第2話、八重
八重は昔から、幽霊の類を視る事が出来た。
そのおかげで取り憑かれたり、追いかけ回されたりと苦労させられているが。ちなみに、学生時代からの友人である
「あー、今朝も私の部屋に女の霊が出たんよ!いい加減にしてほしいわ!」
「それは大変やったね」
「私の霊感を知っとるのは奏恵くらいやしな、他の人には言われへんし」
八重は奏恵が出してくれた麦茶を呷った。ひんやりとした麦茶は火照った体に丁度良い。ちなみに、八重は奏恵の自宅のリビングにてお喋りに興じていた。
「……八重、あたしも霊感は強い方やけど。あんたの方がやたらとごっつい守護霊さんがおるばっかりに苦労しとるわなあ」
「ほんまにな、グチらんとやっとられん。奏恵の守護霊さんは可愛い犬や猫とかやのに。私のは厳つい竜や虎やからなあ」
「何気にそっちの方がびっくりもんやとは思うわ」
奏恵は苦笑いする。そう、八重の守護霊は厳つい竜(西洋にいそうなのだが)や白い虎、筋骨隆々としたゴツい男性などなど……。また、東洋の龍までいるせいか、珍しがる幽霊が後を絶たない。中には男性や虎達に喧嘩を吹っかける馬鹿者が出てくる始末だ。
「……私、竜やらゴツいおっちゃんらのせいでろくに彼氏もできひんかった。中に付き合ってくれる人もおったけど、龍が「気に入らん!」とか抜かして!夢の中で追っかけ回しよったんよ!おかげで半年で別れたわ!!」
「やっぱり、守護霊さんらに交渉を持ちかけるしかないかも。あたしからも言ってみよか?」
「お願いするわ、奏恵は既に結婚して。子供さんかておるのに。私、まだ独身で彼氏もおらへん。あー、おっちゃんらが睨みつけとる!」
ゴツい男性もとい、欧州から来たらしい海神や竜、日本の白虎、龍達は八重に言いたそうだ。実は奏恵は友人が凄ーく神に気に入られており、大昔は海神の妹に当たる女神だったり、日本の龍が探し求めた鳳凰族の女神の前世を持つ稀有な存在である事を知っている。そのせいで彼女に彼氏が出来ず、なかなか恋愛に御縁がない。どうしたもんやらとため息が出る。
「話せば長くなるけど、八重の事は日本の神様方からも「くれぐれもよろしく頼む」って言われとるしなあ。あんたのお兄様の海の神様は重度のシスコンやわな」
「神様にそんな事を言えるんは奏恵くらいやで」
「鳳凰族の女神様、確か。シャンティ様の旦那様もあんたに猛アピールしとるしなあ。東海龍王様の息子さんやったか?」
奏恵が言うと青い鱗に瞳の若い(と思われる)龍が気まずそうに縮む。ジロリと傍らにいる年長の青い龍が若い方を睨んだ。
『……お前、八重さんにちょっかいを出しとったか』
『すみません』
『後でお仕置きだな、鍛え直してやる』
年長の龍はどうやら、若い龍の父親らしい。ちなみに、当代の東海龍王で若い方は跡取り息子だ。奏恵と八重は二柱の龍を眺めながら、やれやれと苦笑いした。
「奏恵、龍王様方には帰ってもらわんと。他の方々に絶対に皺寄せが行くな」
「ほんまや」
二人が言うと龍王は人型になり、息子の首根っこをむんずと掴む。八重にお辞儀を軽くした。
『すまない、馬鹿息子は連れて帰る。迷惑を掛けた分、息子をこき使うつもりだ』
「……はあ、お手柔らかにお願いします」
『さ、行くぞ。ではな、八重さんに奏恵さん!』
龍王は軽やかに龍型に戻り、息子と海に帰って行く。八重は奏恵と顔を見合わせたのだった。
その後、八重は奏恵宅から自宅に帰った。まだ、海神たる兄神や西洋の竜などはいる。
『八重さん、我らはあなたの恋路の邪魔はしない。約束する』
「ありがとうございます、白虎様」
白虎に感謝を告げ、八重は中に入った。カバンなどをソファーに置き、キッチンやリビングなどの電灯のスイッチをオンにする。
「さて、今日も適当に済ますか」
独り言ちながら、冷蔵庫に向かう。冷茶が入ったペットボトルや昼間に買っておいたお惣菜などを出す。炊飯器にあるご飯もよそい、テーブルに行った。夕食を簡単に済ませたのだった。
怖いのは……。 入江 涼子 @irie05
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