第13話 再びのデート

「……ねえ、どこに行くの? 宵渡よいとさん」

「まあ、着けば分かるよ。それに、心配しなくて大丈夫だよ。きっと、葉乃はのちゃんも好きなところだから」



 それから、一ヶ月ほど経た夕さり頃。

 茜に染まる空の下、すぐ隣へとそう問い掛ける。すると、口元に微笑を浮かべ答えるローブの男性。どうやらデートとのことだけども……うん、どこだろ。あたしの好きなところと言えば……まあ、どこでもいいんだけどね、この人となら。……ただ、一つ分かることは――


 

「……ねえ、宵渡さん。今から行くところって、そんなに人多いの?」


 そう、控えめに尋ねてみる。と言うのも――隣の変な人と同じく、あたしの格好もまた全身黒のローブなわけで。



「おや、そんなに嫌かな? 僕とペアルックは。仲良しこよしだと思っていたのに、なんだか悲しいなぁ」

「……いや、ペアルックって……あと、別に嫌ではないけども」


 すると、言葉の通り悲しそうな口調でそんなことを言うローブ男。いや、抑えきれてないよ? 笑いこらえてるの。まあ、別にいいけども。


 ともあれ、こんなふざけた男でも流石にギャグでこんな格好をさせるとは思えない……と言うか、本当は優しい男性ひとなのは重々知っているつもりだし。ならば、理由は一つ――万が一にも、あたしのことをバレないようにという気遣いに他ならなくて。そして、それは即ち目的地はそれなりに人の多い所ということになるんだろうけど……でも、流石に怪しくない? だって、全身真っ黒なローブの二人だよ? 場所によっては強盗だと思われちゃうよ? だから、引き返すなら今のう――



「――さあ、着いたよ葉乃ちゃん」


「…………へっ?」




 

「……ねえ、宵渡さん」

「ん、何かな葉乃ちゃん」



 それから、ほどなくして。

 そう、隣を歩くローブ男へと話し掛けるローブ女。そんなあたしの手には小さめの、そして彼の手には大きめの買い物籠。そして、辺り一帯には野菜や果物、お菓子や日用品などたいそう彩り豊かなラインナップに溢れていて。……うん、確かに好きなところだよ? 好きなところだけども――



「……あのさ、宵渡さん。流石に、ここはデートスポットじゃないよ?」


 そう、じっと見つめ告げる。さて、言わずもがなかもしれないけど――今、あたし達がいるのはこの辺りに一店舗のみ在する大型のスーパーでして。




「――ほら、グズグズするんじゃない葉乃。次の戦いはもう始まってるんだぞ」

「なんかスパルタじゃない!?」



 それから、数十分後。

 そう、どうしてかビシッとした口調でそんなことを言う宵渡よいとさん。いやなんかスパルタじゃない!? まあ、冗談なのは声音からも分かるけど……うん、冗談だよね?


 ともあれ、何やら随分と本気ではあるようで。と言うのも、今日は数ヶ月に一度あるかないかの超スーパー激安スーパータイムスーパーセールが催されているとのことで。……うん、多いなスーパー。ひょっとして、場所と掛けてる?


 さて、その後も宵渡さんの案内(?)の下スーパー内を駆け回るあたし達。そして、普段はまずお目にかかれないであろう破格のお値段にてお並びになっている素敵な品々を次々と籠へ収めていくあたし達。……うん、流石にちょっと……いや、だいぶ疲れた。





「いやーお疲れさま、葉乃ちゃん。お陰で色々と安く買えたよ、ありがとう」

「……うん、ほんと疲れた……けど、役に立てたのなら良かった。どういたしまして」



 それから、一時間ほど経て。

 すっかり夜の帳が下りた帰り道にて、心做しか弾んだような声で告げる宵渡さん。まあ、実際に弾んでいるのだろう。お陰さまで随分と疲れたけど……うん、役に立てたのなら良かった。基本いつもお世話になりっぱなしだし、これくらいはね。



「ところで、葉乃ちゃん。さっきも言ったけど、ほんとに手伝ってくれなくていいんだよ? このくらい、僕一人で持てるし」

「ううん、大丈夫。と言うか、あたしも一緒に持ちたいだけだから」

「……そっか、助かるよ。ありがとう」



 すると、ふとそう尋ねる宵渡さん。そして、そんな彼に軽く首を横に振りつつ答えるあたし。何の話かというと、数多の品が入った大きなポリ袋――そこに付いている二つの取っ手を、それぞれ片方ずつ持っているこの状況についてで。そして、それは即ち、一つの袋を二人で持っているという状況で……ふふっ、これってあれだよね? こう、仲睦まじい夫婦みたいな――



「――っ!!」



 刹那、思考が……いや、呼吸が止まる。……今の、なに? こう、なんか……いや、うん、気のせいかな。





 

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