第6話 氷と剣の激突

北西の森の外れ、開けた草地。


バージッド・ラ・コスタ――バスタは剣を構え、リズを睨む。


彼女の左耳の雪の結晶ピアスが冷たく輝き、薄紫の長袖と黒デニムのショートパンツが風に揺れる。


リズの手には短剣、足元にはガープのレガリアだった金製の万年筆を吸収した痕跡。


フルカスの老執事のような声がバスタの頭に響く。


「若様、ブエルのレガリアは氷と知恵を操ります。リズの短剣と冷気の連携は手強い。まずは動きを観察なさい!」


バスタは剣を握り、叫ぶ。


「お前のそのピアス、俺が奪ってやる! かかってこい、リズ!」


リズはニヤリと笑い、短剣を軽く振る。


「ハッ、いいね、坊や。名前、バスタだっけ? 行くよブエル、準備はいい?」


ブエルの念話が冷たく響く。


「いつでもだ、リズ。フルカスの知識は侮れん。慎重に進め」


リズが動く。


短剣を下から掬い上げるように振り、冷気が刃のように飛来。


バスタは跳んで回避するが、地面が凍り拡がり草が砕ける。


(速え…! この冷気、半端じゃねえ!)少年は剣を上段から振り、リズに向かって突進する。


だが、彼女の緑の瞳が光り冷気が地面から立ち上るように渦を巻く。


バスタの剣が空を切り、リズが横に跳んで短剣を斜めに切り上げるようにバスタの脇腹に狙う。


「っち!フルカス、思考と行動の同時は無理だ指示をくれ!」


「若様、左に下がり、剣を下から振り上げなさい! リズの冷気は直線的。隙を突くのです!」


バスタは指示通り動き、剣でリズの短剣を弾き金属音が響き、リズが後退。


だが、彼女のピアスが輝き、冷気がバスタの足元を凍らせる。


少年はバランスを崩し、膝をつく。(くそ…動きが読めねえ! こいつ、強すぎる!)


リズが笑う。


「へえ、動きがちょっと変わったね⋯フルカスの指示で動いてるんだ。やるじゃん、坊や。けどさ、あたしのブエルはもっと賢いよ!」


ブエルが念話で補足する。


「リズ、少年の剣は鋭い。だが、レガリヤを得てまだ短い経験不足だ。冷気で動きを封じ、懐に入れ」


リズが短剣を振り、冷気が霧のように広がる。


バスタはモノクル越しにリズの動きを追うが、視界がぼやける。


(この霧…冷気で視界を奪ってる!)少年は半回転しながら剣を振り回し、霧を切り裂くが、リズが背後から短剣を突きつける。


「終わりだよ、バスタ!」


「まだだ!」


バスタはフルカスの声に導かれ、後ろに跳ぶ。


剣を横に振り、リズの短剣をかろうじて弾く。


だが、冷気が腕をかすめ、皮膚が凍るような痛みが走る。

(ちくしょう…力の差、めっちゃ感じる! でも、俺は諦めねえ!)



戦闘が一瞬の間を置く中、フルカスとブエルの念話が再び火花を散らす。

 

「若様、時間を稼ぐの息を整えなさい」


フルカスが尊大な口調で切り出す。


「ふむ、ブエル、貴方の冷気は相変わらず見事でございますな。だが、あの王の闘いでは、その知恵もわたくしの策略の前では脆かった。結局、第三者に漁夫の利を奪われたのは、貴方の失態では?」


ブエルの声が冷たく反撃する。


「フルカス、笑止千万だ。お前の知識が過信ゆえに我々は共倒れしたのだ。あの時、お前がもう少し謙虚であれば、勝敗は違っていたかもしれんぞ」


互いに積もり積もった言い分がある様だが、フルカスもブエルも互いを責め合う。


そして痺れを切らしたバスタとリズが同時に苛立ち、剣と短剣を構えたまま声を揃える。


「「昔話の老夫婦かよ!」」


二人はハッとして互いを見やり、目を丸くする。バスタは頬を掻き、リズは短剣を軽く振って笑う。


「ハッ、坊や、センスあるじゃん。けど、こんなとこで気が合うなんて、戦うには惜しいね」


バスタは鼻を鳴らし、剣を構え直す。


「ふん、余計な話はいい! フルカス、黙って指示しろ!」


リズもピアスを指で弾き、続ける。


「ブエル、あんたも昔話は後にしてよ。バスタを倒すのが先!」


フルカスとブエルが一瞬沈黙し、フルカスが穏やかに返す。

 

「ふむ、若様の言う通り、戦いに集中いたしましょう。ブエルの弱点は冷気の連続

使用によるリズの体力消耗。持久戦に持ち込み、隙を突くのです!」


バスタは頷き、リズに突進。剣を連続で振るが、リズは軽やかに回避し冷気を放つ。


草地は凍り、バスタを靴底が滑らないように重心を下げることで動きが鈍る。


だが、少年は歯を食いしばり、剣を地面に突き刺して体を支える。


「リズ! 俺は絶対に負けねえ! お前のピアス、俺が手に入れる!」


リズは小さく笑い、短剣を構える。


「その気合い、嫌いじゃないよ。けどさ、バスタ、あたしも本気出すから!」


リズが跳び、短剣と冷気が同時に襲う。


バスタはフルカスの指示で剣を振り、なんとか冷気を弾くが打ち負け衝撃で後退。


少年の息が荒くなり、フルカスが冷静に言う。


「若様、よく耐えております。冷気を放ち過ぎでリズの動きがわずかに鈍っておりますな。今、反撃の好機!」


バスタは剣を握り直し、リズに突進。剣が彼女の短剣を捉え、初めてリズを後退させる。


だが、リズのピアスが強く輝き、冷気が瞬時に膨張し爆発的に広がる。


バスタは反応しきれずに防御姿勢もとれず、吹き飛ばされ地面に倒れながら転がる。


「くそ…まだ、終わってねえ…!」


リズが大きく息を吐き、短剣を持たない方の手で髪をかき上げると、短剣を構え、近づく。


だが、彼女の瞳が左上を一瞬見る、何かの興味が浮かぶ。


物語は次へ続く。

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