紅い回路の番人
緋翠
紅い回路の番人
シロは生まれたときから、この赤い世界を駆け回っていた。彼の故郷は巨大な迷宮のような場所で、無数の通路が網の目のように張り巡らされている。通路の壁は温かく、常に規則正しいリズムで脈動していた。まるで巨大な生き物の心臓の鼓動のように。
シロの仲間たちは皆、それぞれ異なる役割を持っていた。彼自身は「巡回警備隊」の一員として、この世界の平和を守る使命を負っていた。毎日、決められたルートを巡回し、異常がないかを確認するのが彼の仕事だった。
この世界には様々な住人がいた。赤いディスクのような形をした運送業者たちが、酸素という名の貴重な資源を運び続けている。彼らは無口だが勤勉で、一度も休むことなく働き続けていた。シロはいつも彼らに敬意を払っていた。
ある日、シロがいつものように北回廊を巡回していると、見慣れない影を発見した。それは透明で、まるで幽霊のように通路の壁をすり抜けようとしている。シロの本能が警告を発した。これは明らかに外部からの侵入者だった。
「停止せよ!」
シロは声を張り上げた。
「身分を明かし、この世界への侵入許可証を提示せよ!」
しかし、侵入者は振り返ることもなく、さらに奥へと進んでいく。シロは仲間たちに緊急信号を送った。この世界には、外部からの脅威に対する厳格な防衛システムがあった。シロのような巡回警備隊員が最前線で対応し、必要に応じて特殊部隊や化学兵器部隊が出動する仕組みになっている。侵入者は小さく見えたが、シロの経験では、サイズと危険度は必ずしも比例しない。過去に、微細な侵入者が大規模な破壊活動を行った事例を何度も見てきた。
シロの緊急信号を受けて、特殊攻撃部隊のアカ隊長が現れた。アカは経験豊富な戦士で、侵入者を分解する特殊な能力を持っていた。
「状況はどうだ、シロ?」
アカが息を切らして尋ねた。
「未確認の侵入者が一体、肺門エリアに向かっています。移動速度は中程度、武装は不明です」
シロは簡潔に報告した。
アカは頷き、通信機器に向かって叫んだ。
「こちらアカ隊長、コード・レッド発動。全ての巡回部隊は第二警戒態勢に移行せよ。化学兵器部隊、待機位置に付け」
この世界の防衛システムは見事なまでに組織化されていた。シロのような偵察・初期対応部隊、アカのような攻撃専門部隊、そして最後の切り札である化学兵器部隊。それぞれが連携することで、どんな脅威からもこの世界を守ることができる。
侵入者は予想以上に狡猾だった。まるでこの世界の構造を知っているかのように、警備の手薄な通路を選んで移動している。シロとアカは必死に追跡したが、侵入者は分裂を始めた。一体だったものが、見る間に二体、四体、八体と増えていく。
「分裂型の侵入者だ!」
アカが警告した。
「このままでは手に負えなくなる!」
シロは冷静に状況を分析した。分裂型の侵入者への対処法は訓練で学んでいた。まず、分裂の中心となっている個体を見極め、そこを集中攻撃する。そして何より重要なのは、仲間との連携だった。
「アカ隊長、私が囮になります。あなたは右翼から回り込んでください」
「危険すぎる!シロ、君一人では—」
「信じてください。私たちには必ず勝つ方法があります」
シロは侵入者たちに向かって突進した。彼の体からは特殊な化学物質が放出され、侵入者たちの動きを鈍らせる。その隙に、アカが側面から攻撃を仕掛けた。
激しい戦闘の末、侵入者たちは完全に無力化された。シロとアカの連携プレーが功を奏したのだ。化学兵器部隊の出動は必要なくなった。
戦闘後、シロは疲れ切った体で通路の壁にもたれかかった。この赤い世界は再び平和を取り戻した。運送業者たちが何事もなかったかのように酸素を運び続け、他の住人たちも日常の活動に戻っている。
「お疲れさま、シロ」
アカが彼の肩を叩いた。
「君のおかげで大事に至らずに済んだ」
「私たちの世界を守るのは当然の義務です」
シロは微笑んだ。
「明日もまた、巡回に出ます」
この世界では、シロのような守護者たちが見えないところで戦い続けている。平和な日常の陰で、彼らは常に警戒を怠らず、愛する世界を守り続けているのだった。
夜が深まり、この赤い世界も静寂に包まれた。シロは明日の巡回ルートを確認しながら、窓から外を眺めた。遠くに見える中央制御室では、今日も優秀な司令官たちが世界全体の状況を監視している。
彼らの世界は完璧な社会だった。それぞれが自分の役割を全うし、全体の調和を保つために働いている。侵入者との戦いは決して楽ではないが、シロはこの使命に誇りを感じていた。
「また明日も、この世界を守ろう」
シロはそう呟くと、深い眠りについた。彼の夢の中では、いつものように赤い通路を駆け抜け、仲間たちと共に平和を守り続けているのだった。
紅い回路の番人 緋翠 @Shirahanada
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