決着の行方

 

 ヴィクターが地面を蹴り、突進する、私は校庭の水飲み場に飛び込み、水道の蛇口をひねる。

 水が噴き出し、ヴィクターの視界を遮る。私はその隙に彼の背後に回り、首に腕を巻きつけた。戦場の絞め技だ。だが、ヴィクターの力が強く、振り払われて校庭に叩きつけられる。

 視界が揺れ、セレナの笑顔が頭をよぎる、私は立ち上がり、叫んだ。

 

「セレナさんを守る…! あなたには、渡さない!」 

 

 だが、ヴィクターの攻撃は容赦ない。彼の拳が私の胸に直撃し、私は校庭のフェンスに叩きつけられた。

 肋骨に鋭い痛みが走り、息ができない。視界がぼやけ、膝が地面に落ちる、ヴィクターがゆっくり近づき、ナックルを握りしめる。

 

「リリウム、これで終わりだ。クロノスの意志に逆らうな。」 

 

 私はセレナの笑顔を思い出し、最後の力を振り絞った。

 だが、体が動かない、セレナがエリカに追われている。ユナの部隊はまだ来ない。これまでか…と、胸に冷たい絶望が広がる。

 

 ――ー

 

 

 同時刻、セレナは校舎の屋上で、柵にしがみつきながら校庭を見下ろしていた。

 エリカの足音が近づき、彼女の心は恐怖とリリィへの想いで揺れていた。

 温室でのエリカの襲撃を、彼女は機転と武術の身体能力で逃げ切っていた。温室のジョウロや植木鉢を投げ、窓から校舎裏に飛び出し、廊下を駆け抜けて図書室に逃げ込んだ。

 だが、エリカは執拗に追いかけてきた。

 

 図書室で、セレナは本棚の間に隠れ、息を殺していた。エリカの声が冷たく響く。

 

「セレナさん、隠れても無駄よ。リリィはヴィクターにやられる。私のそばに来れば、全部終わるよ。」 

 

 セレナは唇を噛み、図書室の窓から校庭を見た。リリィがヴィクターに叩きつけられ、フェンスに倒れる姿が見える。

 彼女の心が締め付けられる。リリィの銀色の髪が夕陽に輝き、紫の瞳に決意が宿っていた、セレナは本棚の後ろから椅子を投げ、エリカの足を狙った。

 エリカがよろけた瞬間、セレナは別の出口から廊下に飛び出し、校舎の屋上に向かって走った。

 

 屋上にたどり着いたセレナは、柵にしがみつき、息を切らしながら校庭を見下ろした。リリィが倒れ、ヴィクターが迫る。

 彼女の金色の瞳が涙で潤む、エリカの足音が屋上のドアに近づく。

 セレナは武術の訓練を思い出し、屋上の空調設備の裏に隠れた。エリカがドアを開け、冷たい声で呼びかける。

 

「セレナさん、もう逃げられないよ。リリィはもうダメかもしれない。私のそばに来なよ。」 

 

 セレナは空調設備の金属パイプを握り、エリカに投げつけた。

 パイプがエリカの肩をかすめ、彼女が一瞬後退する。

 セレナは屋上の別の出口に向かって走ったが、足がもつれ、柵にぶつかる。エリカが追い詰め、黒い瞳に冷酷な光が宿る。

 

「セレナ、観念しなさい。リリィはもう終わりよ。」 

 

 セレナは柵に背を押し付け、震える声で叫んだ。

 

「リリィさんを…傷つけないで! 私、リリィさんが大好きだから…!」 

 

 だが、エリカが一歩近づき、セレナの手を掴もうとした瞬間、セレナの心に絶望が広がる。リリィが倒れ、ヴィクターが迫る。エリカに捕まる。これまでか…と、セレナの瞳に涙が溢れる。

 

 ――ー

 

 

 その瞬間、校庭に爆音が響いた。黒いバンがフェンスを突き破り、校庭に突入した。警察の特殊部隊の制服を着た集団が降り立ち、ヴィクターに銃を向ける。

 だが、そのリーダーの灰色の瞳とショートカットの黒髪は、紛れもなくユナ・クロフォードだった。

 彼女の部隊は、警察に偽装して潜入していたのだ。

 

「ヴィクター、動きを止めろ! リリィから離れな!」 

 

 ユナの声が校庭に響く、ヴィクターが舌打ちし、拳を握りしめる。

 ユナの部隊が一斉に動く、隊員の一人がスタンガンを放ち、ヴィクターの巨体が一瞬硬直する。

 私はその隙にフェンスから這い上がり、息を整えた、ユナが私に駆け寄り、肩を支える。

 

「リリィ、大丈夫か? セレナはどこだ?」 

 

「セレナさん…屋上! エリカが…!」 

 

 ユナは無線で部下に指示を出し、屋上に向かうチームを編成した、私は力を振り絞りユナと一緒に校舎に駆け込んだ。

 

 屋上では、エリカがセレナを追い詰めていた。

 セレナは柵に背を押し付け、震えながらもエリカを睨む、エリカがセレナの手を掴もうとした瞬間、屋上のドアが蹴破られ、ユナの部隊が突入した。

 警察の特殊部隊の装備に身を包んだ隊員たちが、エリカを包囲する。ユナが銃を構え、冷たく命じた。

 

「エリカ・ミズキ、両手を上げろ。セレナから離れな。」 

 

 エリカの顔が歪み、彼女は一瞬狼狽したが、すぐに冷たい笑みを浮かべた。

 

「ユナ・クロフォード…さすがね。けど、これはまだ終わらないわ。」 

 

 エリカが後退し、屋上の出口に飛び込むが、ユナの部下の一人が彼女の腕を掴み、確保した。

 セレナは震えながら私に駆け寄り、抱きついた。彼女の金色の髪が私の肩に触れ、温かい涙が私のワンピースに落ちる。

 

「リリィさん…! 怖かった…でも、信じてた…リリィさんが来てくれるって…!」 

 

 私はセレナを強く抱きしめ、涙をこらえた。彼女の震える体が、私の心を温める。

 

「セレナさん…無事でよかった…。絶対、守るって約束したから…。」 

 

 ユナは私たちを見て、静かに微笑んだ。

 

「リリィ、セレナ、よく耐えた。ヴィクターは部下が押さえた。エリカは連行する。クロノスの動き、これで少し見えた。リリィ、セレナを連れて、ひとまず安全な場所に移動しろ。」 

 

 私は頷き、セレナの手を握った、校庭では、ユナの部隊がヴィクターを拘束し、バンに押し込んでいた。

 生徒たちの悲鳴は収まり、夕陽が校庭を赤く染める。私はセレナの手を握り、温室に向かった。

 

 ――ー

 

 温室に戻り、私とセレナは並んで座った。

 スズランの香りが漂い、月明かりがガラス越しに差し込む、セレナは私の手を握り、震える声で言った。

 

「リリィさん…エリカさんの言葉、ちょっと心を揺らした。でも、リリィさんのこと、ほんと大好きだから。もう、迷わない。」 

 

 私はセレナの金色の瞳を見つめ、涙をこらえた。

 

「セレナさん…私も、セレナさんが大好きです。守る、約束します。」 

 

 私たちは抱き合い、絆を確かめた。エリカの影はまだ消えない。クロノスの使徒の脅威は続く。

 だが、セレナの笑顔が、私の光だ。ユナの調査が続き、クロノスの次の動きが迫る中、私はセレナを守る決意を新たにした。

 

 ――ー

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