【短編】ヒカリノソノ

ムスカリウサギ

光の園


 赤や緑や、

 青や光。

 ぐちゃぐちゃテクスチャ、しっちゃかめっちゃか、

 ぴかぴか、ちかちか、道化だらけ。


「やあやあ、ようこそ。光の園へ」


 ゲートの手前には、一人の道化。

 手にはステッキ、派手派手な服。

 真っ赤にぷくんと膨れた風船、

 ぐいっとわたしに差し出して。


「貴女に幸運が訪れますように」


 いやいや、やめてよ。

 薄気味悪い。


 ここはどこ?

 尋ねるわたしに、道化はぺろりと舌を出す。


「光の園だよ」


 そうじゃない。




 赤い風船、緑の風に、

 青いお空へ飛んでいく。

 鮮やかな色、原色の色、ちかちか、まばたき、やかましい。


「寄ってらっしゃい見てらっしゃい、愚かな道化師ジョーカーが美学を語るよ」


 騙るの間違いじゃないのか?

 いや、道化なりの美学なのかと、

 ちょっぴりこっきり、思ったけれど。


 無視だシカトだ全力スルーだ。


「まあまあ、そんな寂しいこと言わないで」


 えぇい、離せ近寄るな。


「話せ? 地下寄るな? わかった地上で話そうか」


 ダメだ、話が通じねぇ。




 赤色鏡、

 緑のおりに、

 青い大人がか細く泣いてる。

 ぐすぐす、すんすん、時々、ちらちら。


「ああ私は憐れな囚人さ、ちら」


 こっち見んな、

 いちいちいちいち鬱陶しい。

 ウザイ大人は相手にしちゃダメ。

 見えないように見ないように。

 

「おいおいキミキミ。こんな阿呆、相手にしなくちゃ損だよぉ?」


 自覚があるならやめてください。

 いい大人なんだからやめてくれって。


「ははは、やめないよ。これがわたしの仕事だからね」


 ウザ。


「そうさ、わたしは自由人なのさ」


 ゅ、が、ゆ、に大きくなったね。

 そしたら、頭が濁ってしまったの?

 ああ、大人になるって哀しいことなの。




 赤い四角に、緑の三角、

 青い花丸、ぷかぷか浮いて。

 いよいよ意味がわからない。

 浮いてる図形は一体なぁに?


 図形、数系、崇敬の念を。

 文章、勲章、揃えば優勝。

 犯罪、万歳、叫べよ喝采。

 嫌だ、嫌だと、もがながら。


 ふわふわゆらゆら、やって来る。

 やあやあようよう、手を挙げて。


「おやおやとうとう、お帰りで?」


 えぇえぇところで、どちら様?




 赤い光に、緑の光、

 青い光が混ざってぐちゃぐちゃ。

 ド派手な道化は、あざとく笑う。


「如何でしたか、光の園は?」

 

 ちかちか光がかちんと来たの。

「それはそれは」

 キレやすいのよ現代人。

「どうしてどうして」

 お見知り置きを。

「貴重なご意見感謝いたします」

 

 どうせモニタの向こう側。

 偽造捏造脚色まみれ。


「それではどうぞ、お帰りはこちら」


 光の園から逃げた先は。


 真っ暗闇の、わたしの世界。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【短編】ヒカリノソノ ムスカリウサギ @Melancholic_doe

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説