第7話 妄想
「でも……そんなことしたら普通に殺人になっちゃう……」
生きた人間を解剖するなんて。
「私が……やるよ」
その時眠っていた華久良がやっと目を覚ました。
「私が……やる」
「うちらの話聞こえてたの? 寝たふりしてた?」
「今はそこどうでもいいでしょ」
「君──自分が犠牲になると言ったが、本気か」
「だって──ノノちゃんには、幸せに成仏してほしいもん」
「何言ってるの? 僧侶さんも真面目に聞かないで……そんなのおかしいよ。それにこの中にノノちゃんがいるかも分からないでしょ?」
「いるよ」
指さした先──
さっき眠ってる華久良の顔に落ちてきたカエルだ。
「顔分かるの?」
「私犬いっぱい飼ってるから」
「それ関係ある?」
「動物の顔は見慣れてる」
手を伸ばすとぴょこぴょこ跳ねて来て、華久良の手に乗るノノちゃん──
の口が突然開いたかと思うと、ベールで覆うように華久良の身体が飲み込まれた。
下半身だけ出てる華久良の身体。上半身は巨大化したカエルの口の中。
「えー……めちゃくちゃ恨み買ってんじゃん」
これウチもやばくね。
むしゃむしゃ。
カエルに歯はなさそうだけど、咀嚼されてる。
逃げ出した私……しかし口中の赤い皮膚が立ちふさがって、覆っていくのが分かった。
◇
ここは……カエルの口の中?
湿度が高くて、唾液でねちょねちょしてる。
無臭なのがせめてもの救い。
「せま……」
暗くて見えずらいけど、華久良の身体がすぐそばにある。
ブレザーの隙間でブラウスがびちゃびちゃになってる。少し下着が透けてる。
ヌルヌルした足がスカートの裾から覗いていて、私の脚に密着している。
何となくだけど服が溶けていくのを想像する。
「また意地悪なこと考えてるでしょ」
伝わってしまったらしい。
さっきは強気だったけど、まだ目覚めたばかりで、身体がけだるそうだった。
卵吐いてたし。
トロンとした目をしてる。
「大丈夫?」
暗くて見ずらいけど具合悪そう。
「ここ……なんか息苦しい」
肉の壁が狭まってくるのを感じる。
ここはカエルの喉で、私たちは飲み込まれようとしてつっかえているのかもしれない。
「あーごめん。余計に苦しい?」
壁に押されて体が密着する。
髪まで粘液でぐちゃぐちゃだし、顔も近い。
熱い息が伝わる。
狭いのでちょっと抱きしめるように、手を回さざるを得ない。
「ちょっとボタン外してくれない? ……息苦しい」
「え……」
目の前には生地の張り付いた胸元がある。
リボンを緩めて、上から二つボタンを外す。
「ありがと……楽になった」
下着の上の部分と、少し肌色ものぞいた。
呼吸で胸が上下して、残りのボタンまで弾け飛びそうだった。
「あのさあ……唇当てていい?」
「は……?」
気もそぞろに目を閉じている。息が荒かった。
こんな時に? って感じだろう。
でもさっきから、身体のほとんどが引っ付いていて──
ぬらついた脚も絡まるように、下腹部に当たっているから。
「あは……いいよ」
息を漏らす華久良。
「なんか……楽になりそう」
楽になるのは私の方だろう。
それは自分の感覚と勘違いしてるけど──私の妄想だ。
でもそんなことは置いておいて──
「ン……」
粘液で濡れた胸元に唇を這わす。
「あ……」
くすぐったくいのか息を漏らす。
絡んでいた足を少し、股に押し付ける。
「こっち……」
凄く熱かった。気がおかしくなるぐらい。
そんな状態で、私の顔を口元に寄せる華久良。
私が望んでいたように。
「んあ……」
最初はどうしたらいいか分からなかったけど……徐々に舌を絡めていく。
「な……」
いつの間にか二人の間にある手を、股に寄せる。
袖と肌の隙間を辿って──そこへ。
「んク……」
ちょっと顎を下げないと、変な声が出そうだった。
「助けに来たぞー!!」
どこからか聞こえる声。
次の瞬間一気に視界が開けて、冷気が舞い込んできた。
飛び散るノノちゃんの肉片、ケバブを削ぐ用の包丁を振り下ろしたフレンドリーさん。
「ハー!!」
蛙卵さんの手が青い光を放っている。
それが広がると、ノノちゃんの肉片が霧散していく。
落下する私と華久良。
誰も受け止めてくれなかったので、地面で背中を強打する。
私の上に落ちて来る華久良。
「うー……」
「ぼへっ」
華久良の吐き出した粘液が私の制服にかかる。
まあいいか、もともとヌルヌルだし。
「二人とも、大丈夫か」
駆け寄ってくるフレンドリーさん。
「……いいとこだったのに」
「?」
「いた、何でもない。華久良、華久良? 大丈夫?」
顔が赤かった。開いた襟元、粘液で分かりずらいけど汗かいてそう。
「あー……」
バテテそう。
「おい、起きろ」
頬をペシペシ叩く。
──顔を上げると、うちらを心配そうに見てる、さっきまでいなかったメンバーがいた。
「保健室の先生? と……湾田君だっけ?」
ゆるっとした髪の白衣の女性と、癖のない顔をした青年。
「先生、皆さんに謝らないといけないことがあります」
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