第12話 七月二十七日 十一時??分

鳥が忙しなく鳴いている。朝の光がまだ湿った校舎を照らしていた。7月の後半。

 高校2年生の九重 湊は、物理室の静けさの中で、深く溜息をついた。


 「死んだら生き返れない」

 消え入りそうな声で、湊はつぶやいた。


 堺とは高校で初めて出会い、1年生の時に同じクラスだった。正義感が強く、みんなから愛されていた。

 ——あの笑顔は、もう二度と見られない。


 「湊?」


 背後から声がかかった。

 同じクラスで仲の良い、水森 磨人(まさと)だった。


 「どうした?磨人?」

 湊は振り返って声をかける。磨人の顔には、心からの心配が滲んでいた。


 「湊、大丈夫? あの事件以来、ほとんど喋ってなかったから心配になって。……まあ、喋ってる人自体、あんまりいないんだけどね」


 磨人の言うとおり、物理室は異様なほど静かだった。

 それはこの物理室には二人しかいないからかもしれない。


 「ところで磨人、ハンドボールの大会がもうそろそろあったよな」


 「そうだよ。もうそろそろ」


 磨人は教室にある掛け時計をチラチラと見ている

 

「次こそは全国大会行けるといいな」


 「うん。そうだね」


磨人は焦りで会話どころではなかった。


この空気に耐えられなくなったのか磨人が話かけて来た。


 「今日は文化祭だね」


 磨人は、気遣うような口調で尋ねた。

ように湊は見えたかもしれない。しかし、磨人は何も考えずに発言したことを後悔した。


 「そうだね」

 湊は素っ気なく答え、会話を打ち切るように再び窓の外を見た。

外は虫が僕達を嘲るように鳴いていた。


 「そっか……」

 

 静寂が、教室に重くのしかかる。


そこに、教室のドアが開き一人の大人が入ってきた。


担任の戸川だ。

手にはロープを持っている。


「賢い君ならこの意味がわかるだろ。湊君」


そう言ってどんどん近づいてきた。


磨人も手にはナイフを持っている。


「何か言い残す事はあるかい?」


そう担任は聞いてきた。


幹人の姉を殺し、自分の顔を見て、あの事件のことを思い出した幹人を殺した。犯人がずっと僕達の教室にいた。


湊はニヤリと笑って話した。


「まだ、わからないのか?」


「ん?」

戸川は首を傾げる。


磨人には嫌な予感がした。頭がズキンズキンと痛くなる。

呼吸が荒くなり、手が震える。


湊と一緒におり、湊の癖を知っている磨人は眼の前の異質さに気付いた。


「お、お前、朔、か?」

震えた声で言う。


戸川を顔を青くしている。


「なんで、お前がここにいる?」


「俺が言える事は二つ。一つ目、湊はキウイアレルギーじゃない」


眼の前が段々暗くなっていくような感覚に襲われた。


「二つ目、あいつの時計は三分ズレている」


 そういった瞬間、この教室のドアが勢いよく開き、交代した先生と、朔と入れ替わり体育間の容疑室で換金されていた湊が入ってきた。


 タイムリミットの五分はとっくに過ぎていた。





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