第12話 やっぱり気になる?

「――ねえねえ、葉乃はのちゃんってなんか趣味とかあったりする?」

「……あ、えっと……読書、とか?」

「へえ、そうなんだ! それってどんな――」



 それから、数日経て。

 朝のホームルーム前にて、前の席から身体を乗り出しつつ朗らかな笑顔で尋ねる女子生徒。彼女は水谷みずたに深幸みゆきさん――少しウェーブのかかった茶髪を纏う華やかな顔立ちの女の子で、いつも明るいムードメーカー的な存在だとみんな言っていて……うん、分かる気がするなぁ。



 さて、海里この高校に来て数日だけど、早くも分かったことは……どうやら、ここにいる生徒――少なくとも、クラスメイトにおいては本当にあたしのことを誰も知らないということで。……ふぅ、良かった。



 ――ところで、分かったことは他にもあって。



「なあ、香坂こうさか

「ねえ、香坂さん」



 一限目後、休み時間にて。

 あたしの席に来て、気さくに話し掛けてくれる男女生徒達。そして、そういった生徒は少なくない――というか、ほとんどみんなそんな感じで。……うん、宵渡よいとさんの言ってた通りだ。


 と言うのも、改めてだけど当校に在籍するのは同じ種の苦痛――SNSによる苦痛を経験した生徒達のみで、新たに入ってくるのもそういう生徒だと改めて説明せずともみんな分かっている。だから、きっと仲間意識があるのだろう。あたしのことを知らずとも、こうして積極的に話し掛けてくれるわけで。……まあ、元来コミュ障のあたしは最初は少し戸惑ったものの……でも、やっぱりありがたいし嬉しくて。……でも――


「ん、どうかした? 香坂さん」

「……あ、ううん何でも」


 すると、あたしの様子に異変を感じたのだろう、きょとんと首を傾げ尋ねる女子生徒。そして、そんな彼女に呟くように答えるあたし。


 ……でも、いいのかな? 仲間だなんて、思っていいのかな? こんなにも良い人達を、そんなふうに思う資格なんてあたしにあるのかな? だって、あたしはきっとみんなと違う。だって……そもそも、あたしは被害者じゃないんだし。





「――さて、今日はどうだった? 葉乃ちゃん。そろそろ友達100人できたかな?」

「いや、だから100人いな……うん、いいや。うん、楽しいよ。みんな気さくだし、優しいし」

「そっか、それは良かった」



 その日の宵の頃。

 夕食の席にて、例によってふざけた口調でそんな問いを掛けるローブ男。いやだから100人いないでしょ、あの学校。

 まあ、それはともあれ本日のメインディッシュは鶏の香草焼き。旨味の詰まった柔らかな鶏肉と、芳しい香草の香りが何とも絶妙にマッチして……うん、やめよ。食レポ下手なのバレるし。うん、とにかくめっちゃ美味しいです。


 まあ、それはさて措き――まだ数日とは言え、彼はこうして毎晩、学校でのことを聞いてくれて。揶揄からかうような口調ではあるものの、あたしのことを気にかけてくれているのは十分すぎるほどに伝わって……うん、ありがとね宵渡さん。



 ……まあ、それはそれとして――



「……ところでさ、宵渡さん。やっぱり、気になってる生徒ひとも結構みたいだよ? 宵渡さんの正体」

「……ああ。まあ、そうだろうね。このミステリアスなローブに潜んでいるのは、いったいどんなイケメンなんだろうと気になるのは至極当然のことだし」

「イケメンは確定なのかよ」



 その後、ややあってそんな会話を交わすあたし達。いやイケメンは確定なのかよ。まあ、実際そうなんだけども。


 ともあれ、やはりこの怪しいローブ男の正体が気になる生徒ひとは結構いるようで。そして、とりわけ水谷さんはその解明に熱心なようで――



『――ねえねえ、どんな人だと思う? 正直、めっちゃ美形だと思うんだよね、私! ひょっとして、葉乃ちゃん知ってる?』



 とまあ、こんな具合にこんな感じの質問といを何度も聞いて……うん、ちょっと……いや、だいぶ焦るよね。よもや、知ってるなんて言えないし……そもそも、今更ながら教師と生徒が一つ屋根の下というのは、一応の事情があるとはいえやはり宜しくはないことだろうし。……ところで、それはそれとして――



「……ふふっ」

「……どうかした? 葉乃ちゃん」

「ううん、何にも」



 ふと、声が洩れる。そして、きょとんと首を傾げ尋ねる宵渡さん。ううん、何でもないよ? ただ……やっぱり、彼のことを知ってるのはあたしだけなんだなって改めて思っただけで。











 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る