第7話 ライバルの契約

 草地に冷気が漂う季節が此処だけは一面の冬のようだ。


 バスタは地面に膝をつき、剣で体を支える。


 リズは短剣を構え、雪の結晶ピアスが冷たく輝く。


 フルカスの声がバスタの頭に響く。


「若様、立ちなさい! リズの体力が落ちております。今が勝負の分かれ目!」


 だが、リズが突然短剣を下ろし、笑う。


「まあ、いいよ。バスタ、今日はここまでかな。ブエル、ちょっと休憩するよ」


 ブエルの念話が不満げに響く。


「リズ、なぜだ? 少年は弱っている。今なら確実に仕留められる」


「うるさいな、ブエル! あたしが主だよ決めるのはあたし。こいつにちょっと興味湧いたの」


 バスタはブエルとリズの遣り取りの中、立ち上がり息を荒げて剣を構える。

 

「何!? 興味? ふざけんな、リズ! 俺とお前、決着つけようぜ!」


 リズはピアスに触れ、緑の瞳でバスタを見据える。


「決着? ハッ、悪くないけどさ、バスタ、あたしが今すぐお前を倒してもつまんないよ。聞いてよ、面白い話」


 リズは腰に手を当て、話し始める。


「ソロモン72柱のレガリア、知ってるよね? 500年に一度、悪魔の王を決める戦いがあるの。今、その期限が3年後に迫ってる。3年後の満月の夜、すべてのレガリアが集まり、たった一つの王の座が決まる」


 バスタは目を細める。(悪魔の王? 3年後? 何だ、それ…)


「王って…どういうことだ?」


 フルカスが補足する。


「若様、リズの言う通り、ソロモン72柱は500年ごとに王を決めます。勝者は大陸の覇権を握り、敗者は…」


 リズが言葉を引き取る。


「敗者はね、レガリアが破壊されたり吸収されても、100年後に世界のどこかに復活する。ただし、100年間は力を失い、悪魔の意識も途切れる。ガープみたいにしぶとい奴もいるけど、基本的にはリセット。で、王になった悪魔の名前、知ってる?」


 バスタは首を振る。リズは笑う。


「大陸のあちこちに痕跡があるよ。数千年前の王の名を冠した大国、宗教…例えば、東の大国『アスタロト帝国』とか、聖都の『バアル教団』とか。全部、過去の王が所有したレガリヤの悪魔の名前だよ」


(大国…宗教…? そんなでかい話、初めて聞いた…)バスタの胸に野心が燃える。


「じゃあ、俺が王になれば…大陸を支配できるってことか!」


 リズはくすくす笑い、ピアスを弾く。


「その通り、バスタ。けど、王になるには72のレガリアを倒すか、吸収するか、生き延びなきゃいけない。あたしもそのつもり。で、バスタ、あたしお前に興味持ったの。何だかんだ、フルカスの知識とその気合、3年後まで生き残ったら面白そうじゃん」



 リズは一歩踏み出し、バスタに近づく。彼女の声に軽快な挑戦が混じる。


「なあ、バスタ、フルカスとブエル見てるとさ、昔っからいがみ合って、結局漁夫の利でやられちゃってるわけ。あたしたちもさ、ライバルとしてバチバチやり合って高め合えば、第三者に美味しいとこ持ってかれないと思わない?」


 バスタは剣を握り、目を細める。


「ライバル? 漁夫の利を避ける? 何だよ、それ。俺はお前を倒して王になるだけだ!」


 リズは肩をすくめ、緑の瞳を輝かせる。彼女は短剣を軽く振って続ける。


「ハッ、バスタ、熱いね! だから好きだよ、こういう奴。あ、そうそう、リズってのは愛称な。あたしの本名、リーズロット・ハーク・パラフィウム。覚えときな。冒険者ギルドに行けば、あたしの血脈がわかるかもよ? まあ、知っても王の戦いには関係ないけどね」


 バスタは一瞬驚き、鼻を鳴らす。


「リーズロット? 長え名前だな。血脈? ふん、そんなのどうでもいい。俺は力で勝つ!」


 リズはくすくす笑い、ピアスに触れる。

 

「いいよ、バスタ、ライバルってことで、3年後の満月の夜、ちゃんと強くなってあたしと再戦しな。フルカスとブエルみたいに、過去のバカな共倒れ繰り返すの、ダサいじゃん?」


 バスタはニヤリと笑い、剣を構える。


「共倒れ? ふん、俺はそんなヘマしねえ。いいぜ、リズ、ライバルって関係ってやつ受けてやる! 3年後、絶対お前をぶっ倒す!」


 リズは短剣を鞘に収め、バスタに歩み寄ると彼女の緑の瞳が少年を捉える。


「バスタ、約束ね。3年後の満月の夜、生き残ってあたしと再戦しな。もしその時までお前が弱かったら…ブエルと一緒に凍らせてやるよ」


 バスタは歯を食いしばり、剣を構える。


「約束だと? いいぜ、リズ。3年後、俺が絶対にお前を倒して、王の座を奪う!」


 リズは笑い、背を向ける。


「じゃあ、頑張って生き残れよ、バスタ。3年後の満月、楽しみにしてる」


 バスタも剣を下ろし、背を向ける。フルカスが静かに言う。


「若様、リズは強敵ですが、ライバルとしては悪くありませんな。3年後の戦い、わたくしの知識で必ずや勝利を」


 バスタはニヤリと笑う。


「当たり前だ、フルカス。リズも、ガープも、まだ見ぬ奴ら全部纏めて倒して俺が王になる!」


 二人は互いに背を向け、草地を去る。


 風が吹き、冷気と剣の熱が交錯する。


 悪魔の王を決める戦いは、3年後に迫っている。

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