焦点
「なんか、ぼんやりしてるね」顧問の先生が言った。
「構図自体はいつもの流川さんって感じだけど、輪郭のはっきりした雰囲気がいつもより弱いっていうか、全体的に、フィルターがかかったみたいだ」
自分では、何が違うのかわからなかった。いつも通り、ふつうに描いたつもり。前回の作品のほうが好きだったな、というとどめの言葉まで刺されて、しばらく引きずった。
わたしは、何が変わってしまったんだろう。
ふと開いた日記には、小倉さんの字。彼女の視点は、わたしと比べるとかなり繊細だ。英語の隠された意味。行事の運営をする人。色の名前。わたしの視界では取りこぼしてしまうくらいの、小さな興味。
そこで、自分は彼女に焦点の合わせ方を教えてもらったことに気付いた。全体をぼんやりと眺めるのではなくて、どこか小さな一点を見つめてピントを合わせていたのだ。いちど焦点を結んだ視界が急に全体を見ようとすれば、ぼやけてしまうのは当たり前だった。
彼女がもたらした変化は、決して悪いものなんかではなかった。
今更交換日記を終わらせたことに後悔と罪悪感が生じて、苦しい。
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