第7話 海里高校

「おはよう、葉乃はのちゃん。それじゃあ、早速だけど自己紹介をしようか」

「……えっと、その……今日、こちらの学校に転校してきた香坂こうさか葉乃っていいます。その、よろしくお願いします……」

「はい、とってもよくできました。パチパチ」



 それから、数日経て。

 柔らかな陽光が優しく差し込む、校舎二階に在する二年生の教室――その壇上にて、何ともおどおどしつつ自己紹介をするあたし。……うん、我ながらなんてみっともない。まあ、そもそも根暗だしね、あたし。

 ……ところで、今更ながら転校って言うのかな? あたしの場合。そもそも、前の学校は辞めてるわけで……まあ、どっちでもいいんだけど。



 さて、ここは海里うみさと高等学校――山の中腹辺りにひっそりと在する、全学年を合わせても50人にも満たない小さな高校とのことで。





『…………あたしのことを、誰も知らない高校?』



 一週間ほど前のこと。

 朝食の席にて、茫然と呟くあたし。何やらあたしのことを誰も知らない高校があり、そこに通ってみないかとの提案で。……いや、侮ってもらっちゃあ困りますぜ親方。これでもあたい、ここらじゃそこそこ有名ですぜ? それこそ、縁もゆかりも無いはずのあんたがご存じなくらいにはねえ。……うん、急にどうした?


 ともあれ、本題に戻ると……いや、もちろん誰もがあたしのことを知ってるなんて思い上がってはいない。いないけども……それでも、一高校の中で誰も知らないなんてことも流石にないかなぁと。



 すると、あたしの疑問に答えるように滔々と説明を続ける宵渡よいとさん。そして、ほどなく衝撃を受けるあたし。なんと、その高校――海里高校の生徒は現在、誰一人としてスマホを所持していないとのこと。と言うのも――当校の生徒は一人の例外もなくみなが過去にSNSによる何らかの被害を受けており、SNSはもちろんスマホに触れることすら拒絶反応を示す生徒ひとも少なくないとのこと。尤も、これは偶然でなく、そもそもそういう生徒のために創設された高校とのことで。……まあ、そりゃ偶然なわけないよね。一人の例外もないんだし。


 そして、ここからが本題と言えそうだけど――SNSにてが広まったのは、現在いまからおよそ二ヶ月前。そして、当校にて直近に生徒が入ったのが現在いまから三ヶ月前――即ち、宵渡さんの言葉が事実なら、確かにあのことを知る人はいないということになって。……まあ、SNSそれ以外の経過で知っている生徒ひともいないとは限らないけど……でも、そこはひとまず措こう。そこまで言い出したら流石にキリがないし。


 だけど、もしも本当に海里そこにあたしのことを知る人がいないとしても、生憎ながら懸念が完全に消滅するわけではなく。と言うのも――あたしのことを誰も知らないのはあくまで現在いる生徒の話であって、今後入ってくる生徒には該当しない。なので、今後の生徒に関してはあたしのことを知っている可能性もあって――



 だけど、そこに関しても問題ないとのこと。と言うのも、前述の通り当校の生徒は皆SNSにより何らかの被害を受け、もうSNSそれと一切関わりたくないと本気で思っているとのこと。そして、そもそも当校はそういう生徒のみを募集し、今後もその方針は揺るがないとのこと。なので、あのことを知ってるかどうか以前に、種類は違えど同じくSNSにより被害を受けた仲間あたしに共感こそすれ悪く思うはずなどないとのことで。……うん、それならいいんだけど……それでも、あたしの場合は……いや、よそう。宵渡さんがここまでしてくれてるのに、当のあたしがこれ以上悲観的ネガティブに考えるのは流石に申し訳がなさすぎるし。



 

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