静けさを壊す影、そして“黒衣の薬狩り”

「……フィナ、畑に“暗霊草”が勝手に生えてるんだけど……?」


「え!? そんなの植えてないよ!?」


朝の畑。

俺とフィナは、見慣れない黒紫の葉を持つ植物を見下ろしていた。


これは普通の草じゃない。魔力を吸い、土地を枯れさせる呪草――


《暗霊草(あんれいそう)》

かつて戦場でのみ使われた“黒魔薬草”。


「これは……誰かが“意図的に”植えていったな」


つまり、俺の畑に“仕掛け”られたってことだ。


誰が、何のために――?




◆ 黒衣の影、その正体


その夜。


村の見張りが、畑の周りに不審な影を発見した。


フィナを家の中へ避難させ、俺は静かに裏口から回る。


草の香りが微かに消えた、静かな夜の中。

そこに立っていたのは――


黒衣をまとい、顔を覆った三人の男たちだった。


「ここが“異能の薬草師”か……」


「噂通りだ。あの龍を眠らせ、王女を虜にした力――」


「確保しろ。奴の“調合能力”は、我ら“薬狩り”に必要だ」


「……はあ。ほんとに面倒なことばっかりだな」


俺は、静かに手を伸ばす。畑に植えてある一本の草へ。




◆ 草一本で、十分です


「《カームミント・超覚醒》」


俺が指でなぞるように魔力を流すと、ただのミントが一瞬で変化する。

淡く光り、葉から微かな霧が広がる。


「な……これは……目が……!」


「く、身体が……力が入らん……」


「落ち着きブレンド・戦闘用verだよ。動き止めるくらいなら、これで十分」


三人の男はその場に倒れ、眠るように動かなくなった。


フィナが心配そうに窓から覗いていたが、俺は親指を立てて合図した。




◆ “薬狩り”という組織


翌朝。


王国の騎士団が連行した三人を調べた結果、彼らは**“薬狩り(くすりがり)”**という闇組織の一員だった。


魔術の根幹となる古代薬術を狙い、各地の薬草師を襲っているらしい。


「つまり、俺もその“目標リスト”に入ってたわけか……」


「おにいちゃん……もう安全じゃ、ないの?」


フィナが不安そうに手を握ってくる。


「大丈夫。俺のブレンド、戦闘でも最強だから」


「草で戦うって、やっぱり変わってる……」




◆ 王女からの手紙


その日の昼。

空を飛ぶ鳥が、金の封蝋をつけた手紙を運んできた。


差出人は――アリシア王女。




親愛なるレン様へ


“薬狩り”の件、既に王都にも情報が届いております。


王宮として、あなたの安全を確保するため、

近日中に**“護衛役”を派遣**いたします。


つきましては――

「派遣予定の者、少し性格が破天荒かもしれませんが、どうか見捨てないでくださいませ」


アリシア・エル=ヴェルネスト





「……また、面倒な奴が来るフラグ立ったなこれ」


「しかも“破天荒”って書いてあるの、王女様の自覚あるじゃん……」


俺はため息をついて、今日もカモミールを摘む。


俺のスローライフは――やっぱり、簡単には続かない。


けれど、そのぶん日々は、少しずつ賑やかになっていく。

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