第3話 ここも僕の居場所じゃない
学園を襲った竜を倒すという難題を成し遂げて”しまった”青年、セルフタスク。一度合意してしまった手前、断ることも出来ず学校は彼の入学を受け入れることとなった。
しかし、竜を倒した彼に対する監督者たちの芳しくない反応で、自分が歓迎されていないことを悟ったセルフタスクはもはや自分の目標の実現に対して後ろ向きだった。加えて、肝心の学校も件の竜に襲われた後だから学業どころではなかった。
「それで、あそこの奥にある比較的無事な場所が魔道具管理棟。大小様々な魔道具などの管理が行われているわ。きっと、あなたの興味のあるものも……ちょっと、聞いてる?セルフタスク君」
やや暗い色のさくらんぼのような髪に魔法使いらしい帽子をかぶった、表情にまだ幼さが残る女性教師、アンサ。彼女に復興作業中の学校を案内してもらっていたのだ。
「あ、はい、アンサ先生」
「返事だけはいいんだけど、ね」
呆れた様子で軽くため息をついた。
「あの二人に何か言われたか」
「え、あ、いや……」
セルフタスクは自分の悩みのタネを言い当てられて思わずぎょっと彼女を見る。
「あなたは確か、この辺の子じゃないのよね。そもそもココの人達は競争心が高いの。みんなが躍起になって倒したかったドラゴンを君の……そうそう、魔術彫像、アレで倒したのは、ずるく見えたのかもしれない。あなたが魔力を使えないという話も、一層反感を買ったんでしょうね」
アンサは目を伏せ、軽くため息をついた。
「検査結果は見たわ。魔力の得て不得手はあっても、全くのゼロという人は初めて。今まで苦労してきたんじゃない?」
「あぁ、まぁ……」
「まぁなんにせよ、あなたのやろうとしてることに限らず、人とそりが合わないなんてことはいくらでも起こるわ。学校はそう言ったこととどう付き合うかを学ぶ場所でもあるもの」
セルフタスクは彼女の言葉に静かに耳を傾けていた。そんな彼の肩を掴んで、アンサは続けた。
「それよりも、私はあなたに一つだけ確認しておきたいの……セルフタスク君。君はここで学び、あの魔術彫像を完成させる。君は何のためにそうするの?あの魔術彫像を作る目的は何?どうか、先生に教えて」
「……」
一息置く。
「これは……僕がやりたいと、思ったことです。それで、そうしてできた力の使い道は決まってます」
ゆっくりと伏せていた視線を上げる。
「みんなを守るためです。魔物や、敵から……僕みたいに魔力が使えない雑魚でも、誰かを守れるように」
「本当ね」
「はい」
「信じるわ。信じるから、どうか今後もその言葉に嘘が無いよう行動して。そうする限り、先生はあなたの味方だから」
「……それは、ありがとう、ございます」
「もし嘘だったら、私は、あなたを」
その先を話すことはなかった。
「先生、何か?」
「いいえ。よろしくね、セルフタスク君」
案内が終わり、アンサと分かれて彼が使う宿泊棟へたどり着いた。
「あれー。ルームメイトが迎えてくれるって話だったのにいないー。入っていいのかな……どうしよ」
太陽が沈みかけるまで待っても相手は来なかった。
「もう入るか、部屋バンは聞いてるし」
古い石造りの人気のない建物。微かに差し込む光を頼りに奥へと進むと、聞いていた番号の部屋があった。ドアを開けてみようと手をかけると、それは特に滞ることなく奥へと開いた。
「よっ」
「うおぉっ」
部屋の奥で、くちばしが異様に長い鳥のような仮面の男が腕を組んで壁にもたれていた。
「ノックもなしに入ってきて人の見た目にビビり散らかすたぁとんだ失礼な野郎だな」
低い男の声だった。
「ごめ……て、お前がルームメイト!?約束と違うじゃないか、なんで来てくんなかったの?」
「ん~~~?あー、そうだったわ。わり、忘れてた」
仮面の男はおどけるように両手をあげた。セルフタスクは疲れて両肩をがっくりと落とし、深くため息をついた。
「俺っちはヴィムジーだ。よろしくな」
「……よ、よろしく」
すっと気軽に差し出された手を、セルフタスクは一度仮面の奥に視線をやって、諦めたように握り返した。
リリリリリリリリリリリリリリリ!
学園中を満たす警鐘が彼らの空気に流れ込んできた。
「なにこれっ!?」
「まーた襲撃か。今度はなんだぁ?」
ヴィムジーは開いた窓から上半身を出すように外をながめる。
「お前さん、例のやつ、役に立つかもしれん。準備すっぞ」
「ヴェセルのこと?」
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