放課後の交換日記
小倉さんとの交換日記の内容はとりとめのないものだった。授業のこと。部活のこと。自分のこと。ほんの1ページずつの情報交換だけれど、教えてくれる内容には必ず新しい発見がある。
"be meant to"が「~する運命になっている」という意味なのは、meanの主語が実は神様だからだということ。つまりは「神様に~するように意味づけられている」というのが本質的な意味らしい。
定時制は全日制よりも年齢の幅が広くて、服装も自由だから、個性にあふれていること。授業は5時半から9時前まで行われていて、全日制とは違う先生が教えてくれること。
中学校の頃の部活は放送部で、学校行事のたびに運営に関わっていたこと。体育祭の時には、放送席の近くに採点担当の先生がいて、一足先に結果を聞くことができるのだそう。
実技科目は得意だけれど、美術だけはどうしても苦手なこと。わたしは美術部だから絵を描くのが得意だと書いたら、ものすごく褒めてくれた。
調べたら簡単にわかることだと言われればそうかもしれない。けれども、彼女と出会わなければきっと知ろうとも思わなかっただろう。放課後を迎えるごとにひとつずつ積み重なる言葉で、わたしの世界は輝きを増していくのが、どうにもおもしろかった。
そんな世界の輝きが目に見える形で現れたのは、体育祭の直後だった。
学校行事のたびにそれをモチーフに作品を制作するという美術部の方針に従って体育祭の絵を描いたのだけれど、これがずいぶんと好評だった。
「流川さんの絵って、スケールが大きいというか、全体を俯瞰する構図が多くて結構好きなんだけど、今回はなんだか、内側の解像度が上がったって感じがするね。すごくいいよ」
顧問の美術教師のことばだ。
確かに、普段に比べれば外側の輪郭よりも内側の細かい人や小物を詳しく描いたと思う。きっとこの変化は彼女がもたらしたものだろうと思う一方で、それがいいことなのか、少しわかりかねている自分がいる。
わたしが描いたのは、注目の選抜リレー走者、ではなくて、その走りを実況する放送部員の周辺だった。
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