第8話 好きなもの
「だめ……
目前の男子生徒。
つい追いつめられるように──
カーテンレールで仕切られたベッドのある場所まで誘い込んでしまったけど。
「……あなたと私は……生徒と保健室の先生」
可愛い顔をしていた。癖のない顔だけど、見る人が見ればかっこいいと思う顔だろう。
逆に言えばみんなそれなりに好感を持つ顔だ。
それに、細身で色白で……肌がつやつやしてる。今の自分にはない若さがそこにある。
かといって──私は先生だ。生徒と付き合うなんて……。
それに湾田君には、もっと素敵な同級生がいると思う。
「そんなこと……どうだっていいじゃないか……!」
さらに、15は年上の私のことを、こんなに熱烈に思ってくれる熱さがある。
「好きだ……保健室の先生……!」
「湾田君……!」
そして唇が近づいてくる。
最近、いつもより派手めな、若い子が使うようなプルプルするリップを付けている。
気に入ってくれればいいけど。
しっとりした唇が気持ちいい。
──舌を絡めて来る。
まだ高校生なのに、凄い上手だ。
若いからこその勢いかな。きっと凄くたぎってるものがある。
ベッドに押し倒される。
「あは……」
凄い体が押し付けられてる。
本人も意図的じゃないだろうけど……きっと身体がそうさせてる。
私がそうさせてると言ってもいいかな……。
熱い刺激が走った……厚い手が太腿の裏を撫でていた。
……未熟な感想だなって思うけど、こういうとき男性を感じる。
大きい手だなって。
手は脚からお尻の方へ──ショーツの生地を撫でて──
スカートの裾が徐々に上がって──
◇
カーテンの隙間から覗く私。大事な部分は湾田君の背中に隠れて見えない。
「──」
ふと、湾田君の動きが止まった。
すごい勢いある感じだったのに……どうしたんだろう。
先生の顔もちょっと不思議そう。それから原因に気づいたのか。
「これは……」
と自分の開いた脚の間を見つめている。
「ワァ!」
突如ベッドの上を降りると、スラックスをずり上げて飛び出る湾田君。
「わっ……!」
カーテンの向こうにいた私の驚いてまた悲鳴を上げた。
スラックスのチャックを閉めながら、保健室を飛び出すと走り去っていく。
「……」
振り返ると、湾田君の背中を見送る私を見る保健室の先生がいた。
ベッドの上で一人、はだけた服──ちょっと間抜けな格好だった。
捲れたスカートの中から覗くのは──カエルのキャラクターが描かれたショーツだった。
股の所に、大きくカエルの顔がある。
「だめ……だったかな」
自分の下着と湾田君が走り去っていった方を、交互に見つめる。
「あー湾田君、カエル苦手だから」
不思議そうな顔で私を見る先生。
「そういえば……いつから見てました?」
やべ……深く聞かれる前に逃げよう。
「別に、カエル好きなら、自分のしたい恰好すればいいと思うよ」
それだけ言い残して、保健室を去る。
校舎の裏口を出たところで──
保健室の先生呼びに行ったのに逃げちゃダメじゃんと気付く。
でもまあ、あの状況じゃ呼びずらいよな。
戻ると華久良は目を覚ましていた。
「あ、富良野さん」
普通に元気そうに私を見る。
「あれ……大丈夫なの? 星野さん」
「え……何が?」
ホントに何の話? って感じだった。
「何がって……倒れてたじゃん、泡吹いて」
「何の話? 倒れてないよ。ほら」
自分の身体を示す華久良。
「あれ……気のせい? ……じゃあ何で私、保健室まで行ったんだろう?」
腑に落ちないまま華久良の隣に座る。
「無事間に合った?」
「何が?」
「お腹痛くなってトイレ行ったんでしょ? 散々ケバブで当たった、ダメケバブだとか言ってたじゃん?」
うんうん頷いてるフレンドリーさん。
「えー……そうだったっけなあ」
「そうだよ……おかしいの、富良野さん」
そう言ってケバブを一口かじる。
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