三つ数えた先に真実があるなら

僕は二までしか数えないだろう


知りたくないのだ一切を


君がどうしたのか

どうして君が


瞳を閉じて耳を塞いでも氾濫する感情


抱き止めた数だけ君の命がのびるなら

いくらでも両腕を広げて待つのに


僕は君のピースでないから

欠けても何も問題ないだろう


哀しむ権利さえない


かといって遠くもない


いっそはじめから知らないでいれたらよかったのに


道端に転がっていただけの小石に八つ当たりして

自己嫌悪


馬鹿馬鹿しい


黒いネクタイを外してポケットに突っ込む


うっすら線香の匂いがするのが嫌で

吸いもしないのに喫煙室に入ってみる


何だよ誰もいねぇのかよ


どうにかしたくて服をまさぐる


あ、


お清めの塩の袋をを手の中で二回跳ねさせて取り出す


服に撒くんだっけなぁ


と思いながら雑に袋を開けて中身を口に放り込んだ


げほげほと咳き込んでも

情けない自分は体から出ていかない


変な小銭の払い方をして水を買う


海の味がする、と思う


夏の味でもある、と思う


息苦しさが首を締める


知りたくなかったよ、何もかも


今さら、君のことなんて知りたくなかった


駅のホームでうずくまるだけうずくまっても

涙は落ちない


蜃気楼に溶けた君が見える気がする


いや、見たいんだ


幽霊になった君を見てみたい


会いたい


何だっていい


ぐしゃりと髪をかき混ぜてクーラーの効かない電車に乗り込む


逃げよう、と思う


走る車体は家に向かっているのに

気持ちだけ逃避行を決めこんで


ぐったりと窓の外を眺める


逃げよう、君と一緒に

君を言い訳にして


僕はずっと卑怯なやつだから


いっそ最後まで貫いてやろう


髪をさらにぐしゃぐしゃにして

意味の無い言葉たちを振り払おうとする


どうして君が


失った言葉こそ大切にするべきだろうに

僕の頭はいつだって無駄でいっぱいだ


揺れる車体

日はまだ暮れてくれない

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