第3話 ……だから、証を見せて。

「――どうぞ、葉乃はのちゃん。見苦しいところだけど、お好きなところにどうぞ」

「……あ、うん、ありがと……」



 それから、20分ほど経て。

 そう、キッチンの方へと向かいつつそう口にする宵渡よいとさん。到着したのは、山の麓に在する白を基調とした二階建ての一軒家。この怪しい風貌からは似つかず何とも爽やかなお家で、内部なかもほっと落ち着く白が広がり……うん、ほんと意外。なんか、もっとおどろおどろしい感じの……こう、黒魔術でもやってるようなお部屋かと。





「――それじゃあ、何か飲み物でも……あっ、申し訳ないけどお酒はなくてね」

「いやいらないよ。知ってると思うけど、未成年だからね? あたし」



 その後、キッチンにてそう問い掛ける宵渡さん。いやいらないよ。未成年だし、たぶん成人おとなになっても飲まないし。あと……脱がないの? そのローブ。よもや、家でもずっとそれじゃないよね? ひょっとして、よっぽど外見にコンプレックスがあるとか……いや、気にしないよ? いや、あたしにも好みはあるし、自分が真っ当な人間だなんて微塵も思ってないけど……でも、それでもどんな理由であれ、居場所のないあたしを助けてくれた恩人に対して、外見を見て馬鹿にするほど落ちぶれてはいないつもりだし。




「…………おいしい」

「そうかい、それは良かった。これでも、一応のこだわりはあるからね」



 その後、ほどなくリビングにてそんな会話を交わすあたし達。結局、あたしがお願いしたのは珈琲。理由は単純に好きなのと、何やら本格的なそれ用の機器が並んでいたので、ひょっとして珈琲にこだわりがあるのかなと思ったから。すると、果たしてそうだったようで……うん、すっごく美味しい。


 ……ただ、それはそれとして――


「……ん、どうしたのかな葉乃ちゃん」

「……あ、いや別に……」


 そう、首を傾げ尋ねる宵渡さん。……いや、何というか……うん、まだ脱がないんだね、そのローブ。まさかとは思うけど、そのままで寝るつもりじゃ……まあ、もちろん本人の自由なんだけども。




 

「――本当に良いのかい、葉乃ちゃん。有り合わせで良ければ、何か作るけど」

「うん、ありがと宵渡さん。でも大丈夫。今日ももう遅いし、ご飯ならもう食べてるから」

「……そっか。まあ、それもそうだね」



 それから、少し経過して。

 宵渡さんの問いに、軽く首を振り答えるあたし。未だ顔を見えないものの、声音から少しガッカリしているような……いや、気のせいかな。



 ともあれ、それぞれ入浴を終えたあたし達。スマホを見ると、もう日付を回っていて。まずい、これでは明日に差し支えが……なんて、別につかえることなんてないけど。仕事も学校もないんだし。



「それじゃ、お休み葉乃ちゃん。部屋の場所は覚えてるよね?」


 すると、ほどなくそう言い残しリビングを後にしようとする宵渡さん。うん、覚えてる。二階を上がってそこから真っすぐ、そこの奥から二番目にある部屋だったはず。……でも、それはそれとして――



「……ねえ、宵渡さん。本当に、信じていいの? 貴方のことを」


「……へっ?」



 そう尋ねると、ポカンとした表情かおで声を洩らす宵渡さん。いや、もちろん顔は見えないままなんだけど……まあ、なんかイメージで。ともあれ、少しの間があった後――


「……まあ、それはそうだね。なにせ、今日会ったばかりの正体不明の怪しい男――完全に信用しろという方が到底無理な話だろうしね。いや、僕のような人間でなくとも完全には無理か」


 すると、ふっと息を吐きそう口にする宵渡さん。……いや、怪しいって自覚はあったんだ。まあ、怪しいからね、どう考えても。


「――それで、葉乃ちゃん。いったい、僕に何をしてほしいんだい? ここまで来たということは、まるで信用してくれていないわけでもないんだろう?」

「…………」


 すると、ほどなく至って冷静な口調でそう口にする宵渡さん。……うん、やっぱり察しが良いね。

 そう、彼の言う通り、まるで信用していないわけじゃない。だけど、あたしが基本人を信用しない性質たちなことを除いても、今日会ったばかりの人間を完全に信用するなんて土台無理がある。だから――


「……だから、証を見せて。絶対に、あたしを裏切らないという証を」

「……裏切らない、証」


 そう、じっと見つめ告げる。信用とは、即ち裏切らないという約束――ならば、仮に人間的に信用できなくても構わない。結果的に裏切られなければ――即ち、。そして、そのためには――


「…………葉乃ちゃん」


 そう、茫然とした表情かおで呟く宵渡さん。いや、だから表情かおは見えないんだけど、それはともあれ……まあ、そうなるよね。突然、目の前で徐に衣服ふくを脱ぎ始めたのだから。そしてほどなく、すっかりあられもない姿になったあたしがゆっくりと口を開いて告げる。



「悪いんだけど、言葉じゃ当てにできない。だから――あたしを抱いて」 





 






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