第4話 失神

 チーズみたいなのを振りかけて

「へい、いつものお待ち!」

「ありがと」

 受け取る私、続いて華久良。

「いつものって何なの?」

「ベーシック」

「いつもベーシック頼んでるの?」

「全種類頼んでベーシックが一番だった」

「このフレンドリー・スペシャルも?」

 パネルに書いてあるのを指さす。

「それは名前だけだね」

「言われてるよ? フレンドリーさん」

「名前だけでも……スペシャルにしてやりたかったんです……」

 帽子を取って涙をぬぐう。

「そっとしておいてあげよう」

 近くに置いてある白い椅子に座る。

「美味しい」

「ね」

 流石、好きすぎてケバブ屋を始めただけある。

 空が青いけど、足元には校舎の影が差している。

「あ、パンちゃん」

 トコトコ足元を歩いてくるのがある。

 小さい、子猫ぐらいのサイズのパンダだった。

 頭を撫でる華久良。

「え、普通に受け入れてるけど何この動物」

 華久良の指先に気持ちよさそうにしてる。

「おっきくならないタイプのパンダだよ」

「え……そんなのいたら、ペット界に革命が起こるじゃん」

「フレンドリーさんといつも一緒にいる」

 そのフレンドリーさんは

「フー」

 キッチンカーから出てタバコを吸っている。

「品種改良のたまものだね」

「あんまり本人を目の前にして、品種改良とか言わない方が良いんじゃない?」

 華久良は、パンから肉を摘まんでパンダに少しあげる。

「ケバブおいしいよー!!」

「わービックリしたっ……!」

「おいしいケバブあるよー!!」

 人もいない通りに向かって突然声を張り上げる店主。

 また煙草を吸い始める。

「冷やかしは要らないんじゃなかったの?」

「欲しい気分だったんじゃない? 富良野さんという新参者が来て、思い出したというか」

「何私、久しぶりの新しいお客さん?」

「最近は……私と……もう一人ぐらいしか来ないかなあ……」

 表に出れば、多分、味とミニパンダで人気が出るぜ……?

「俺はケバブ屋を続けるべきだろうか」

 突然会話に交じってくるフレンドリーさん。

「どうした」

「このままケバブ屋だけを続けて……本当にいいのだろうか……」

 遠い空を見つめてる。

「ケバブは好きだ。それは嘘じゃない。でも……本当に好きなことだけを続けていて……それでいいのだろうか」

「……取り合えず、立地変えたら?」

 無反応で空を見上げてる。

「なんかカオス」

 天気と空気は穏やかなのに……


「ん……」

 突然眠そうにしだす華久良。今にも寝落ちしそうに体が揺れるのを、支える。

「え、何? どうしたの?」

「お昼ご飯食べて、眠くなったのかな……?」

「効果出るの早すぎるって」

「おやすみ……」

「ちょっ……」

 手から零れ落ちそうになったケバブを受け取ると──

 完全に私の胸に頭を預けている。

「えー」

 見上げるとタバコを吸っていたフレンドリーさんが目をガン開きにしてプルプル震えている。

「なんかケバブに混ぜた?」

「……睡眠薬の……瓶が何故か空になっていた……まさかパンが……またいたずらしたか?」

 眠った華久良の脚をクンクン嗅ぐパンダ。悶えてる。臭かったのかよ。

「無理だって、パンダの短い手足じゃ無理だって!」

「それか……俺の意識が呆然として、間違えて入れてしまったかだ……」

 長いひげをさすって真相に気づいた探偵みたいな表情。

「まあ、情緒不安定そうだもんね! 睡眠薬飲むぐらいだもんね!」

「まずい……あの残っていた量の睡眠薬を飲めば……命に係わるかも」

「うえ……」

 がくがく震えだして、口から泡を吹く華久良。

「救急車! フレンドリーさん保健室の先生呼んできて?」

「俺、学校の中入ったことない」

「あーそっか……じゃあ私呼んでくるから、救急車頼んだ」

「救急車一台入りましたー!」

「うるせえ!」

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