第2話 七月二十七日 文化祭
ーーーーーーーーーーーー1年前ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
幹人とは高校で出会った。
最初に仲良くなったきっかけは、アニメだった。
「『誰が傭兵を殺したか』見たんだろ?めっちゃおもしろくね?」
「うん、昨日一気に観ちゃった。お前のオススメ、やっぱハズレないわ」
「ふふん、もっと紹介してやるから覚悟しとけよ!」
そうやって、昼休みも放課後もアニメやゲームの話ばかりしていた。
幹人は、どこか子供っぽくて、でも人を引きつける何かがあった。
「ところでさ、文化祭の話、聞いた?」
「え、文化祭?」
「あーもう、湊!来週だぞ、来週!テーマは『魔法』!」
富崎高校では今年から文化祭が毎年開催されることになり、1年生の湊たちにとっては初めての参加だった。
テーマは生徒の投票制で決まり、今年は「魔法」に決定していた。
「テーマが魔法なら、いろいろ盛れるな〜。衣装とか魔法演出とか……」
「おいおい、妄想だけで済ませるなよ? アイディア、ちゃんと一個は出せよな?」
「善処します……」
図星だった。けれど、幹人の前では自然と笑えた。
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文化祭当日、湊は部活のシフトを終えたところだった。
廊下で待っていた幹人が、目を輝かせて言った。
「湊! 陸上部のワッフル食ったか? めちゃくちゃ美味いぞ!」
と目を輝かせて言う
「まだ。で、どこから回る?」
この質問を待っていたかのようにニヤリと笑い言った
「ふふん、お前は“浅羽先輩”って知ってるか?」
「……あの、“可愛い”って噂の?」
幹人はにやっと笑うと、「正解!」と指を立てた。
幹人と湊は三年生の教室へ向かう階段を下がりながら話した
「今から、三年五組の“魔法のギャンブル”行くぞ。ワンチャン会えるかもだし!」
とスキップをこれからするのではないかと思うほどに上機嫌に言った
「え、いやいや、一年が三年の教室って……普通に気まずいって」
と言ったがもうすでに3年生の教室がある階にはついてしまっているので少し言うのが遅かった
「は? ここまで来て引き返す方が気まずいわ!もう、目と口の先だぞ!」
「……それ、目と鼻の先、って言いたかった?」
「細けえことはいいんだよ!」
内心では焦りながらも、湊は観念して幹人の後ろをついていった。
しかし教室には、浅羽先輩はいなかった。
代わりにあったのは、3年生が考え抜いたトリック満載のカードゲーム。
幹人は「ま、こういうのも思い出だな」と言って笑った。
3年生の教室をでて、少し外のベンチで休憩をしようと中庭に行った。
そしたらすでに湊とそっくりな先客がいた。
「おい、湊」
と幹人は声を潜めて言った。
「お前にそっくりな人が座っているぞ。もしかしてドッペルゲンガーか?」
「違うよ。あれは僕の双子の兄さん」
「あ~、そういえば双子の兄がいるって前話していたな」
と会話に気がついたのか湊の兄である朔は顔を上げ、こちらを向いた。
「幹人、この人は僕の双子の兄である朔です」
と朔のことを紹介した。
「あっ、どうも幹人です」
「九重 朔だ。よろしく」
と幹人の挨拶に対しぶっきらぼうに答えた。
「朔くんって何組なん」
朔のイメージの悪い挨拶に対し何事もなかったかのように質問をする。その姿を見て湊は(こういうとこを気にしない幹人なら朔とうまくやれるかな?)と思ったりした。
「一年一組だ。」
またしてもぶっきらぼうに答えた。
「そうなんだ〜。一組には知っている人はいないな〜」
と残念そうに言った。
幹人は、朔と同じクラスメイトの話をしようとしたようだが、失敗したらしい。しかし、朔の性格上クラスメイトで仲良くしていたり、興味を持っている人など皆無だと思うため、一組に幹人の知っている人がいたとしても「〇〇って知ってる?」と幹人が話しかけたところで「知らん」と返ってくることが目に見えている。そんな気まずい空間を作らないためにも湊が話題を作ることにした。
「兄さん、今まで何してたの?」
「この文化祭が終わるまでに本を一冊読み切ろうと思ってな
。しかし、人が多くてそれどころじゃないな」
と本を閉じた。
「朔さんは模擬店回んなくっていいんすか?」
と幹人が訪ねた。
「良いんだ。あまりこういう空間は得意じゃない。」
「確かに。兄さんは人が多いとこ苦手だもんね。じゃっ俺は幹人と一緒に回って来る」
そう言って会話を断ち切った。
人混みの中に進んでいく2人の背中を朔は見送り再び本に目を落とした。
それからいろいろなとこを巡っているうちに、辺りはすでに暗くなり始めてきた。
「湊、もうそろそろかな?」
ワクワクした声で聞いてきた。
時計に目をやった。時刻の針は7時55分を指していた。
「そうだね。あと五分ぐらいかな」
文化祭の最後は盛大な花火で締めくくられる。この花火が文化祭の目玉であるため、たくさんの生徒が目を輝かして夜空を見ていた。
時計の針が一つ動いた。
「あ〜楽しかったな。またいろいろなとこを見て回ろうな!」
また、時計の針が一つ動いた。
「そうだね。今度は売れきれて買えなかったワッフルに挑戦したいな。」
時計の針が一つ動いた。
「あっ!確かに。湊は買えてなかったな。今度一緒に食べような!」
そう幹人が言った瞬間、ドォーンと大きな音を立てて花火がなった。
その花火は赤、青、黄色と美しく輝いていた。
そんな花火を二人は何も発しず、静かに見守った。
これが幹人の人生で最初で最後の文化祭の終わりであり、これから幹人が死ぬ約一年前の出来事だ。
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