第10話 お手伝い
「……ねえ、
「ん、何かな
それから、10分ほど経て。
そう、隣をじっと見つめ告げる。すると、果たして事も無げに答えるローブ男。そして、そんなあたし達の目の前には広々と広がる見事な畑。……いや、広々と広がるっておかしいか。……ただ、それはともあれ――
「……あたしの聞き間違いじゃなければ、確かデートとお聞きしていたはずですけど」
「うん、そうだよ。あれ、言ってなかった? 今日は楽しい楽しい農業デートだって」
「いっさい聞いてませんけども!?」
あたしの確認に、やはりケロッとした様子でそんなことを言う宵渡さん。……いや、思ってたよ? 思ってましたよ? なんか、ほぼ田んぼと畑しかないなぁって。でも、この先にはきっと何か――そう、ゆったりと二人で大人な時間を過ごすカフェとかがきっとあると……いや、まだ
「――いや、そもそもある程度は察してたでしょ? わざわざそういう格好をしてもらったんだから」
「……まあ、それはそうだけど」
すると、どこか小馬鹿にしたようにそんなことを言う宵渡さん。……まあ、それはそうだけど……うん、なんかイラッとくるなぁ。
ともあれ、彼の言うことも尤もで。と言うのも、あたしの格好は上下ジャージに麦わら帽子……うん、どう考えても大人の……いや、どのカフェ用の
「――おお、宵渡さん! 今日もありがとな!」
「いえ、
「それで、ひょっとしてその子が言ってた子かい? めちゃめちゃ可愛いじゃねえか!」
「……へっ? あ、ありがとうございます……」
それから、ほどなくして。
そう、快活な笑顔で告げる精悍な男性。そして、不意のお褒めに少し慌てて答えるあたし。……ふぅ、びっくりした。まあ、容姿にはそれなりに自信があるし、こういう褒め方も少なからず受けてきてはいるけども……それでも、やっぱりなかなかに照れるものでして。
さて、彼――勝也さんはこの辺り一帯の田んぼや畑を所有する農家さんで、あたし達は今日、彼のお手伝いとして何らかの作業をすることになっているらしいのだけども……うん、デートではないよね? まあ、
……ただ、それはそれとして――
「……ん、どうかした? 葉乃ちゃん」
「……別に、何でもない」
すると、隣からそう問い掛ける宵渡さん。でも、別に何でもない。ただ……宵渡さんにはそういうことを何も言われてないなぁ、なんて思っただけで。……まあ、あたしも言ってないからお互いさまなんだけども。
「…………ふぅ、きつい」
「ほら、ビシバシ動け葉乃。休んでる暇なんてねえぞ」
「なんで急に体育会系!?」
それから、数十分後。
思わず呟くあたしに、ほど近くからそんな
ともあれ、今しているのは茄子の収獲。
……ただ、それはそうと……うん、きつい。わりと涼しいこの時間とはいえ、それでもやっぱきつい。……だけど、それでも――
「……けっこう楽しい、かも」
「ふふっ、それは良かった」
そう、ポツリと呟く。すると、どこか嬉しそうな声音で答える宵渡さん。まあ、今のはほとんど独り言のつもりだったんだけど……でも、こうして気にかけてくれているのはやっぱり嬉しくて。
「――ほんとありがとな、宵渡さん、葉乃ちゃん。お陰で助かったぜ!」
「いえ、勝也さん。お役に立てたのなら幸いです」
「あっ、その……どういたしまして、勝也さん」
それから、一時間ほど経て。
そう、晴れやかな笑顔で謝意を告げる勝也さん。太陽のようなその笑顔だけで、ふっと疲れが飛んでいく気がして。うん、お役に立てたなら良かっ――
「――ほら、食べな二人とも! 採れたては格別に
「ありがとうございます、勝也さん」
「あ、ありがとうございます……」
すると、ふと朗らかな笑顔でそう口にする勝也さん。食べな、とは間違いなくあたし達の手にある
「……うわぁ」
「な、美味えだろ?」
思わず、声が洩れる。……うん、ほんと美味しい。もともと茄子は嫌いじゃないけど……それでも、こんなに美味しいと思ったのは過言じゃなく初めてで。
勝也さんの言うように、採れたてだからというのはあるのだろう。……でも、それだけじゃない。こんなにも美味しいのは、彼が丹精込めて育てたからなのは間違いなくて……うん、すごいなぁ。
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