第4話 呪われた武器っていいよね

「セルフタスク!お前さん、ほんとに魔法ひとつも使えねーのか」

「ほんとだ!お前は?」

「じゃーん」

 パチッとヴィムジーが指を鳴らすと、火花が出て、電流がほとばしり、水がぴしゃっと落ちる。

「なにこれ」

「ランダム魔法、ってとこだ。てきとーにやると何が起こるかわからない魔法が出るんだ。俺っちはこいつがお気に入りだ」

「はぁ?」

 鳴りやまない警鐘。事態に備えて二人はくだらない雑談を交えながら裏の倉庫にたどり着く。走っていたので少し呼吸を整えながら、中に入る。

 大きな扉は少し開いていた。

「お前さん気ィつけろ。下で見ててやる。さっさと乗るんだ」

 こいつはヴェセルのことまできちんと聞かされてるんだと思いながら、ヴィムジーを背にセルフタスクは目の前の魔術彫像のもとへ進む。台を使って膝立ちするそれのコクピットへと。乾いた足音を立てながら中へ入る。

「うおっ」

 中に入ろうとしたセルフタスクは後ろに転倒し、コクピットから落ちそうになる。なんとか腕でしがみついたものの、彼はまだ危ない状況にいる。

 ゴブリンがいたのだ。彼のコクピットの中をわが物顔で物色していた。

 ゴブリンは目の前で倒れた人間の腹を踏みつけ、手に持った短剣で切り裂こうとする。

「わぁあああー!?」

「”縛る魔法”」

「ギャァッ」

 情けない悲鳴。淡々とした魔法の詠唱。光の鎖に動きを縛られたゴブリンはバランスを崩し、そのままコクピットの外へ転落した。鈍い音で床に叩きつけられる。中にいたかぁ、と緊張感のない様子でヴィムジーがそれを適当に魔法で処理した。

「セルフタスク君!大丈夫!?」

「アンサ先生、と……?」

 入口にいたのは、教師と、入学試験で彼女と一緒に監督していた女子生徒。金髪がなびき、その下にセルフタスクをにらみつける厳しい目が覗いた。

 アンサがヒールを鳴らしながらヴェセルの足元に駆け寄る。その背中を不満そうに女子生徒は腕を組んで見つめる。

 コクピットの入り口と地面からで見合ったまま教師と生徒は叫び合う。

「緊急事態なので説明は後!今後魔術彫像を運用する際には如何なる場合でも監督者を同乗させます!」

「えぇ!?先生!ヴェセルは一人乗りなんです!普通に窮屈で入りませんって!」

「ヴェセル?あぁ!……男の子でしょ!つべこべ言わない!まずやってみせて!!」

 結構無茶苦茶言うなあの先生、とセルフタスクは嫌な顔をした。

 アンサは後ろに立つ女子生徒を指さす。

「監督者として、ルレ生徒を乗せます!」

「えぇ!?」

「えぇ!?なんでわたしが!」

 セルフタスクだけでなく、ルレと呼ばれた女子生徒も驚きを隠せない。

「”投擲の魔法”」

「きゃあっ」

 アンサが詠唱すると、見えない力に掴まれたルレがその場で浮遊する。

「さっさと」

 アンサが髪を揺らしながらビシッとコクピットへ指さす。

「行く!」

「嫌ァあああ!」

 あれこれ言われる前に出てしまえばいいかとコクピットで準備をしていたセルフタスクの元に、悲鳴を上げながらルレが投げ込まれる。

「ごっほ」

 うっかりそのままハッチを閉じる。

「ほら!入るじゃない!」

 アンサは謎に満足そうだった。

「ひゅーひゅー、美少女とそんな狭いところで二人っきり、良かったじゃねぇかよ」

 ヴィムジーが口笛を吹く。

「そんなんじゃないっ」

 魔術彫像の目に空色の光が流れ込む。

「……うぅ、最悪。なんでこんなキツイの!」

「えーっと。僕ちょっと前に寄せて座るから、席の後ろ側にいてくれると助かる」

 セルフタスクとルレは狭い座席のスペースを上手く共有して、前を向いた。

「勘弁してよ!」

「仕方ないわね!」

 視界を投影するスクリーンを下す。少年は操縦桿を握り、少女は彼の肩に手をかけた。

「ヴェセル、出ます!」

 魔術彫像は一歩ずつ前に足を出し、扉を両手で押し開いた。

 学園のあちこちで火が上がっている。

「よーよー、お前さん聞こえるか」

 コクピットの中にいるのに、ヴィムジーの少しうざったい声が聞こえる!

「お熱いとこ悪いが、魔法で話しかけてる。魔力ゼロでも、聞くことはできるのか?」

 ルレの表情が一層険しくなった。

「まぁいい。お前さん、そのでけぇ男に武器は持たせてんのか」

「いや、ないけど」

「俺たちゃ農家のばあちゃんじゃない。まさかモンスターを愛をこめて一匹一匹手摘みしていくわけにもいかねーだろ」

「じゃあどうすれば」

「一個となりの魔道具棟をぶっ壊せ。中にいかれたブツがあるぜ」

「そういうことね……」

 後ろでルレが納得するのを聞きながら、不思議そうなままセルフタスクはヴェセルを建物へ向かわせる。

 こっちだったよな、と恐る恐る壊すそぶりを見せると、ルレがはやくしてよ!と急かした。

 石造りの倉庫をダルトパーズ製の巨腕が破壊する。あたりに瓦礫を散らしながら腕を突っ込むと、中にヴェセルにすら重そうな巨大な斧が顔を出した。

「な、なんだこれ!」

「みっけたか。そいつは過去に先輩方が拾って来た成果物。巨人族の斧だ。そいつは魔法がかかっててな。巨人族以外が触ろうとすると近づくだけで焼き殺しちまうんだ。そいつをつかえ」

「無茶言え!」

「セルフタスク!急いで、時間ないの!」

「あぁもうどうにでもなれーッ!!」

 ヴェセルが手を伸ばすと、斧が辺り一帯に雷を放電する。凄まじい音と衝撃に耐えながら、魔術彫像の手はついにその斧を掴んだ。両手で引っ張り上げる。

「うわあああ!」

「きゃあああ!」

 斧は眠りを妨げられ発狂しているように雷を発し続けている。

「上手くいきそうだな」

 外から見ていたヴィムジーは仮面の下でにやりと笑う。

「斧にかかっているセーフティも所詮は魔法。魔法を弾く装甲を持つヴェセルなら、その危険要素を無視して運用できる。面白いぞ~あいつ」

「独り言にしたって見えてるからな~ヴィムジー!あとで覚えてろよ~!」

 そう喚くセルフタスクの背後で、ルレは目の前で斧からほとばしる雷を、恐怖と好奇心の混ざった表情でじっと見つめていた。

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そして動き出す魔術機械<ソーサリィ・マシン> @wannawritevessel

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