第3話
承知しました。
それでは**第2
まずは【1/3】から始めます。
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第2話 《調和者の目覚め》
【1/3 - 成人の儀式】
ミッツフィンガルド暦――エリナス年、第五月。
朝の光が聖堂の窓から差し込み、神聖な白い石を金色に染めていた。
この日は、フェリスにとって特別な日だった。
十五歳の誕生日。
すなわち、「成人の儀式」を受け、正式に“この世界の一人”として認められる日。
白い儀式衣に身を包んだフェリスは、礼拝堂の奥――“精霊の泉”へと向かっていた。
「緊張してるの?」
背後から声をかけたのは、エリスだった。
彼女は、今日は式の補佐役として参列する立場だったが、何より“母”として彼を見守っている。
フェリスは笑った。
「うん……でも、不思議と怖くはないよ。なんだか、“この時”がずっと来るのを待ってたような気がする」
エリスはその言葉に目を細めた。
六年前、そして三年前の幻影――女神メイガスの言葉を、彼女も思い出していた。
“ファイノール”――女神がフェリスにそう呼びかけた理由。
そして今日、その意味がついに明かされるのだと直感していた。
**
式は厳かに始まった。
神父の詠唱のもと、祝福された泉へと少年が歩み寄る。
水面は静かで澄み、まるで世界の奥底へと続くかのようだった。
「フェリス・エリス――」
名が呼ばれる。
「そなたは十五歳を迎えし者として、ホリクスとの“契約”に臨む資格を得た。
いまより五つの属性のもと、己の本質を知り、進むべき道を選ぶがよい」
その言葉とともに、精霊の泉が淡い光を放ちはじめる。
これは「ホリクス判定」と呼ばれるもので、触れた者の内に眠る属性と“共鳴”すれば、光が呼応し、その者の“素質”が明らかになる。
火、水、風、土、金――
通常、共鳴するのは一つ、多くても二つ。
三つ以上となれば「才ある者」、四つなら「奇跡」と呼ばれる。
そして――
フェリスが泉に手を触れた瞬間。
それは、起きた。
泉の奥底から、五色の光が一斉に立ち昇ったのだ。
――五属性すべて。
神父が驚愕のあまり言葉を失う中、光はまるで意思を持つかのようにフェリスの身体に吸い込まれていく。
「これは……完全共鳴……っ! 五つすべてと調和を……!」
ざわめきが走る。
聖堂にいた大人たちが戸惑いと驚愕に包まれる中、ただ一人、フェリスだけが静かだった。
彼には分かっていた。
――これが、女神の言う“時”なのだと。
(続きます → 【2/3 - ファイノールの意味】)
お待たせしました。
それでは**第2
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第2話 《調和者の目覚め》
【2/3 - ファイノールの意味】
泉から昇った五つの光は、やがてフェリスの身体の周囲を巡り、ひとつの環となって浮かんだ。
それは五大属性――火、水、風、土、金――それぞれの精霊たちの意志が、少年の魂と調和したことを示していた。
それは、「調和者(ファイノール)」の証。
神代の時代、世界を崩壊から救った伝説の存在と同じ称号だった。
「ファ、ファイノール……まさか、本当に再び現れるとは……」
神父は震え声でつぶやき、聖典を開く。
そこにはこう書かれていた。
――五つのホリクスすべてと共鳴し、世界の均衡を保つ者、それを“調和者”と呼ぶ。
そして調和者は、女神メイガスの“我が子”として選ばれし存在である――と。
まさか、これが現実に起こるとは。
この数百年、調和者は一人も現れず、ただの神話として語られていたのだ。
だが今、この目の前にいるのは確かに“奇跡”だった。
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フェリスの目は静かに輝いていた。
胸の内に、女神の声が確かに響いた。
『ようやく、この時が来たのね……。わたくしのファイノール。』
それは、あの日々に聞いた声と同じだった。
『貴方は、世界の調律者。歪みを正し、崩れゆく均衡を支える存在。
このミッツフィンガルドに迫る“揺らぎ”に、抗うための光――』
「……僕が、世界を救う……?」
戸惑いとともに、フェリスは言葉を口にする。
だがメイガスの声は、どこまでも穏やかだった。
『違います。貴方がすべてを背負うのではありません。
“調和”とは、導く力。誰かを支え、時に自らも支えられること。
だからこそ、わたくしは貴方を選び、育ててくれる場へと導いたのです』
エリスの顔が脳裏に浮かんだ。
あの優しい笑顔。ずっと手を取ってくれた母のような人。
「……ありがとう、メイガス様。エリス様も、みんなも……」
フェリスの胸の奥に、確かな決意が生まれていた。
神父が震える手で証明の巻物を記し、フェリスへと渡す。
「……汝、五大ホリクスの
その瞬間、五つの光が弾け、フェリスの背後にまるで翼のように広がった。
世界が彼を祝福していた。
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式が終わったあと、エリスはそっとフェリスを抱きしめた。
「本当に……あなたは、選ばれていたのね」
「うん……でも、僕はまだ何も分からない。ただ……ここから始まるんだって思ってる」
エリスは頷き、彼の手を握った。
「なら、きっと乗り越えていけるわ。だってあなたは、どんな時でも光を見つけられる子だから」
それは、母としての信頼と、ひとりの人間としての祈りだった。
(続きます → 【3/3 - 揺らぎの予兆】)
お待たせしました。
それでは**第2
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第2話 《調和者の目覚め》
【3/3 - 揺らぎの予兆】
成人の儀式から数日が経ち、寺院カテドラルの内部では密やかに“噂”が広がっていた。
――調和者が現れた、と。
――女神の選び子が再びこの地に立った、と。
フェリスはその日から“特別な目”で見られるようになった。
礼拝堂の奥で祈るときも、町へパンを買いに行くときも、人々はどこか距離を置きつつ敬意を示した。
だが本人は変わらず、エリスの手伝いをし、孤児たちと遊び、朝にはメイガスへの祈りを捧げる日々を過ごしていた。
「……特別な力を得たって、僕のやることは変わらないよ。今は、みんなと一緒にいるのが一番大事なことだと思うんだ」
エリスはその言葉に微笑みを返すだけだったが、心の奥では何か“ざわつき”を感じていた。
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ある日の夜――。
空が静かに揺れた。
月の光が淡く滲み、風が森の木々をざわつかせる。
フェリスは、夢の中で“声”を聞いた。
それは女神メイガスの声ではなかった。
もっと低く、重く、どこか痛みを孕んだ声。
『ファイノール……我が対、我が影よ。』
一瞬、視界が闇に包まれた。
目を凝らすと、そこには巨大な黒い柱のようなものが聳えていた。
――それは「歪み」だった。
メイガスが口にしていた、“世界の揺らぎ”の源。
“均衡を壊す者たち”――ホリクスの裏側でうごめく、もうひとつの力。
フェリスの身体は動かなかった。
ただ、その闇の前で立ち尽くすしかできなかった。
声が再び響く。
『来るがよい、選ばれし子よ。調和の理が世界に反するなら、我らは混沌として正義を貫こう。』
目が覚めたとき、フェリスの額には汗がにじんでいた。
夢だった――そう思いたかったが、胸の奥で何かが確かに震えていた。
「これは……始まりなんだ」
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翌朝、フェリスはエリスにその夢を語った。
エリスはすぐに「女神の祠」へ向かうよう告げ、二人で聖域の奥へと向かう。
「これは、啓示の続きを得る時かもしれないわ。メイガス様に尋ねてみましょう」
聖域の泉に跪き、フェリスが祈りを捧げると、あのやさしい光がまた姿を現した。
『見たのね、フェリス……“混沌”を』
女神メイガスの姿が、水面に映し出される。
『貴方が目覚めたその日、均衡の封が解かれた。
いま、世界には“調和”と“混沌”――二つの意志が生まれつつある』
フェリスは、問う。
「僕は……何をすればいいの? 何を守るべきなの?」
女神の答えは、ただ一つだった。
『歩みなさい、ファイノール。
貴方が出逢う者たちと共に、選びなさい。
世界の声を聞き、自らの光で照らし出すのです』
そのとき、風が木々をざわめかせた。
ミッツフィンガルドの空が、ゆっくりと新たな時を告げる。
フェリスは小さく息をつき、立ち上がった。
「わかった。僕は、歩くよ。僕の目で世界を見て、僕の手で選ぶ」
そして、少年は一歩を踏み出す。
――これは、調和者ファイノールとしての旅の始まり。
運命に立ち向かう、ひとりの少年の物語がいま動き出す。
(第2話・完)
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ご希望があれば、このまま**第3
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