怖いのは……。
入江 涼子
第1話、美弥子
美弥子は今年で四十歳になった。
が、彼女は恋愛経験が乏しい。しかも、未だに独身の完全なる喪女だ。そんな美弥子だが、誰にも言えない秘密があった。
彼女には見えない恋人がいた。名前は
夕方、美弥子は入浴を済ませる。念入りに頭から足の指先まで念入りに洗う。もちろん、幽さんと共に過ごすためだ。美弥子は昔から、人ならざるモノが見えた。いわゆる霊感が強い子供だった。そのためにかなり、苦労をしたものだ。学生時代はなるべく霊感がある事を悟られないようにしていた。けど、同級生達からは怖がられ、陰湿なイジメを受けていたが。
そんな事を思い出しながらも台所に行く。夕食の準備を始めたのだった。
簡単に済ませると、寝室に向かう。すうと中肉中背の透けた男性が現れた。
『やあ、美弥子さん。こんばんは』
「こんばんは、幽さん」
幽さんは真っ白な腰まで伸ばした髪を一束ねにしている。少しばかり、薄い琥珀色の瞳が目を引く美男子だ。髪と同じような真っ白の和服を着ていた。
『美弥子さん、ちょっと痩せた?』
「いいえ、前とそんなに変わっていないと思うわ」
『そうかな、顔がやつれてるように思うんだけど』
幽さんの言葉に美弥子は固まる。最近、夏バテ気味で食欲がないからだろうか。夜もろくに休めていない。
「……確かにあまり、食事をしっかりと出来てはいないわね」
『そっか、ならさ。今日は何もしない』
「え?」
『俺も流石に病人に無理強いはしないよ、さ。早めに休みな』
「分かったわ」
渋々、幽さんの言う事に従う。幽さんは苦笑いしながら、美弥子に手を振った。
『じゃあな』
幽さんはあっさりとした別れを告げ、姿を消した。美弥子はベッドに向かい、大人しく寝たのだった。
三日後、いつもと同じ時間に幽さんが現れた。ぐっすりと休み、食事もしっかりと出来た美弥子は元気になっている。
『よっ、美弥子さん』
「こんばんは、幽さん」
三日前は何もせずに去った彼だが。今日は美弥子の髪に触れる。
『……ん、体調は良さげだな。じゃあ、ベッドに行こう』
「はい」
美弥子は先にベッドに上がった。幽さんも来る。不可思議な事に満月の夜は幽さんから、美弥子に直接触る事が出来た。ベッドに彼が上がり、美弥子のすぐ横に滑り込む。
『今日は存分に可愛がってやる』
「……お手柔らかにね」
琥珀の瞳が真紅に染まった。幽さんはおもむろに美弥子の頬を撫でる。そっと、彼女の額に口付けた。陶然とした表情で幽さんを美弥子は見つめる。長い夜が始まろうとしていた……。
――END――
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