王女様、突然のご来店ですか?
朝。
俺はいつものように、縁側でティーを淹れていた。
今日のブレンドは、初摘みマーナミントと銀葉草のさっぱり系。
スプーン一杯の蜂蜜を加えたら、ほっと肩の力が抜ける香りになる。
「うーん……完璧」
「おにいちゃん、また新しい味作ったの?」
フィナがほうき片手に顔を出す。
「これ、夏限定にしようかなって。“爽やかブレンド・清風”って名前で」
「……またネーミングで遊んでるね」
そう、ここまでは、いつも通りの静かな朝だった。
でもそのあと、
村の広場に金の馬車が突っ込んできた。
◆ 村に響く、王家の紋章
「こ、これは……王国の“太陽の紋章”じゃと!?」
「ま、まさか本当に……王女様!?」
村人たちの声が騒がしい。
俺とフィナも店の前から様子を見ていたら、案の定――
馬車の扉が開き、中から現れたのは……
超美少女だった。
青銀のドレスをまとい、長い金髪が風に揺れる。
完璧すぎる立ち振る舞いに、村人全員が息を呑む。
「はじめまして。私、王国第一王女――アリシア・エル=ヴェルネストです」
「……あー、来ちゃったか……!」
◆ 目当ては、ティー?
王女様は護衛を連れて、俺のハーブ店にやってきた。
「ここが、あの“奇跡の癒し手”レン様の薬草店なのですね……!」
「やめてください、その紹介の仕方。なんか宗教っぽいです」
「ふふっ。私はただ、あなたの作ったポーションとハーブティーに感動しただけです」
そう言いながら、王女様はにこっと微笑んだ。
……やばい、これは何人でも落ちるやつ。
「本日は、私自身が“効果を確かめたい”と思いまして」
「いや、どうぞ。試飲なら、メニューから選んでください」
「はい。では……この“深眠ブレンド・白夢”を」
――よりによって、ドラゴンを眠らせたやつ選ぶかこの人。
◆ 王女、撃沈す
カップに注がれたティーを、王女様は静かにひと口。
「……ふふっ……なんて優しい味……」
「眠れますよ、マジで。覚悟してください」
「ふふ、私に睡魔が――こない……わけが……すぅ……」
バタン。
王女様、その場で完璧な姿勢のまま眠った。
「寝たあああああああああああ!!?」
「おにいちゃん、またやったの!?」
「いや、俺、普通に入れただけなんだけど……!」
護衛たちは大慌てで駆け寄り、必死に王女様を起こそうとするが――
「ふにゃぁ……ふわぁ……まだのむぅ……」
完全に爆睡モードだった。
◆ ハーブ店、大騒ぎ
結局、王女様はそのまま1時間以上眠った。
起きたあと、ぽーっとした顔で言った。
「これは……革命ですわ……」
その日を境に、「レンのハーブ店」は王族御用達として認定されてしまった。
「いやいやいやいや! 望んでない! 目立ちたくない!!」
「でもおにいちゃん、名札に“王国認定”って書き加えてたよね?」
「……いや、なんか……勢いで……」
◆ そして、新たな気配
数日後。
村の周囲で、黒装束の人物たちの影がちらほらと確認され始めた。
「……薬草師を狙う動き、あるようです」
王国の密偵がそう告げたのは、ちょうど俺が“リラックスブレンド”にカモミールを加えてた時だった。
「はぁ……また来るのか、厄介なやつが……」
「おにいちゃん、草でやっつけられないの?」
「草で世界平和できるなら、とっくにしてるよ……!」
俺はため息をつきながら、今日も草を摘む。
たとえ狙われても。王族が来ても。
ドラゴンが寝に来ても――
「俺のスローライフは、まだまだ終わらない」
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