第2話 すごいでしょ

 ダルトパーズ。魔力を弾く”魔除けの宝石”トパーズと同じ性質を持つものの、その外観の美しさが大きく劣る鈍い紺色で需要が低く、冒険者が魔法を扱う敵に対抗するために身にまとうマジックアーマーなどに採用される。

「魔法のバリアを破る光線って言うからかなり怖かったけど、あの竜が吐くやつも所詮は魔力による攻撃だったってことだな」

 竜と青黒い巨人がじっとにらみ合う。

 竜が小出しに何度か光線を吐いた。

「やれるな、ヴェセル!」

 握った操縦桿を前に倒し、攻撃にひるまずヴェセルを走らせる。

 ダルトパーズのみで形成された紺色の装甲は、直撃した光線を霧散させた。

 逃げるまいとねばっていた竜はいよいよ自分の技が通じないとして逃げる態勢に入った。翼を大きく開き、周囲の空気が揺れる。

「逃げないでよ!」

 ヴェセルが右足を踏み込む。

「僕はお前を、あそこに入れないんだ!」

 次に出した左足でさらにグッと踏み込み、地面を蹴りながら、飛び上がった竜に向かって右手を伸ばす。


「届い、てェ!」


 伸ばした右手が竜の頭部を五本指で掴む。ヴェセルが竜にぶら下がると、空中で大きくバランスを崩して錐もみ回転しながら落下していく。地面に両者が衝突し、土埃が高く舞う。

 それでもヴェセルは、掴んだ竜の頭を離さない。口も閉ざされたままの竜は苦しそうにうめき声を上げながら魔力を溜める。

「とどめを……そうだ武器はまだ作ってないんだった!どうしてこんな簡単なことに気づかないんだ、僕は!」

 そうして青年が頭を抱えているうちに竜が閉じた口から光線を発しようと睨む。

「いいからくたばれ!!」

 空いている左手で竜の喉を四度突き、最後に右手の力を加圧していく。

 重く響く竜の悲鳴。その断末魔とともに、限界を迎えた竜の頭蓋は破裂し、ヴェセルは返り血を被った。


 ・・・・・・


 状況は終了。青年は自ら作り上げた魔術彫像ソーサリィ・スタチューで見事竜を倒して見せた。

 彼の戦闘を見守っていた学園側の三人が、見るも無残な竜の死体を背に歩いてくるヴェセルに近づく。

(やった……)

 青年はコクピット内で小さくガッツポーズをした後外に出て、名乗った。

「僕の名前……”セルフタスク”です!入学試験、これで及第点くらいはもらえますか」

 セルフタスクと名乗った青年には確かな達成感があった。今までにない充実した感触。魔力ナシだからと舐められていたところ、自作の魔術彫像で皆が頭を悩ませていた竜をバシッと撃破。これはもしかして凄いんじゃないのか、褒めてもらえたりするんじゃないだろうかと内心ウキウキだった。

 教師が恐る恐る口を開いた。

「セルフタスク、君……ですね。それは一体……」

魔術彫像ソーサリィ・スタチューと言います!魔力を動力とし、ダルトパーズ製の装甲で魔法攻撃を弾く、対魔物用の大型魔道具です!」

 張り切って喋るセルフタスクとは対照的に、教師は何か考え込んでいるのか、なかなか言葉が出ない。

「本当に魔法学校に入りたいんですね?」

「え……は、ハイ」

「……わかりました。後ほど手続きについて連絡します。お疲れ様でした」

 会話は淡泊に終わった。教師はやや急ぎ足で去って行った。

 同じく見ていた男女がセルフタスクに近づいた。

「……」

「……は、はじめまして。どう、でした?」

 セルフタスクは恐る恐る女子生徒に声をかけると、きっ、とにらんだ末に、

「なんでもっと早く来てくれなかったの!」

 と怒りとやるせなさを含んだ呪詛を吐き捨てて、去って行った。

 なにがなんだかわからないままセルフタスクがきょろきょろしていると、最後に男子生徒が口を開いた。

「やれやれ、なにやってんだか」

 嫌味な男子生徒は、はぁー、とわざとらしくため息をついて見せた。

「皆が血眼になって倒そうとしていた敵を勝手に一人で倒しちゃって。しかもあんなん、フツー倒せねぇんだし、わかるだろ。この条件は、そもそもお前に”諦めろ”って言ってんの。いくら魔道具が強かろーと魔力ナシはウチの学校にお呼びでねーの。ったく、空気読めねぇのかよ」

 フッ、と最後に鼻で笑って、ポケットに手を突っ込みながら去っていった。

 セルフタスクは、ぽつりと1人その場にヴェセルの前で取り残された。しばらくして、苦し気に口をきゅっと結んだ。

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