいかなぁ。
自分で染めるつもりで、カラーの前で
悩んでいた。
そして、考えて手にとったのは、
髪に良いシャンプータイプの染剤。
少し高いけれど、慣れないことを自分でやって、
自分の髪が、痛んでしまうのが嫌だった。
その他にも、安くなっていた食材も数種
手に入れられて、満足な買い物をした。
こうして、時は過ぎていく。
週に何回か有る、ホームルームも兼ねた
英語の必修授業に出た。
ホームルームも兼ねているので、クラス編成
になっていて、少なめの人数が教室にいる。
女性の先生が入ってきて、
授業して、そのままホームルームへ。
あたしは、その時に少し紹介された。
ご両親の仕事の事情で、編入されてきた、
井上みどりさんです。
「よろしくおねがいします。」
あたしは、髪の毛の色も少し変えて、
新しい生活を始めた。。。
ホームルームが終わると、
前に座っていた男子が後ろを向く。
あたしはなんだ?と思いつつ、
黙っていると、
「俺、斎藤知章。ヨロシクね。」
「あ。井上です。よろしく。」
女の子も何人か声を掛けてくれる。
少し雑談をしつつ、荷物を片付けて、
立ち上がる。
「さてと、帰ります。」
「ん?なにか用事あるの?」
「バイトなんです。」
「井上さん、バイトしてるんだ。」
「じゃ。失礼します。」
あたしは、恋愛する気はない。
好きになられても困る。
だから、言葉は最小限。
教室から出て、ハタと思い出し、
図書館へ行く。
ここでも、手続きをして、2冊ほど、
授業のために借りた。
よし。バイトに行こう。
今日も一日が終わる。
みんなと離れて少ししか経っていないのに、
寂しい。悲しい。
あたしって、こんなに皆に依存してたんだと
甘やかされていたんだと実感する。
寂しさを紛らわすために、一層言語を
頑張った。
レポートも早めに書いて、
なにもかもが順風満たん。
お金を稼ぐのに追われて。
羨望の目に追われていたあの頃とは大違い。
今のあたしの宝物は、いつだったか、
あの人が入れてくれていた留守電のメッセージ。
それがあれば、いつでも彼を思い出せる。
たまに思い出したように、本屋に寄って
経済雑誌を立ち読みしたりする。
元気でいてくれれば、それで良い。
今日は、バイトが終わって、家に戻ってから、
小紋の着物を着てみた。
まだ、時間は経っていないから、
簡単に着ることが出来た。
折角だから、とっておきのクッキーと、
抹茶を立てて、お茶にする。
ほろりと涙が出た。
あたし、お茶が好きだなぁ。
西岡さん。。。元気かなぁ。
シャンプータイプの染剤は、
あたしに合ったようで、
良い具合に、栗色の髪の毛に
段々となっていった。
あたしがあたしじゃないみたい。
久々の休みの日。
着物を着て、京都の街を歩いてみた。
抹茶を買おうと思って、お茶屋さんを
探していたのだ。
あ。いつか西岡さんがお土産にくれた
お店の本店だ。
立派な佇まいに、ちょっと立ち止まる。
中から、ふんわりとしたでも凛とした
女性が顔をのぞかせてくれて、
どうぞ。と声を掛けてくれた。
「何かお入り用ですか?」
「抹茶が欲しいのですが。」
「お嬢さんでしたら、この位のがよろしいかと
思いますが。」
そう言って、目の前に出されたのは、
お品書きに書いてある一番高いもの。
「え。あの…。」
「佇まい。お作法からわかるんで
ございますよ。」
私は、びっくりする。
そして、フッと微笑んで私は話しだした。
「正直に言わせて頂きます。」
「はい。」
「今まで、師匠にお茶を用意して頂いていたので、
どのくらいのものを使っていたのか、
詳しくわかっておりません。
抹茶を入れればわかるとは思うのですが」
「お時間ありますか。」
「はい。」
「ではこちらへ。」
あたしは、奥にある、喫茶スペースに
通されて、席に案内された。
「用意しますので、少々お待ち下さい。」
数分待つと、先程の女性が、
色々と持って、戻ってきた。
「こちらかこちらかと思われます。」
「ありがとうございます。」
道具まで貸して頂いて、その場で、手際よく、
でも丁寧にお茶を立てていく。
こ。これは。西岡流。。
そして、2つの器に2種の抹茶が立て終わり。
あたしは、黙ったまま。
「申し上げづらいのですが、この2つとは、
違うと思うのですが。」
このお嬢さんは。
女将さんは、フッと笑って話しだす。
「お客様。西岡流ですね。」
あたしは、目を丸くする。
「しかも、随分と真面目にお稽古なさって
おられたようで。
確かに、その2つとは違います。
ちょっとお待ち下さいませ。」
奥の棚へ行った女将さんは、
一つの抹茶を持ってきた。
「特別栽培された茶葉から出来た、抹茶です。」
「あの、言い難いのですが。」
「はい。」
「かなりのお値段致します。
そこで、こちらからのお願いがございます。」
「お願い?」
「はい。お嬢さんさえよろしければ、ウチで
働いていただけないでしょうか。」
「ええと。。。」
「実は、人出が足らなくて、働き手を探して
いたのですが、なかなか私の目に叶う方が、
なかなか現れなくて困っていたのです。
お嬢さんが、ウチで働いてくださるなら、
抹茶を定期的に、提供させて頂きます。
もちろん、お給料も、勉強させてもらいます。」
「事情があって、師匠から離れてしまって、
それでも尚、お茶に関わっていたいと
思っているあたしには、勿体ないお話です。
私、学生の身ですし、別のアルバイトも入って
おります。」
「なんとか、なりませんでしょうか。」
みどりは、しばし思案して、
「こんなに思って頂いて、なにかとお忙しいと
思われる金、土、日。祭日では、いかがでしょうか。」
「お嬢さん。。。なんてこと。」
「え?」
「よくお分かりになっていらっしゃって。
嬉しく思います。」
と、微笑む女将さん。
いつの間にやら、あたしは、某茶舗で働くことに
なっていた。
金曜日の午前中の授業が終わると、
あたしは、片手に風呂敷を持って、
京都中心部へ向う。
初めてのお茶屋さんでの仕事。
裏口から入ると、普段の姿に女将さんが
びっくりした。
「みどりさん、いい服着てますなあ。」
「いいものを長くが、好きなので。」
あたしは、お店の奥にあるスペースで、
着替えさせて貰って、お店の舞掛けを掛ける。
一緒に働く人達に挨拶をして、今回あたしは、
喫茶室のカウンターに入った。
指定されるお茶を心を込めて煎れる一時。
久々の緊張感。
私の息抜きになる時間になった。
土曜日の午後、いつものように喫茶室に
入っていた時のこと。
いつもはしんとした店内が、にわかに
騒がしくなっていた。
美波さんにちょっと見てくる旨を伝えて
裏から回っていくと、店内で異国のかたと
女将さんが立ち話をしていた。
フランス語......。
あたしはそっと女将さんに近寄る。
「女将さん。」
「みどりさん。今立て込んでるさかい、後でね。」
「いえ、私フランス語話せます。お手伝い
いたしましょうか。」
「話せますの?」
「はい。」
みどりの口から流暢に出てくるフランス語に
同僚たちは、顔には出さないが、
心底驚いていた。
女将さんに通訳をして、フランスからの
お客様を無事に送り出すことが出来た。
「驚いたわ。」
「みどりさん、何国語話せますの?」
「今は、5カ国語です。」
「そんなに。すごいわ。」
あたしは、静かに微笑んだ。
時は、刻々と過ぎ、ある日のこと。
「みどりさんは、里帰りしないの?」
「ええ。戻っても、両親は仕事なので。
そろそろ、就職活動を本格的にしないと
いけないし。」
「もう、そういう時期なのねぇ。。。」
「大学の就職課に行かないとと思っている
ところです。」
あたしは、微笑んでそう締めくくった。
次の週の火曜日。
就職課に行き、その日説明会があると
いうことで、自宅に一度戻り、スーツに
着替えてから、就職説明会に出ていた。
「うーん。。。」
参ったなぁ。興味を引く企業がない。
正確には、大企業も来てて、4人の関係の
企業も来ていて、説明も聞いたのだけれど、
無理だしね。というかバレるし。。。
中小企業の個性的なところの説明会に
行ってみようかなぁ。。。
よし、決めた。
就職課に相談しに行こう。
あたしは、その足で、就職課に向かった。
クラスメート達数人と、廊下などで会うと、
やはり同じようなリクルートスーツを
着ていて、お互いにやっぱりねと苦笑し合う。
あたしには珍しく、スーツに、髪の毛は
一本に結んでいた。
そのまま、小気味良くパンプスの音を響かせて、
就職課に向かった。
担当して下さる桜木さんを呼び出して、
話をしだすと、目がまんまるになる。
「井上さん。」
「はい。」
「まるで、企業の秘書さんみたいよ。」
「そうですか?なんだかそう言われると、
ドキドキしますね。」
あたしは、クスッと笑った。
「それでですね。」
あたしは、事情をかいつまんで話して、
折角なので、言語を生かせる職場を
探している旨を話した。
「うーん。ちょっと待ってね。」
桜木さんはちょっと考えて、ファイルから
1枚の紙を取り出した。
それから、ノートPCでその企業のHPを出すと、
あたしに見せてくれる。
「ここなんだけど。
社風が個性的で、業績も安定しているし、
井上さんみたいな言語を話せるひとを、
募集しているのよ。」
「業種で言うと。。。商社ですね。」
「そうなるわね。研修も海外になるって、
担当者は言ってたわ。あとはこの2枚の会社ね。」
そこまできたところで、あたしは、
ちらっと腕時計を見て、はっとする。
「すみません。これからバイトなので、
月曜日まで、考える時間をいただけますか?」
「もちろん。」
「いいですか?。お願いします。」
「わかったわ。」
あたしは、いつもより少々急いで歩き、
茶舗の裏口についた。
すると、休憩室には女将さんがいて、
着替える前に、皆には話は通してあるからと
言われて、2階の会議室に来るよう促された。
何だろう。
2階の会議室には、すでに待っていた方がいて。
なんと、茶舗の会長さんと社長が待っていた。
「あの?」
女将さんの方をみると微笑んでいる。
あたしが動揺しつつも、スッとおじぎをして頭を
あげると。会長さんと社長が、
「ん。合格。」
「ですね。」
訳がわからなくてキョトンとしていると、
女将さんから、一枚の紙が渡された。
「内定通知書?あの…。」
「うん。もしも、就職先で悩んでいるなら、
是非とも家に来てもらいたくての。」
「そう言うことだよ。みどりちゃん。」
女将さんも微笑んでいて。
あたしはもう。
涙目になりつつ、お礼をいうしか無かった。
「女将さんや社長から、色々聞いての。
わしもいつも、お茶をいれてもらってから、
是非とも、ウチでと思っての。」
「とても、嬉しいのですが、皆様に少し、
私の話を聞いて頂きたく思います。」
背筋を伸ばし、しっかと目をあけて、
真剣そのものの顔のみどりに、
3人は驚いていた。
今までの経緯を丁寧に話し終えた時、
みどりは女将さんに、優しく抱きしめられていた。
「なんてこと。辛かったでしょう。」
この間、西岡さんの所のお使いの時に、
ドギマギしていたのは、それでだったのね。」
「はい、すみません。」
「あの方達のそばにいた女性だったとは、
思いもせんかった。」
会長さんは、目を手で隠しながら、
そう言いはった。
「いけない!お店におりないと。」
「忙しくなったら、呼びに来るよう伝えて
あるから、大丈夫だと思うわよ。
慌てずに着替えなさい。」
「わかりました。失礼します。」
つくしがちょうど、お店に立ち始めた頃、
お店が混み始めた。
皆、気にかけてくれていて、
ポンとみどりの肩を叩いて仕事へと
戻っていく。
みんな受け入れてくれてる。
あたしは、この茶舗で働くことを決めた。
大好きなお茶に関わって生きていける。
これほど嬉しいことはなかった。
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