心の光

ガブリエルとの戦いでズタボロになった身体は、病院での治療を経て、ゆっくりと回復しつつある。だが、私の心には、セレナに隠してきた秘密―私が元ハンターであり、人間ではないという真実―が重くのしかかる。今夜、私はセレナにすべてを打ち明け、彼女の心を確かめる決意を固めた。

 

 ――ー

 

 #### 回復の日々

 

 病院を退院してから一週間、私はセレナのアパートで静養していた。

 肩の深い切り傷、脇腹の刺し傷、首のワイヤーの跡は包帯に覆われ、腕の痺れも少しずつ引いていた。

 淡い水色のワンピースは血と土でズタズタになり、代わりにセレナが貸してくれた白いシャツとスカートを着ていた。

 セレナは毎日私のそばにいて、食事を作り、傷の手当てを手伝ってくれた。

 彼女の金色の瞳は、いつも温かく、私を支える。

 

 ユナからの連絡は定期的に入る。ガブリエルの拘束で、クロノスのフェニックス・プロトコルは大打撃を受けたが、残党がまだ動いている可能性がある。

 ユナの部隊は、桜ヶ丘の監視を強化し、廃鉱山の新たな拠点を調査中だ。

 ユナは私の無茶な行動―ガブリエルとの戦い―を咎めつつも、「お前のおかげでクロノスに一撃を与えられた」と認めてくれた。

 私はユナに感謝しつつ、心の奥でセレナへの告白を決意していた。

 

 私の正体を明かすことは、セレナとの絆を試す試練だ。私は人間ではなく、クロノスが作り出した戦闘兵器―ハンター計画の産物だ。戦場で血と硝煙にまみれ、敵を排除するために生きてきた。

 セレナの笑顔に救われた私は、彼女にふさわしい人間ではないかもしれない、それでも、彼女に真実を伝え、彼女の心を確かめたい。

 セレナが私を受け入れてくれるなら、私はどんな闇にも立ち向かえる。

 

 ――ー

 

 その夜、セレナのアパートで、二人きりの時間が訪れた。カスミソウの鉢が月明かりに照らされ、窓の外で虫の声が響く。

 セレナはキッチンでハーブティーを淹れ、トレイにカップを載せて私の隣に座った。

 彼女の金色の髪が月光に輝き、優しい笑顔が私の心を温める。私はソファに座り、包帯だらけの手でカップを握った。

 傷の痛みはまだ残るが、セレナの温もりがそれを和らげる。

「リリィさん、傷、痛む? 無理しないで、ゆっくり休んでね。」

 セレナの声は優しく、気遣いに満ちている。私はカップを置いて、彼女の手をそっと握った。心臓が早鐘を打ち、言葉が喉に詰まる。

「セレナさん…ありがとう。君がいてくれるから、こんな身体でも、生きていられる。」

 セレナは私の手を握り返し、微笑んだ。

「リリィさん、変なこと言わないで。私、リリィさんがいてくれるから、毎日笑っていられるよ。」

 その言葉に、胸が熱くなる。だが、秘密を隠し続けることはできない。私は深呼吸し、震える声で切り出した。

「セレナさん…私、君に話さなきゃいけないことがある。私の…本当のこと。」

 セレナの金色の瞳が、驚きと心配で揺れる。彼女は私の手を強く握り、静かに頷いた。

「リリィさん…何? どんなことでも、私、聞くよ。」

 私は目を閉じ、戦場の記憶を抑え込んだ、血と硝煙、倒した敵の顔、リズの冷たい笑み、ヴィクターの拳、ガブリエルの青い瞳。

 そして、セレナの笑顔。私は目を開け、彼女を見つめた。

「セレナさん…私、普通の人間じゃない。クロノスのハンター計画で作られた…戦闘兵器なんだ。戦場で魔物を殺し、生きるために戦ってきた。リリウムって名前も、クロノスが付けたコードネームだ。本当の名前なんて、持ってない。君と出会う前は、ただの殺人機械だった。」

 セレナの瞳が大きく見開かれる。私は言葉を続けた。声が震え、涙がこぼれそうになる。

「ガブリエルとの戦いで、ズタズタになった。肩も、脇腹も、首も…こんな身体でも、君を守るために戦った。でも、私がこんな存在でも、君のそばにいていいのか、わからなくて…。セレナさん、私、あなたのこと、愛してる。あなたの笑顔が、私の光なんだ。こんな私でも…あなたと一緒にいて、いい?」

 私の声は途切れ、涙が頬を伝う、セレナの手が震え、彼女の瞳にも涙が浮かぶ。

 私は最悪の答えを覚悟した、彼女が私を拒絶しても、彼女を守り続けると誓った。

 だが、セレナは私の頬に手を当て、優しく微笑んだ。

「リリィさん…バカ。なんでそんなこと言うの?」

 彼女の声は震えつつも、温かさに満ちていた。セレナは私の額に額を寄せ、囁いた。

「リリィさんが人間だろうと、兵器だろうと、戦場で何をしてきたとしても、私には関係ないよ。リリィさんは、私をいつも守ってくれる。私のために、こんな傷だらけになって…。リリィさんの心、全部感じてる。私、リリィさんのことが大好きだよ。どんなリリィさんでも、私のそばにいてほしい。」

 その言葉に、私の心が解けた、涙が止まらず、セレナの肩に顔を埋めた。

 彼女の温もりが、私の傷だらけの身体を包む。私は嗚咽を漏らし、彼女の手を強く握った。

「セレナさん…ありがとう…。君がそう言ってくれるなら、私、どんな戦いでも乗り越えられる。」

 セレナは私の髪を撫で、笑顔で答えた。

「リリィさん、私もだよ。一緒に、どんなことでも乗り越えよう。約束だよ。」

 私たちは抱き合い、月明かりの下で絆を確かめた。

 カスミソウの花が静かに揺れ、虫の声が優しく響く、私の過去、傷、秘密―すべてを受け入れてくれるセレナの愛が、私の心を癒す。

 

 ――ー

 

 翌日、ユナから連絡が入った。彼女のオフィスにセレナと共に向かい、いつものソファに座った。

 ユナはデスクの向こうで、ノートパソコンを操作しながら報告した。

「リリィ、セレナ、ガブリエルの拘束で、クロノスのフェニックス・プロトコルはほぼ壊滅した。廃鉱山の拠点も、部隊が制圧した。クロノスの残党はまだいるが、組織の主力は崩れた。お前がガブリエルを倒した功績は大きい。」

 私はセレナの手を握り、微笑んだ。

「ユナさん…ありがとう。でも、私一人じゃできなかった。セレナさんがいたから、戦えた。」

 ユナは軽く笑い、目を細めた。

「リリィ、無茶だったけどな。セレナ、お前もリリィを支えてやってくれ。こいつ、放っておくとまた無茶するぞ。」

 セレナは私の手を強く握り、笑顔で答えた。

「ユナさん、任せてください! リリィさん、私がちゃんと見てます!」

 私たちは笑い合い、部屋に温かな空気が流れた。

 クロノスの脅威はまだ完全に消えていない、だが、セレナの愛とユナの信頼が、私に力をくれる。

 

 ――ー

 

 新学期が始まり、桜ヶ丘女子高校は活気を取り戻した。セレナと私は、校庭で手をつなぎ、笑顔で歩く。

 私の傷はまだ癒えきっていないが、セレナの笑顔が痛みを忘れさせる。

 クラスメイトたちが私たちの絆に微笑み、教師たちは私の復帰を温かく迎えてくれた。

 

 放課後、セレナと温室に向かった。カスミソウの花が咲き誇り、夕陽に照らされる、私はスケッチブックを開き、セレナの笑顔を描いた。

 彼女は私の肩に寄りかかり、囁いた。

「リリィさん…これからも、ずっと一緒にいようね。」

 私は彼女の金色の髪に触れ、微笑んだ。

「うん、セレナさん。君と一緒に、どんな未来も怖くないよ。」

 私たちは温室で抱き合い、夕陽に誓った。クロノスの闇はまだ潜むかもしれない。

 だが、セレナの愛が私の光だ。

 私は彼女を守り、共に生きる。どんな試練も、乗り越えられる。

 

 ――ー

 

 桜ヶ丘の空は、秋の青さに輝く、セレナの金色の笑顔が、私の心を照らす。

 私はリリウム、元ハンター。人間ではないかもしれないが、セレナの愛が私を人間にしてくれる。

 彼女の手を握り、私は新たな一歩を踏み出した。どんな闇にも、立ち向かう、セレナと一緒に、永遠に。

 

 ――ー

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リリウムの花咲く頃に 倉田恵美 @Loliloli1919

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