第9話 妄想はほどほどに

「おーお坊さん。今日も元気?」

 表の通りから歩いてきたのは首から数珠を下げたお坊さんだった。

「ああこの通りさ、フレンドリー。いつもの」

「ヘイお待ち」

 あの人は学校の裏手にある──

「蛙神社の?」

 私の声にこっちを見ると。

「いかにも、蛙神社宮司、兼、僧侶の恵蘭ケイランです」

 帰り道に前を通ると、たまに掃き掃除をしてるのを見かける。

 小さいことは町内会のイベントとかでお世話になってた。

 なんでも継承者がいなくて、近くの大きいお寺の僧侶と兼ねて、神社の宮司もやってるらしい。

「今日も旨そうだ」

「旨そうだじゃなくて、ホントにうまいぜ」

「へっへっへ」

 なんか嫌なノリの会話を交わしてケバブを受け取る。

「フレンドリーさん、あのお坊さんのこと好きなの」

 耳元で華久良がこっそり話してきたので目を向ける。

「いつも会いたくて、わざわざこっちの通り側に店出してるの」

「へー」

「内緒ね」

「うん」

 何こそこそ話してるんだろうと、フレンドリーさんが不思議そうにこっちを見てる。

「ケバブおじちゃん、こんにちは!」

 歩道を走って来たのは、小っちゃいおもちゃの車に乗った小さい子。

 散歩中かな。

「今日も、見守りご苦労さまです」

 フレンドリーさんがしゃがんで敬礼すると、

「うむ」

 と敬礼を返す。

「気を付けてな」

 元から小さいけど小さくなっていく背中に、手を振るフレンドリーさん。

「早く食べないと冷めるよ」

 もう食べ終わってる華久良。

「んー……」

 なんか腑に落ちないけど、腑に落ちたのかな。

 まあいいや。

 存在するはずのケバブに口を開ける。

「ん……美味しい」



「変な妄想してないで手伝ってよ」

「わお」

 ボーっとしてた。

 メスで切り開いた腹が丸まってくるのを、抑えている華久良。

 物言いたげな目線で見てくる。

 ちなみに──もうカエルはカエルの姿をしていなかった。

「今の……聞こえてたというか、見えてた?」

「なんか解剖の準備始めた辺りから、変なこと考えてるなとは思ってたよ」

「……どうだった?」

「私を解剖したり、ねちょねちょにしたり、体調悪くしたりしないでほしい」

「あ…それも聞こえちゃってたか」

「あと、最後のまとめ方が適当」

「妄想だから」

「我慢してたけど、そろそろ終わりね。手伝って」

「うん」

 変わり果てた姿のノノちゃんに向き合うのだった。

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テレパシーで妄想が伝わってた 堀と堀 @poli_cho_poli

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