第7話 偽札、偽サイト、偽りの街
池袋、午前2時。
「トリガラの倉庫」は静かに燃え尽きていた。爆発の余波で建物は半壊し、瓦礫の下からいくつかの死体が見つかったが、ニキータの姿はなかった。
現場から回収されたのは、高精度の偽札が詰まった耐火金庫。
まるで本物と見分けのつかない出来栄えだった。
蓮司はそれを見て、かつて西宮署の組織犯罪対策課にいたときのことを思い出した。
“裏金を生む工場”の噂。
“裕次郎似のカリスマ”が仕切っているという都市伝説――
そして今、その顔を再び見ることになるとは思ってもいなかった。
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赤坂。クラブ“Shangri-La”。
店の奥、ベルベットのカーテンが揺れると、現れたのはまさに石原裕次郎似の男。
銀髪、白のスーツ、ワイングラスを手にした貫禄の男――伊丹
芸能界・政財界のパトロンとして名を馳せた伝説のフィクサーだ。
「よく来たな、矢代。ニキータは……もう俺の管理下にはいない。あの女は“私情”を持ちすぎた」
「……偽札はお前か」
「偽札? いや、“芸能界”さ。もっとタチが悪いぞ。心まで贋物が蔓延ってる」
蓮司は苦笑する。
「らしいな。ここじゃ二世タレントですら、血筋じゃなくて“仕込み”でできてるって噂だ」
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その時、クラブの一角で、津田健次郎似の男が、女の耳元で何かを囁いていた。
目を凝らすと、女はどこかで見た顔――
**常盤貴子似の女優。**かつて一世を風靡したが、今は広告塔として裏の世界に出入りしているという噂の女だ。
蓮司が視線を送ると、津田健次郎似の男――**五十嵐
「矢代さん、俺たちが作ってるのは偽札だけじゃない。“偽サイト”もね。政治家のスキャンダル、薬物使用疑惑、海外人身売買、何でも“真実”に加工して売る」
「……偽札よりもタチが悪いな」
「事実なんて要らないんですよ。みんな信じたいものを信じてる。それが正義だと勘違いしてる」
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夜の赤坂に、またひとつ煙が昇った。
伊丹の愛車――クラシックな黒のベンツが爆破されていた。
現場には、1枚の写真が貼り付けられていた。
> 「NEXT:世田谷、二世の楽園」
蓮司はその文字を睨みつけながら呟いた。
「……“二世”を殺して誰が得する? 誰かが“血”そのものを否定しようとしてる」
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その夜の終わりに。
蓮司は再び池袋の屋台街へ戻った。
あの肉そばの屋台で、立ち食いをしながら考える。
偽札、偽サイト、偽の顔。
それでも人は、ほんの一口の肉そばのような“本物の温もり”を求めて生きてる。
「この街の夜は、全部が“つくりもん”かよ」
と呟いて、ショートホープに火をつけた。
煙の向こう、再び“ニキータの匂い”が近づいてくるのを、肌で感じていた。
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