わたしと日記
1か月ほど続いた交換日記が終わりを迎えたのは、うちのクラスの席替えによるものだった。明日の朝席替えをしますという担任の言葉に、別に席が同じじゃなければ交換日記をしてはいけないなんて決まりはないけれど、なんとなく、これで終わりだと思った。
放課後、日記帳を開いた。最新の話題はこのノートの色だった。『かわいらしくて素敵な色だけど、何色って言うんだろう』。最後の質問だというのに、どうしても答えが浮かんでこない。美術部だからといって色の名前に詳しいわけではなくて、むしろ原色っぽくない色は絵の具を混ぜて作るからほとんど知らなかったのだ。
結局、悩んだ末にわからないと書いて、もう交換日記はできないということも付け足した。
毎日楽しみに書いていた交換日記が終わって、悲しいはずなのに、どこか安堵のような気持ちを感じる自分がいた。不思議に思ってページをさかのぼると、彼女と出会う前のページにたどりつく。ひとりで、自分のために日記を書いていたころだ。
日記を書き始めたのは、絵を描くのと似ていると思ったからだった。
1日を振り返って言葉にすることで、その日という作品の輪郭が明瞭になっていく感じが、筆を使って景色をキャンバスに映し出す工程と重なったのだ。大きなキャンバスに広く見た世界を大胆に描く自分の絵と、大きなくくりでその日のできごとをまとめる過去の自分の日記は、まさに同じだった。
それが、小倉さんとの交換日記で多少の変化を遂げていた、だけ。なんのことはない、また以前のように、自分の好きな、大きな世界を描けばいい。そう、思っていた。
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