第四十九節 信じていなかった

言葉に霊など宿らぬ

そう言ったのは誰だったか

紙片のように軽く語り

意味だけを食べた者


神棚の前で笑った口

祝詞を崩し、音を潰す

声をただの波と見なした

その瞬間、風が黙した


「唱えてもなにも起こらない」

その一言がひとつの門を開けた

声が通らぬはずの空間に

響きは静かに滲み出す


夜の夢が文になる

記号のように並ぶ人々

書かれぬ名前が笑い

語らぬ言葉が耳に這う


否定した者の舌が硬直する

自らの語が自らを裂く

誰もいない部屋で

喉の奥から声が剥がれる


「信じぬことが免罪ではない」

言葉は意思ではなく律

受け止めよ、語った代償

否定することが呼びかけとなる


家の外に残る足音

それは語られぬ言霊の形

意味を捨てた者にだけ

その姿は見えるという


彼は今も語る

霊などいない、語に力などない

ただその声はもう誰にも

通じていない


語られぬ語が

語る者を沈黙に変える

そしてまた誰かが

“意味だけを食べる”日まで

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