ファッションモデルになりたくて

女神なウサギ

第1話 マネキンの呪い

 「良いなぁ、こんな風にモデルやってみたいなぁ」


私はデパートの洋服屋さんに貼られているチラシを見て目を輝かせると同時にため息をついた 

上京して3年、ファッションモデルに憧れて東京に来たまでは良かったが一向に芽が出ない


「私ってどうしてこんなに駄目なんだろう。はぁ」


その時、後ろで声がした


「もし、お嬢さん。お困りのようですね」


驚いて振り向くと錫杖をついた80歳くらいのおじいさんが立っていた


「驚いた、いつの間に後ろに!?というか、誰ですか」

「私は旅の者です。悩みは聞かせてもらいました。あなたの夢を実現させる手助けをさせて頂けませんか?」


夢の手助け?いや、怪しすぎる。どう見てもファッション誌の編集者ではないし・・


「あはは、大丈夫ですよ。お気遣いなく」

「そうですか?私ならただで直ぐに叶えてあげられますよ」

「本当、大丈夫なんで。すみません」


私は駆け出した


 「はぁ、なんだったんだろうあのおじいさん・・」


気にはなるが、気持ちを切り替えてファッション誌のオーディションに向かう。会場はこの近くだ


 「すみません、今日、御社のオーディションに応募した佐藤由香里さとうゆかりです」

「佐藤由香里さんーーリストを確認しました。こちらへどうぞ」


緊張したまま待合室に向かう。待合室では綺麗な女の子やカッコいい男の子がたくさんいた


「レベル高いな・・」

「佐藤由香里さん、どうぞ」

「お願いします!」


面接官は3人だった


「おかけください。ではまずーー」

 「はぁ、緊張してボロボロだったなぁ」


この調子では今回も不採用だろう


「どうすれば良いんだろう」


その時、聞き覚えのある声がした


「もし、お嬢さん」


振り向くとさっきのおじいさんが立っていた


「さっきのおじいさん!!」

「どうです?私を頼ってみませんか?」


いつもの私なら即断って逃げていただろう。だが・・


「ーー本当に、ファッションモデルになれるの?」

「なれますとも」

「ーーじゃあ、お願いしようかな・・」


おじいさんは不気味にニヤリと笑った


「ええ、ええ。任せてください・・」


おじいさんが錫杖をついた瞬間、私は意識を失った

 気がつくとさっきいたデパートにいた。だが、様子がおかしい。四肢の自由どころか身体が1ミリも動かせない


「どうなっているの・・!?」


おじいさんの声がした


「どうです、今の気分は」

「おじいさん!どうなっているの、身体が動かせない」

「そうでしょうね。今のあなたはマネキンですから」

「マネキン!?どういうこと!?」

「私の力であなたとマネキンを入れ替えました。今のあなたは物言わぬ動かないマネキン、マネキンは動くけど喋らないあなたです。ファッションモデルになれたでしょう?」

「そんなーーいや、嫌です!元に戻して」

「それは出来ませんねぇ」

「これから友人達と約束した予定があるんです!」

「結構じゃないですか。なに、マネキンが喋らないあなたとしてうまくやりますよ。へへっ」

「いや、いや!!、誰か、誰か助けて!!」


 一方その頃、私になったマネキンは友人達のところへ向かっていた


「おっ、由香里じゃん。こんち〜」

「なんだよ、なんか喋れよ」

「機嫌悪いの?」

 「まあ、良いじゃん。ハンバーガー食べれば元気になるよ」

「そうだね」

「じゃあ、私はこれ」

「私はこれかな。由香里は?」


マネキンは無言でメニューを指さした


「頼む時も喋らないって徹底しすぎでしょ」


ほどなくしてハンバーガーが運ばれてきた


「でさぁ、うちの彼氏がさぁ」


盛り上がる中、マネキンは黙々とハンバーガーを食べ進める


「由香里もなんか喋りなよ」

「そうだよ。つまんない」


だがマネキンは何も答えない


「はぁ、感じワル」

「次のところへ行く?」

「そうだね」


 次の目的地は体育会系の怖い先輩との待ち合わせ場所だった。皆でアトラクションに乗ろうという話なのだ。


「でさ〜」

「由香里、まだ機嫌直らないの?」

「ずっと無言」

藤堂とうどう先輩に挨拶できるのかな・・」


 藤堂先輩と待ち合わせしている遊園地に着いた


「藤堂先輩、お待たせしました」

「遅刻していないから大丈夫だよ」

「今日はお願いします!」

「おうっ!」

「じゃあ、早速行こうか」


それから友人達は絶叫アトラクションやクレープを堪能した


「ふぅ、楽しかったね」

「藤堂先輩は?」

「私も楽しかったよ」

「また来たいね」

「由香里は?」


マネキンは答えない


「なんだよ、なんか言えよ」

「すみません、由香里、失語症の疑惑がありまして・・」

「失語症?」

「今日一日、何も喋らないんです」

「ふーん、なら、ショック療法が良いんじゃない?」

「ショック療法?」

「こんな感じでさあ」


藤堂先輩はマネキンを殴りつけた


「ちょっ、藤堂先輩!!」


藤堂先輩は制止を無視して暴行を続ける


「藤堂先輩やめてください!」

「由香里が死んじゃいます!」

「うるせぇ、離せ!!」


止まる頃にはマネキンはボロボロになってしまった


「由香里、大丈夫かな・・」

「大変、息していない!!」

「マジで!?」

「なんか、マネキンみたい・・」

紗英さえっ!!」

「ごめん」

「どうするよ?」

「仕方ない、私が責任を持って家に隠すよ」

「藤堂先輩!」


こうしてマネキンは藤堂先輩の家に隠された

 一方、私は・・


「お嬢さん、残念なお知らせがあります」

「なんですか!」

「元に戻れなくなりました」

「元に戻れない・・どうして・・」

「マネキンがボロボロになってしまった。こうなっては元に戻せない」

「そんな・・嘘、嘘ですよね?」

「残念だが、事実」

「そんな・・」

「まあ、良いじゃないですか、憧れのファッションモデルとして生きられるのですから。へへっ、へへへへへ」


私はどうなるのだろう・・

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