、後



ロマンティックに死にたいわ

とあなたの髪が風に囁く


断頭台のマリーよろしく美しく一礼


ギロチンにはなりたくないわ

と断ったら


むくれっ面であなたに殺されたかったのに、だって


私たち、平凡過ぎるから

こうして物語を捏造している


いつだって二人の間を跳ねる言葉に意味はないのよ


私たち、この服を脱いだら大人になってしまうわね


二度と袖を通せなくなってしまうわね


赤いリボンも結べなくなって


鉛筆を握ることも無くなるのよ


きっと本だって読めなくなるわ


そうして私たち、言葉を忘れてしまうのだわ


恐ろしい、と華奢な腕が身体を締め上げる


桜貝

白磁

黒絹

桃の香り


あなたから連想する美しいもの全てが

あなたに敵わない


天井からシーツに世界が巡る


窓外に桜吹雪


あちらだけ時間が流れているわね


私たちここに取り残されてしまった?


どうぞそうだと応えてね、と瞳がすがりつく


そうだよ、私たちずっとこのままだよ


嘘つき、と罵る割には満足げに息を吐く


何にも持っていないから

二人して命を投げ打ってしまったね


愚か者になれたかしら


きっとなれたよ


そう。


永遠みたいな一呼吸分の沈黙


さようなら、


えぇ、さようなら


友人にも恋人にもなれなかったあなたに

別れを告げる


明日からは着ない服をもう一度だけ着て

順番に部屋を出る

先に部屋を出てしまったから

あなたがどんな顔をしていたか忘れてしまった


最後に出るんだった


外は夏

とっくの昔に桜は散ったのに

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

事の発端 寧依 @neone

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ