発見 ユルグ村
風に揺れる草の匂いと、湿った土の匂いが鼻腔をくすぐる。変身を解いて再び「石猿」の姿に戻った俺は、森の奥へと足を踏み入れていた。
「如意棒……と、緊箍児(きんこじ)ね」
脳裏に直接響いたクエストの文字と、その報酬とされるアイテム名。孫悟空を知る者なら、思わずニヤけてしまう伝説級のアイテムだ。だが、それと同時に頭を過るのは――“$%#■”という、ノイズのような謎の表記。
「あそこだけバグってた……? いや、それともこの世界の言語か?」
少なくともこの世界がゲーム風のインターフェースを備え、ステータスやクエスト機能があることは分かった。なら、俺はプレイヤーで、ここは何らかの「システム」で動いている世界なのかもしれない。だけど、そんな理屈を並べるより先に、腹が減ってきた。
「魔力は満タンでも、腹は減るんだな……」
魔法で火を起こし、〈鑑定〉で毒のない果実と根菜を見つけ、簡単な焼き芋のようなものを作って飢えを凌ぐ。火の魔法は便利すぎた。手のひらに意識を集中すれば、適量の火球が生まれ、葉っぱや枯れ木を焼いてくれる。文明の恩恵ってすごいなと、ちょっと違う方向で感心する。
そして俺は翌朝、森を抜けた。
眼前に広がるのは、小高い丘の上に点在するわらぶき屋根の家々。煙突からは薄く煙がのぼり、畑では人影がゆっくりと動いているのが見えた。
「村……だよな、これ。よし、まずは情報収集だ」
森の木陰で変身魔法を唱える。変身先は――人間の子ども。背丈は小さく、顔は童顔、耳も尻尾も出ていない完全なヒューマン仕様。服装も、布のようなものが自然に魔力で形作られていて、裸で突撃という羞恥プレイは回避できた。
「こりゃ便利すぎるだろ、マジで」
村の入り口に近づくと、二人の農夫風の男が鍬を片手に畑仕事をしていた。一人が俺に気づいて顔を上げる。
「おい坊主、こんなとこで何してんだ? 親とはぐれたのか?」
警戒されるかと思ったが、どうやら子どもという見た目は信頼を得やすいらしい。俺はとっさに、ありそうな嘘をでっち上げた。
「……森で目を覚ましたんです。記憶が曖昧で、どこから来たのかも分からなくて……」
「なんと、記憶喪失か……」
すまん。テンプレで。でもこう言っておけば、変な詮索をされることもないはずだ。
二人は顔を見合わせ、小さく頷くと、
「だったら、村長のところへ連れてってやる。うちの村には“妙な子ども”が流れ着くことがたまにあるんだよ。精霊のいたずらだか、神の試練だか知らんがな」「助かります」
俺はそう頭を下げながら、この世界の雰囲気がなんとなく掴めてきた気がしていた。
村の名は、ユルグ。丘陵に広がる小さな農村で、村人は皆素朴で温かく、俺のこともすんなり受け入れてくれた。
だが、その夜。
「なぜか……強い気配を感じる」
村のはずれ、古井戸のそばで、俺は本能的に察していた。目には見えない“何か”がそこにいる。スキル〈鑑定〉を使う。
> 【対象】??? 【種族】獣魔(分類:高等魔獣) 【状態】封印中 【危険度】Aランク相当 【備考】魔力源が刺激されることで覚醒する可能性あり
「……うわ、地雷じゃん」
何気なく触れた井戸の石枠に、ひびが走った。その瞬間、俺の脳内に再びシステムボイスが響く。
❮クエスト更新❯
獣の王:②封印の獣を鎮めよ
報酬:神獣の加護(仮)
「なんでこうなるんだよっ!」
思わず叫ぶ俺の声を、静かな夜風がさらっていった。
~獣たる魔術師~転生したら猿だったけど魔法の才能ありまくりで以外と悪くない @u-rayhjm
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