第14話

  《十四》

「それじゃ深耕のシーン撮りますよ」

 青年団のカメラ担当の松本さんから声がかかる。

 素人ばかりの手作りなので事前の打ち合わせも特になく、撮影時間も決まってはいない。

 七重はジーンズに長袖のトレーナーという動きやすい格好で、初めての農作業を経験することになった。子供の頃から茶畑をずっと見てきていたが、農作業を実際に手伝ったことはなく、その意味も知らなかった。

 豊兄さんに、手作業用の鍬を持たされ、使い方を教えてもらう。鍬といっても、スコップの先が四本の棒状に分かれ、足で刃を踏み込んで掘り起こしていく。鍬自体が結構な重さがあり、不慣れな七重にはかなりの重労働だ。

 九月末とはいえ、少し作業をすると汗が出る。それをいちいち手を止めて拭くわけにもいかないので、首にタオルを巻く。さながら農家の娘になったようだ。

「こんにちは。これから季節ごとに、お茶についてご紹介していきます。今日はまず、茶畑の手入れの大変さからお伝えしますね。今、私がやっているのは深耕といって、茶畑の土壌を整える仕事です。いいお茶を作るには、まず、いい畑を作ることからなんです」

 カメラに向かって、準備された原稿を読んで、笑顔を向ける。そしてまた、作業を続けていく。

「空気を入れ土を柔らかくすることで肥料の吸収も良くなり、雑草が生えるのを防ぐ効果もあるんです。また、細い根を切って、茶の木の生命力を呼び起こすことことにもなります。農家の方はこうして一年中お茶の木を大事に育てます」

 作業続けながら、教えられたその意味を紹介する。

「ちょっと体力の要る作業ですが、こうして茶の木に元気になってもらいます。そして来年の八十八夜、私だけの新茶が採れます。七重農園からでした」

 汗をぬぐいながら最後の台詞を言って、収録は終わる。

「はい、オーケーです。お疲れさま」

 松本さんの声で、ふうとため息をつく。

 豊兄さんは今撮った映像をすぐにカメラのモニターで確認している。七重は折角なので、やり残したところを最後までやっておこうと、作業を続ける。

 農道から少し上がったところで、その畑の入口には、これも手作りで『七重農園』と看板を置いてある。

 休耕地をとりあえず五つの区画に分け、数年間そのままにしてあった畑の雑草を取り、茶の木も植え替えてくれている。隣の区画は、若木が植えられ、何年かをかけて育てていけるようになっている。

 町興しのために、青年団がいつもの仕事の合間に整えてくれているのだ。

「七ちゃん、もうええよ。あとはわしらがやっとくさかい」

 そう声をかけてくれるが、七重農園と看板をかけている以上、やはりできるだけ自分の手で育てていきたいのだ。

「はい、もう少しですから」

 そう返事をして、区画の中をやってしまう。豊兄さんは、そんな七重を見ながら、松本さんと次の作業や撮影を打ち合わせている。

「お疲れさん。ほんまに全部やってもうたんやな。しんどかったやろ」

 そういって缶入りの和束茶を差し出してくれる。これも数年前に売り出した、ご当地限定の商品である。

「でも、七重農園ですから、できるだけ自分でやらないと、お客様に嘘をついてしまうことになりますから」

「ほんまにええ根性してるわ。頼りにしてるで」

「といってもここまで準備していただいて、ですから」

「わしらはいつものこっちゃから。それより、収録はばっちりや。カメラマンの方が緊張してたけど、さすがに本番には強いなあ」

「どうもそうらしいです」

「しかし、吉野のおっちゃんに見せたら叱られそうや。七重をこきつこうて、いうてな」

「いいんです。半分は吉野のためにやっているんですから」

「それに親父にも」

「おじさんが?」

「お嬢にあんまり無理さしたらあかん、て。今日もここまで見にくるて言うのんを止めたんや。親父がいてたら、途中で止めさせたやろうな。わしがやるて」

「それじゃ、PRになりませんね」

「そやねん。七ちゃんが可愛いてしゃあないねんから」

 一応、おじさんにも報告しておこうと、松本さんも一緒に山岡へ行く。

 豊兄さんが、いい映像が取れましたと、おじさんにモニターを見せると、おじさんは七重の台詞に頷きながら、眼を細めてじっと見ていた。

「お嬢、ご苦労さんやったな」

「いいえ、七重農園ですからこれからもがんばります」

「これからも、肥料やったり草取りしたり、結構きついで」

「春になったら覆いをかけて碾茶にしたいなって」

「ほう、そらまた大変なこっちゃ」

「お抹茶にして、おじさんにも一服飲んでもらって、恩返しをさせてくださいね」

「何を恩返しをすることがあんねん。しかし、それは楽しみやなあ。やっぱりお嬢には畑より店の方が似合うてる。どや、店の方は」

「はい、売上は少し減ったままですけど、安定しています。長いお付き合いのお客様に支えられていることがよく分かってきました」

「そうか」

 話が途切れたところで、松本さんはまだ仕事があると帰って行った。

「なあ、豊、山吉のこっちゃけど、お嬢に継がせたらどうや」

「なんや急に。しかし、継がせたら、言うても、そらあ吉野のおっちゃんが決めることで、わしらがどうこう言うのんは筋ちがいやないか。第一、七ちゃんにその気が・・・」

 そう言って眼を丸くしながら七重を振り返る。

「私は、そうしたいって思ってるんです。どこまでできるかも自信は無いし、あれこれ山岡に迷惑かけることにはなるでしょうけど」

「ほんまに?」

「はい。でも、まだ、父はうんとは言ってくれないんです」

「なるほど、七ちゃんも物好きやなあ。やけど、おっちゃん、なんであかんのやろ」

「稔はんな、迷てるように思えんねん」

 そう言って、お茶を一口すする。

「山吉の暖簾は守りたいけど、お嬢に苦労させんのんは見えてるし、お前や誠が認めてくれるるかなあて」

「認めてくれる、て、七ちゃんが女やからか?」

「そうや」

「おっちゃんも今時古臭いことを言うなあ。そんなん関係あらへん。もっとも、七ちゃんに苦労かけとうないちゅうのんは、ようわかるけど」

「ただな、暖簾継ぐちゅうたって、何年もかかるこっちゃし、お嬢もいずれは嫁にも行かんならん。そうなったら、うちに迷惑がかかるて」

「そらなあ、けど、それも七ちゃんの覚悟次第やないか。結婚したかて、仕事やめる必要もないし。おっちゃんまだ若いねんから、子育てしてる間だけは頑張ってもろたらええ。それに田村さんもいたはるのに」

「お前もそう思うか。お嬢やったら気心知れてるさかいなあ、お前らともあんじょうやっていけると思ってんねん」

「それでええと思うけどなあ。まあ、最悪、ちゅうたらあかんけど、七ちゃんが遠くの人と結婚してもうたら店も続けられへんから、相手は選ばなあかんかもしれんけど」

「それもあるんや。嫁の行き先も、最初から条件つけたらあかんし」

「まあ、そうなったらなったときのこと。そん時考えたらええ。近くでええ人見つけてくれたら言うことなしやけど」

 豊兄さんは意外なほどすんなりと認めてくれる。

「けど、七ちゃんほんまにやる気でいてんのか?しんどいのは覚悟しいや。俺らは自然が相手で、手間ひまかかるけど嘘言わへんし駆け引きもないけど」

「はい。といっても、その難しさも分かってはいないんですけど。弱音は吐かない覚悟でいます」

「偉いなあ。けど、親父、さっきも言うたけど、俺らが吉野のおっちゃんに口出しはでけへんのとちゃうやろか」

「うん、そら最後は稔はんやけど、山岡の気持ちは伝えることはでけるでなあ。いらん心配はせんでええちゅうて」

「なるほど。それやったら折を見て俺から言うとこか。今日の報告も含めて、おっちゃんと話する機会もあるから」

「そうしてくれるか、わしはもう隠居の身やからな」

「わかった。近いうちに話してみる」

 そして、それまでの優しい顔から、ふと厳しい視線になる。

「まあ、先のことやけど、そうなったらこっちも生活かかってるから無理も言うで」

「はい。これまでのように甘えてばかりはいられないと思っています」

「景気が悪うなったらお客さんの取り合いになって、今回の春風園さんとの競争どころやないときもある。どないする?」

「はい。お店に出るようになって、日頃が大事だと学びました。山吉か他のお店かで迷われるようでは負けです」

「和束が災害におうて、茶が半分しか出されへんようになったら?」

「お店も半分閉めます。そして半分はお客さんのところを回ります」

「なんちゅうて」

「お詫びと一緒に、私が信頼できるお店を紹介します」

「他の店を?」

「はい。大切なのはお客様に喜んでいただくことですから」

「なるほど。ええやろ、合格や。よろし頼むで」

 豊兄さんは、七重の覚悟と同時に姿勢を試したようだ。稔の娘として接している間は、気立てがよければ親しく付き合っていける。しかし、山吉の後継者として考えるとなると、それだけでは足りない。まして、山岡として七重を認めていくことを稔に伝えるとなると、それに堪えられる人間である必要がある。

 もちろん、今の七重には何の経験も知識もない。それは長い時間をかけて学んでいかなければならない。ただ、物事の考え方の基本が甘かったり間違っていたのでは、いくら学んでも本物にはならない。山岡がこれからパートナーとして付き合っていくには、その基本の部分を確認しておきたかったのに違いない。

 今のこんな頼りない七重でも受け入れてくれるのは、豊兄さんには自分の仕事に対する自信があるからなのだろうと思う。

「私、卒業したら、しばらくおじさんに弟子入りして、ここでいろいろ教えてもらおうと思っているんです。いいですか?」

「はあ?本気で農業やるつもりかいな」

「だって、お茶の木や葉、それに土を知らないことには、本当にいいものって分からないと思うんです」

「そらまあ、そうかもしれんけど、親父がええのなら俺はなんとも」

「わしはあかんて言うてるんや。勉強すんのは結構なこっちゃけど、弟子にはせえへんて」

「そうやろう、親父が七ちゃんにきついことが言えるかいな。ま、ええわ。厳しいことは俺が言う。親父、七ちゃんがしんどそうでも、手伝うたらあかんで。七ちゃんのためやと思うてな」

「わかっとるわい」

「ほんまか?七ちゃんの覚悟の方が親父の覚悟よりは信用できそうやけど」

 おじさんは豊兄さんを信頼して、いろいろ相談もするが基本的には全面的に任せている。豊兄さんもその責任をしっかりと果たしながら、おじさんのことを大切にしている。そして思うことをお互いに遠慮することなく口にする。

 いつの日にか、稔と七重もこんな風に話せる日が来るのだろうかと思う。

 山岡でとりあえず認めてもらったことで、七重の気持ちも一層しっかりとしたものでなくてはならくなった。

 これまでも、決していい加減な気持ちで、山吉を継ぎたいと考えていたわけではない。しかし、これからは、より具体的に物事を捉え考えていかなければならないと思うのだ。

 翌日、小宮の家を訪ねて、七重農園の話をする。たった一日の作業だったが、顔から首筋は日に焼けて赤くなり、慣れない力仕事で、体は筋肉痛であちこちが痛い。そんな話をして小宮のご家族と一緒に笑い合う。

 当面の問題はやはりアルルのメヌエットだった。七月に、小宮が是非とも七重に聞かせたいと言ったCDは、七重の想像を遥かに超えて、じっと聴いているだけで涙が出てきた。

 音色の美しさはすでに十分に知っている。ただ、短い一つ一つのフレーズにいくつもの思いや感情が込められ、言葉こそないものの、それが聴く者の心を揺さぶる。大げさに言えば、メロディも楽器もそしてその音色もあらゆる技術さえも、その心を伝える道具や手段にすぎないと思えてくる。

 広中教授は真摯に楽譜に向き合うことを常に求める。しかし、楽譜を見る限り、作曲者ですらこれだけの思いを込められるとは思っていなかったのではないかと思える。

「無理です」

 七重が涙目で小宮を振り向くと、小宮は小さな子供をあやすように頭を撫でてくれる。

「きっと世界中のフルート吹きがそう思っているだろうな。だけど、ほんの少しだけ、真似をしてみよう」

 七重にはどこをどう真似をすればいいのかさえ分かっていなかったが、小宮にそう励まされて小さく頷く。

「今自分にできるベストをやってみる。そしてまた明日は明日のベストを」

「はい」

 秋の定期演奏会のほかの曲は、二宮さんともう一人矢沢さんという三回生に全て任せて、七重はアルルだけに取組むことにした。

 非常勤と言っていた結城さんも、今回は広中教授の指名でアルルにだけは出演することになった。これで五重奏のメンバーが全て揃ったことになる。

 そして十月になって、広中教授のリハーサルが始まる。この三ヵ月は、七重にとって音楽的には悩みの中の三ヵ月だった。楽譜上はおそらくフルートを持って一年もすれば演奏ができる。なのに、最初の四小節だけでも、CDのように言葉にしようとすると、途方もなく難しいのだ。

 唯一、少し近づけたのは、フレーズの最後の音の処理だった。

 歌にしても言葉にしても、思いは全て語尾に集約される。そのことに思い至って演奏を聴くと、すべてのフレーズが、始まりよりも終わりが丁寧に扱われている。そこで、七重もそれを真似ようとするのだが、そこには様々な技術的な課題が現れる。長い音をコントロールすることはある程度できても、フレーズの最後のほんの一瞬に全てをフィットさせるのは想像以上に難しい。

 だが、それが上手くできると、次のフレーズにごく自然に入ることができるようになる。

 これまでの練習方法とは全く違う視点が生まれてきたために、戸惑いとともに随分悩まされもした。今でも毎回と言っていいほど、バラツキが出るのだ。

 それが今の七重の実力だと思う。

 初日に、広中教授がオーケストラには在籍のないサキソフォンの院生を連れてきて、皆に紹介をした。谷口と名乗り、ジャズとクラシックの両方で活躍したいと、大学院から桂音大へ編入してきたという経歴の持ち主だった。

 オーボエとファゴットの間にぽつんと座らされて、少し居心地が悪そうだ。それでも周りのメンバーには楽器そのものが珍しく、あれこれと質問を受けている。

「じゃ、最初から。谷口君いきなりのソロだが、柔らかくね」

 第一組曲の前奏曲が始まる。

 そして第二組曲。最初のパストラルではクラリネットと全く同じ旋律が続く。高田さんとは五重奏で一緒だったこともあって、お互いの癖もわかっていて苦労はなかった。

 いよいよ七重の力が試されるメヌエット。

「吉野、テンポはどれくらいだ?」

 広中教授がメンバーにテンポを尋ねるのは初めてのことだ。そのことに七重も周りのメンバーも少し驚いている。

「できれば、ほんの少し早めでお願いします。息が続かないといけませんので」

 七重が遠慮がちに言うと、広中教授は指揮棒で譜面台を三回叩く。ほぼ、CDと同じテンポだった。そして、左手で一拍だけのサインをハープに送り、指揮棒は胸の前で止まったままだ。演奏者に任せたよという合図である。もっともしばらくはハープとフルートだけなので、指揮棒も必要はない。

 前奏が始まると、七重は自分の演奏に集中してしまう。練習でやってきたとおり、フレーズの終わりに全神経を集中していく。大切に心を残して、次のフレーズに移っていく。

 静かなホールに七重の音だけが遠く反響して聞こえてくる。

 何度練習しても息が足りないところでは、一度だけ短いブレスを入れて、弱々しくならないように工夫もしてきた。

 そして最初の山の半音階ではハープも休むので、ほんの少しテンポを揺らせる。その後には小宮のホルンが優しく入ることで、安定感が増し、次のフレーズからは結城がオーボエで同じメロディを吹いてくれる。その頃から、広中教授も指揮棒を動かして、それぞれのバランスに気を配ってくれる。

 そしてオーケストラ全体のフォルテの中間部。弦の豊かな四分音符の間に、木管楽器の十六分音符の音階が星屑のようにキラキラと織り込まれる。

 そのフォルテの後は再びフルートのソロで、サキソフォンがレガートなオブリガードとなる。どうしてもサキソフォンの方が基本の音量が大きい。谷口は七重の音を生かすように、柔らかなピアニッシモでそのメロディを吹いてくれる。

 最後にはまた、ハープとフルートだけになって、同じ旋律が繰り返される。CDでは最高のピアニッシモだったが、七重にはまだその技術がなく、ほんの少しだけ音量を落とすのが精一杯だった。

 それでも練習の成果で、何とかうまく消え入ることができた。

 そしてホールは静寂に戻る。次は終曲ファランドールだ。

 しかし、曲は始まらず、広中教授をはじめ、他のメンバーも七重に拍手を送ってくれたのだ。

「吉野、ブラボーだ」

 弦のメンバーまでが笑顔を送ってくれている。

「みんな吉野本人より緊張していたようだ。もちろん私もだが。しかし、見事だった」

「ご心配をかけてすみません。そんな、拍手をいただけるほどのものではありません」

 立ち上がって、メンバーに頭を下げると、笑い声が聞こえてくる。それだけメンバーは期待と不安を抱えていたのだ。それがようやく安心に変わったのだろう。

 七重本人は、自分の音に集中していて、それほど緊張も心配もしてはいなかった。いつもその場になると人間が変わると言われる。それはどうやら、その場になってもいつもと変わらないことが他の人から見ると、変わっていると見えるのかもしれない。

「さて、もう一度緊張感を持って、ファランドールだ」

 広中教授がいつもの鋭い眼になると、オーケストラにまた緊張感が張りつめる。

 第一組曲の最初と同様に三人の王の行進のテーマが、華々しく歌われ、その後軽快なファランドールとなる。最後にはその二つの旋律が絡み合い、タンバリンの連打で勢いを増してテンポを少し速めて終わる。

「ちょっと最後はリズムが乱れたね。心は熱く、頭は冷静に。まあ、これからだ」

 広中教授に笑顔が浮かぶと、やはりメンバーはほっとする。

「木管、いいね。アンサンブルの成果が出ている。そうだ、二宮」

 教授はセカンドの二宮さんに声をかける。

「もしものためだ、君もアルルをひと通り練習しておくように。吉野に何かあったら、君が代わりを努めることになるからな」

「いいえ、私には・・・」

 突然の指名に驚いて、大げさに手を振る。

「だから練習だ。次のリハーサルは君が一番をやりなさい」

「そんなあ」

 二宮さんの悲鳴のような声に、メンバーにまた笑いが起こる。

「じゃ、お疲れさん」

 広中教授は満足そうに、ステージから去って行った。

「七重先輩、風邪引いたり、怪我したりしちゃだめですよ」

「いいじゃないの、まずは経験。次からはあなたが主席なんだから」

 そんな言葉を交わしていると、五重奏のメンバーが集まってくる。

「二宮さん、まずは吉野の度胸から勉強だな」

 結城が笑いながら声をかける。

「もう、結城さん。度胸なんてありません。今日になって気がついたんですけど、私は不器用でいつもと違うことができないだけなんです」

「そうか、なら、その不器用さから勉強だ」

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