第6話 ホラゲ実況

《みんなこんちゃ〜! 雪白みるくです♡》


《どうも、影蓮です。今日もみるくさんは叫ぶ準備万端です》


《ちょっ、失礼じゃない!?》


 


 ──夜22時、照明を落とした部屋に、ゲームの暗い画面とマイクの光だけが灯っている。


 画面には、廃病院を舞台にしたホラーゲーム。

 通路の奥に、何かが立っている。


 


《ねぇ、今の見た!? 見たよね!? 白いのいたよね!?》


《ああ、いたな。まあ、たぶんオブジェクトでしょ》


《どこの世界にそんなリアルなオブジェがあるの!? え、これマジで怖いんだけど……》


《コメント「今の叫び、音割れして草」ってきてる》


《もぉぉぉ〜〜〜っ!! みんな蓮くんも怖がってるって思ってたでしょ!?》


 


 横を見ると、現実のしずくはというと──

 ジャージ姿でソファに体育座りしながら、コントローラーを握りしめ、ガチで震えていた。


「……ちょっと、蓮くん。これ、本当にヤバいんだけど。

 さっきから足音がずっと“ザッ……ザッ……”って鳴ってる……」


「ゲーム音だろ」


「ちがう! リアルの方! 今、窓の外から……」


「それたぶん、配信中にピザ頼んだお前のせいだろ」


「あっ、そっか」


「ほんとお前、ホラゲー向いてねぇな……」


 


《コメント「みるくの絶叫助かる」「影蓮が彼氏ムーブで草」「この2人マジで付き合ってるだろ」》


《付き合ってないし!? ちょっと待って!? 影蓮くんとは、ただの同期ですっ!!》


《“ただの同期”が夜中にふたりで廃病院探索してるの笑う》


《お前らもう結婚しろって感じだな》


 


 しずくは赤面しながら「ちがうもん!」と画面に向かって言うが、

 横の俺をチラチラ見てるの、バレバレだぞ。


 


 そのとき──


 ゲーム内で“ズズズ……”と不穏な音が響き、廊下の奥から白い顔の女の幽霊が、こちらに向かって走ってきた。


 


《きゃああああああああああああああああああ!!!!》


「うわっ!? 声デカッ!! ちょ、マイク割れてるって!」


《やばいぃぃぃぃぃ!?!? れんくんれんくんれんくんっ!!》


 


 しずくの手が俺の腕に食い込む。


「お、おい!? マイク切って!」


「ミュート! ミュートミュートぉぉぉぉ!!」


 


 慌ててミュートボタンを押すと、部屋に静寂が戻る。

 そして──


「こわいこわいこわいっ……! ほんとに来ないでお願いだからっ!!」


「画面からは出てこないっての……!」


「でも今、目合った! あれ絶対私の顔覚えた!!」


「幽霊が配信者追ってくるなよ!」


 


 ミュート中、まるでホラー映画に出てくるヒロインのように

 しずくは俺の腕にしがみついてきて──そのまま動けなくなった。


 


 ……あったかい。柔らかい。

 ジャージごしとはいえ、やばい。やばいぞこれ。理性、がんばれ。


 


「……落ち着いたか?」


「うぅ……ちょっとだけ……」


「じゃあそろそろ手を……」


「だめ。終わるまで離れない」


「えっ」


「だって怖いんだもん。

 こわいけど……蓮くんといると、ちょっとだけ大丈夫になるの」


「…………」


 ──それは、反則だ。


 


《──マイク復帰! ごめんね、ちょっとリアルで叫びすぎちゃって♡》


《後ろで「だめ、離れない」って聞こえた気が……》


《聞こえてるぞ!? 聞こえてたぞ!?!?》


《お前ら早く付き合え!》


 


 ──ラスト、ふたりはなんとかゲームをクリアし、

 チャット欄は最終的に「怖い」より「尊い」で埋まっていた。


 そして配信を終えたあと──


 


「ねぇ、蓮くん」


「ん?」


「今度は……恋愛ゲーム、一緒にやってみる?」


「お前……それ、ゲームじゃなくてもいいだろ」


 


 前髪の奥から、しずくの顔が少しだけにじんで見えた気がした。

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