第8話感動

「──え? このゲーム、そんなに泣けるの?」


「ん……らしい。評判よかったから、やっと買った」


 


 今日は配信なし。

 学校も休みで、珍しくしずくが「のんびり一緒にやろうよ」と言い出して、

 俺の家に来て、二人でゲームしていた。


 プレイしてるのは、選択肢で運命が変わるストーリー重視のアドベンチャーゲーム。


 正直、俺は泣くようなタイプじゃない。

 どんなエンディングでも「ふーん」で終わる側だ。


 ……だったはずなのに。


 


 「……っ、マジかよ、それはないだろ」


 最終章のラスト、ヒロインが、主人公のためにすべてを犠牲にして、

 消えていくシーン。


 


 プレイヤーである俺の選択が、

 彼女の最後の笑顔に繋がった──

 けど、それが“別れ”の確定でもあった。


 


 「っ……ば、バカだろこいつ……なんで、そんな……」


 


 言葉にならなかった。


 コントローラーを握る手が震える。


 目の奥が熱い。

 喉の奥が詰まる。


 ──ダメだ、これはズルい。演出も、セリフも、すべてが刺さる。


 


「──蓮くん」


 しずくの声が、優しく響いた。


 見られてる。


 俺の顔、たぶんもうぐしゃぐしゃだ。

 でも、見せたくない。この顔だけは。絶対に。


 


 俺はとっさにソファの背もたれに背を向け、前髪をさらに垂らした。

 涙がこぼれそうな顔を隠すために。


 


「泣いてなんか、ねぇよ」


「うん。見てないよ」


 


 しずくの声は、嘘みたいに優しくて、

 その優しさがまた、心に刺さった。


 


「──ほんとに、いい子だったんだよ。あのヒロイン」


「……ああ」


「好きだったのにね」


「…………ああ」


「ちゃんと、最後まで覚えててくれて、ありがとうって言ってたもんね」


 


 涙が、勝手に落ちた。


 なんでだよ。

 こんなことで。

 現実じゃないのに。


 でも、画面の向こうの誰かが、“俺にありがとう”って言った気がして。

 それが、たまらなかった。


 


 「……ごめん、蓮くん」


「……なんだよ」


「私、ちょっと嬉しかった。

 蓮くんが、こんなふうに泣くとこ、私だけが見れたから」


 


 そっと背中に触れる、しずくの指先。


 そっと、額に触れそうになる、しずくの視線。


 


「前髪の下の顔も、泣き顔も──誰にも見せたくないなら、

 私が全部、覚えててあげる」


 


 そう言って、しずくは俺の横に静かに座り、黙って寄り添ってくれた。


 俺は言葉を返せなかった。


 ただ、ゲームのエンドロールの音楽が、

 今日だけはやけに綺麗に聴こえた。


 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

同期の美少女Vtuberが隣の席だった件。 うみも @yukisense

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ