朱華色の放課後日記

 交換日記のない日々は淡々と過ぎていく。授業も、部活も、いまいち焦点を結ばないまま。

 定期テストが終わり、夏休みを目前に控えた学校の授業は、番外編のような雰囲気のものが多くなっていた。きょうの古典も同様らしい。


「きょうは、日本の色を表す言葉を紹介します」


古文の先生はそう言って、鶯色とか、桜色とか、確かに和を感じる色をさまざま紹介していった。有名な名前はもう出尽くしたかというところで、先生は黒板に『朱華』と書いた。前のほうの席の生徒が「しゅか?」と読むのを聞いて、満足げに笑っていた。


「これは、『はねず』と読みます。少しピンク色っぽいオレンジ色のことを表すのですが、実はそれだけではありません。当時は褪色しやすい色で、うつろいゆく人の心を表す言葉に転じた言われています」


 それだ、と思った。

 わたしの日記帳の色。オレンジ色のような、ピンク色のような、わたしの心に変化をもたらすあの色こそが、朱華色だ。


 そう思ったらいてもたってもいられなくなって、日記帳を開いた。けれど、そこにはすっかり大雑把な視界を取り戻したわたしの言葉ばかりが連なっていて、小倉さんの文字はない。交換日記はもう終わってしまったのだ。今ではあの席替えが憎らしい。

 何とかして伝えられる方法はないかと考えているうちに授業が終わり、休み時間となった教室に隣のクラスの生徒が入ってくる。その様子を見て、わたしはまた衝撃を受けた。

 そうだ、同じ学校の生徒なんだから、会いに行けばいいじゃないか。


 そこからは早かった。放課後、5時過ぎまで部活をしてから自分の教室に向かう。私服を着た定時制の人がもう数人ほど来ていて、わたしが前回使っていた席に、彼女はいた。何も書き足していない日記帳だけを握りしめて、彼女のほうへ駆け出した。


「あの、わたし……」




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朱華色の放課後日記 睡李彁 @nemuri_sei

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