第4話 破れぬ誓い

「…………ん」



 ふと、目が覚める。ぼんやり瞼をこすると、未だ朧な視界に映るは白い壁とその手前にある木組みの本棚。だけど、本来ならもっと手前――目と鼻の先にいたはずの男性は、そこにはいない。今、ベッドには一人――まだ朧な意識にて、一糸纏わぬ姿で毛布に包まるあたし一人がいるだけで。


 さて、何があったのかと言うと……まあ、流石に説明するまでもないかな。例の怪しげなローブの男性、宵渡よいとさんと床を共に――つまりは、関係を持ったわけで。





『悪いんだけど、言葉じゃ当てにできない。だから――あたしを抱いて』



 昨夜――いや、正確には今日と言うべきなのかもしれないけど――ともあれ、すっかりあられもない姿でそう口にしたあたし。……うん、さぞかし驚いたことだろうね。いや、驚かれるだけならまだマシで、普通に軽蔑されてても不思議はない。


 それでも、あたしにとってこれは必要不可欠とも言えようことで。居場所をくれた恩人に対し、こんなことを言うのもどうかとは思うけれど……それでも、彼が裏切らないという保証はない。どうしてか――本当にどうしてかあたしに感謝しているみたいだし、当面は心配ないかもしれないけど、それがずっと続く保証はどこにもない。例えば……そう、もしも恋人ができたりなんてしたら、あたしの存在は確実に邪魔になる。そして、そうなると必然――


 だから、真っ先に手を打った。あたしは現在いま、17歳の未成年。そして、宵渡さんは20代後半で、あたしより一回りほども歳上としの成人――即ち、をするのは彼にとって相当な危険リスクを孕んでいて。

 尤も、彼の年齢としにおいて決してを持ってはならないのは16歳未満の相手なので、17歳あたしの場合即アウトというわけじゃない。それでも、相手が未成年である以上、彼の――成人の側には、条例の下にて一定の責任が生じる。そして、その責任とはその二人の交際が真剣なものであること。……まあ、これだけだと何とも漠然な……何を以て真剣とするのかという感じはあるけども――つまりは、結婚を前提とした交際、といったところだろう。


 ともあれ、結局何が言いたいのかというと――あたしは、最強の切り札を持っているということ。彼があたしを――それこそ、恋人を作ってあたしを追い出そうなんてしようものなら、この行為ことを然るべき機関に告げればいい。事前に承諾を取り行為ことの一部始終を収めさせてもらったこの動画を提示しつつ、彼に弄ばれていたと主張すればいい。尤も、将来的にどこかで裏切られたからといって現在いまのこの時点――身体を重ねたこの時点で既に真剣な交際ではなかったとは必ずしも言えないだろうけど……まあ、そこは未成年あたし側の有利になるよう判断してくれるはず。そもそも、未成年こちらを護るための条例ルールのはずだし。



 ……でも、今更ながら心配ないかなと。だって、動画を撮ることまで承諾……どころか、それであたしが安心するなら是非とまで言ってくれたくらいだし。




 

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